第五部/第四章 大蛇、第七の首

第365話 利用し利用される悪党達

365


「ああああっ、わしの勝利が、わしの夢が消えてゆく」


 西暦二〇X二年八月一二日黄昏時。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、地球と異世界クマ国を巻き込む大戦を引き起こそうとしたテロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の代表、七罪ななつみ業夢ぎょうむを遂に打倒した。

 〝啜血鬼公せつけつきこうナハツェーラー〟を自称する老いたる犯罪者は若き英雄に敗れ、地団駄じだんだでも踏むかのように暴れたものの、素寒貧すかんぴんとなって吹き飛ばされる。


「……だれか、だれでもいい、わしをたすけよ。はっ」


 業夢は、衝撃のあまり気絶していたのだろうか。

 目覚めると、異界迷宮カクリヨの第九階層、〝木の子の谷〟の外れに落下していて、目の前には長きにわたり苦労をともにした腹心、晴峰はるみね道楽どうらくの姿があった。


「業夢様。お迎えに来ましたぞ」

「おおっ、晴峰、助けにきてくれたのか。まだだ。まだ再起できる。ヨシノの里にはまだ隠している戦力があるし、蛮族どものもう一つの勢力、〝前進同盟ぜんしんどうめい〟にも〝埋伏まいふくの毒〟、スパイを仕込んであるのだ。晴峰が戻ってきたならば、万の軍勢を得たも同じよ。蛮王カムロなどなにするものぞ。ここから巻き返すぞ」


 業夢の歓声を聞いて、ポーカーフェイスの中年男、晴峰はニヤリと悪意に満ちた笑顔を浮かべた。


「七罪業夢。諦めが悪いのは結構だけどね。さすがにカムロをめすぎだろう。里長としての仕事を放り出して陰謀にふけっていたんだから、とっくに目をつけられている。今頃、ヨシノの里は制圧されているよ。そして、お前達が準備した〝前進同盟〟への仕込みは、僕が利用させてもらう」

「晴峰、なにをっ。いや、お前は……」


 業夢の眼前で、腹心の顔がぐにゃりと歪んで変わる。


「他者に化けるコピー能力! 貴様は八闇はちくら越斗えつとか。勇者パーティ〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟と〝TOKAIトーカイ〟は、秘密裏に協力すると約定を交わしただろう。いまさら破る気か」


 業夢の問いに、八闇越斗は、老若男女とくるくると顔を変えながら答えた。


「まさか、協力したじゃないか。その為にアンタ達の姿を変えてやった。でも、七罪ななつみ家が主導するヨシノの乱は必ず失敗すると踏んでいたのさ。これだけ派手に失敗してこそ、八闇はちくら家の計画を隠蔽いんぺいするための良いデコイになるだろう?」

「おのれ詐欺師め、我々を囮にしたのか?」


 業夢は越斗に利用されたと知って、カメレオンのように長い舌を伸ばし、ツバを飛ばして抗議する。


「今、異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火ざんか洞窟どうくつ〟で戦っている、六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんと勇者パーティ〝SAINTSセインツ、援軍として派遣した〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の団員達。〝三連蛇城みつらのへびしろ〟の戦力をまるごと囮にした卑怯者が何を言うのさ?」


 が、越斗はすがりつく業夢を冷酷に一喝した。


同朋どうほうを利用し利用されるのが、お前の望んだ世界だろう? ああ、その顔が見たかった。他人を操ろうとするものほど、操られた時にいい顔をする。〝死を呼ぶ鐘ストリゴイ・ベル〟が、破壊されているのも好都合だ。僕の手でお前を変えてやる。目覚めよ、八岐大蛇やまたのおろち・第七の首!」


――――――――――

あとがき

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