第368話 吸血竜、ドラゴンヴァンプ顕現す

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「吸血竜ドラゴンヴァンプは、この場の戦力では殺せない。出雲桃太、五馬乂。貴様達は、チェスでいうところの、逃れられない詰み。チェックメイトにハマったのだと思い知るがいい」


 七罪ななつみ業夢ぎょうむ八岐大蛇やまたのおろち・第七の首に喰らわせた八闇はちくら越斗えつとが陰で嘲笑う中、出雲いずも桃太とうたと彼の仲間達の、この日最後の、あるいは一生の最期となる戦いが始まった。


「まずは手裏剣で牽制けんせいして」

「ドロップキックを叩き込み」

「ニャー(桃太君の衝撃波と、乂の風を炎で爆発させる)」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太が石礫いしつぶてをぶつけ、彼の被る仮面となった相棒の五馬いつまがいが飛び蹴りを見舞い、首にマフラーのように巻きついた三毛猫に化ける少女、三縞みしま凛音りんねがトドメとばかりに炎を叩きつけ、三人は颯爽さっそうと竜を倒した。


「GYAAAAA!!」


 が、ハリボテのような竜こそ赤黒い血と霜になって霧散するも、本物の吸血竜ドラゴンヴァンプは空高く飛んでいた。


「え、空蝉うつせみの術?」

「さっき、オレ達が影の使役術シャドーサーバントを破った意趣返しかよ」

「竜になって、新しい能力を得たというの?」


 吸血竜ドラゴンヴァンプは、生贄となった業夢の知識で学習したかの如く、桃太一行を囮で引き付けた隙に上空をすり抜けた。


「業夢さん。俺はここだぞ!?」

「相棒、まずいぞ。ドラゴンになった爺さん、嫌らしいことを考えやがるっ」

「ニャニー(まずいわ。狙いは紗雨ちゃん達みたい)」


 ドラゴンヴァンプは危険な三人との交戦を、敢えて避けたのだろうか?

 彼の学友である焔学園二年一組と、共闘する異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスが、テロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の団員達と干戈を交えていた場所へ、まっしぐらに飛翔する。


「サメーっ。吸血ジイチャンが、吸血竜ドラゴンヴァンプに変身したサメ。サメ映画のボスサメもびっくりのしぶとさサメエエ!?」

「皆さん、紗雨ちゃんの周りに集まってください。〝夜叉ヤクシニーの羽衣〟で防御結界を張ります」

「ヤタガラス隊も協力します」


 桃太の仲間達は、修道服に似たサメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速たけはや紗雨さあめを中心に防衛陣を敷くが……。


「〝砂丘デューン〟を展開。戦闘機能選択、モード〝盾爪シールドネイル〟。防戦するね!」

「咲いて胡蝶蘭こちょうらん。残りの呪符を使って矢上先生と心紺ここんちゃんを支援する」

「術師部隊は、防衛結界の補強をお願いします」


 既に彼や彼女の装備は半壊、術もほつれて、見るからにボロボロだ。


「あーあ、親分も限界だったかねえ」

「そうなる可能性はありましたからねえ」


 そして先程まで紗雨達と交戦していた業夢の部下一同は、総大将がドラゴンになったことに歓声をあげるでもなく、さりとて迎撃に協力するでもなく、くたびれたように座り込んだ。


「ギャハハ。革命ごっこもここまでか。己の命が担保といえ、さんざん親分と遊んだんだ。ここいらが年貢の納め時。非常食としての役割を全うするかね……」

「フフフ。ゲームは負けるリスクがあるから面白いのです。敢えて言うなら、自分の死体を剥製にできないことだけが残念ですねえ」

豊輔ほうすけ。前から言いたかったが、その趣味、ドン引きだわ」

靖貧せいひん。賭け事に弱い癖に執着するギャンブルカスには言われたくないですね」


 最後まで相性の悪かった索井と郅屋、互いを睨みつけるとニイッと口元を歪め――。


「「ギャハハ、フフフ。地獄へ落ちろ!」」


 乾いた笑いを浮かべながら、互いの肩を叩き合った。


「GAAAAAAAAA!」


 そう。吸血竜ドラゴンヴァンプが狙ったのは、桃太の仲間達ではなく、傷ついた業夢の部下だったのだ。


「あばよ、豊輔。喧嘩の続きは……」

「おさらばです、靖貧。地獄でやるとしましょう」


――――――――――

あとがき

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