第425話 六辻詠という光

425


「なんだこの資料はっ。亡くなった冒険者の遺族年金を詐欺で奪ったのか!?」

「この写真を見ろ。年端もいかない子供達をさらい、ヨーロッパで奴隷みたいに働かせているじゃないか!?」

「この動画に映っているのは、食肉工場? いや人間をバラバラにして実験しているのか!?」


 日本政府に助力する冒険者組合代表の獅子央ししおう孝恵たかよしと、勇者パーティ〝N・A・G・Aニュー・アカデミック・グローリー・エイジ〟の代表、五馬いつま碩志ひろしが、クーデター軍の犯罪を突き止めて世界中に公開したことで……、元々火がついていた代表代理、六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんに対する疑惑の火は、ガソリンでもぶっかけたように一気に広がった。


「あの愛らしくて抜けているニワトリみたいなうた様が、年金強奪や人身売買、死体改造なんてするものか!?」

「おのれ剛浚、我らをたばかったな」


 六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんは、同盟相手であった七罪業夢と〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟が捕縛されたことで、事実上の勢力首魁となっていたものの、彼がつかもうとした天下は瞬く間に手のひらから失われた。


「諸君らは誤解している。あの小娘、六辻詠は、頼りにならない箱入り娘だったから影武者を立てだけだ」

「「ふざけるな。出雲桃太と共に、最強の元古参勇者ベテランヒーロー七罪業夢ななつみぎょうむすらも打ち破った詠様のどこが頼りないというのだ? 自らが悪業三昧をしたいから偽りの代表を立てた〟の間違いであろう!」」


 剛浚は苦しい言い訳で釈明したものの、〝SAINTSセインツ〟所属の古参冒険者達は反発した。


「先の動画を見るに、あの泣き虫だった詠様は見違えるほどに強くなられた。七罪の精鋭や業夢が変じたドラゴンを相手に一歩も引かない強さは、まさに六辻の勇者に相応しい」

「それに比べて今回のニュース。剛浚はなんという極悪人か。まさに魔王。かくなる上は罪をつぐない、再び詠様の元へ馳せ参じるまでだ」


 詠の面倒をつきっきりでみてきた炉谷道子ほどに重い感情はなくとも、詠に忠誠を誓う古参団員は、すぐさま剛浚の配下きらを離脱して警察に出頭――。


「そうか。僕は新人だから知らなかったけど、詠様って、ビキニアーマーを着ているんじゃなかったのか」

「残念だけど、影武者だったようだな。クソッタレな組織だったけど、あのスンバラシイ姿を見られたことだけはラッキーだった」

「おれ、自首するよ。シャバに戻ったら、本物の詠様にも着てもらえるよう頼んでみる」

「お前は何を言っているんだ!? 動画で見た感じ、あっちも色っぽいから気持ちはわかるけどな」


 六辻剛浚に騙されていたと知った、心ある冒険者もまたクーデター軍を抜けた――。


「チクショウめ、絶対に勝てると賭けたのに。これじゃあ、ブタ箱入りは避けられないじゃないか」

「そもそも私は欧州の企業に雇われて……。いや、剛浚に脅されて奴隷売買に手を染めたんだ」

「そりゃあ実験をやったけど、死体漁りなんて呼ばれるのは真っぴらごめんだ。こうなったら、ありったけの金目のものをもらってトンズラだ」


 そして、剛浚が金でかき集めた手勢、悪人や犯罪者達もついでとばかりに手近な財産を奪って逃亡。

 クーデター軍の戦力は、本拠地である異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火の洞窟〟にある〝三連蛇城みつらのへびしろ〟を除き、事実上壊滅した。


――――――――――

あとがき

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