第五部/第三章 吸血鬼軍団との戦い

第354話 分析と対策

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「アハハ、啜血鬼公せつけつきこうナハツェーラーだか、吸血眷属きゅうけつけんぞくモロイだか知らんが、欲望に正直なのはともかく、そうも視野狭窄しやきょうさくでは生きていてつまらんだろう。ざーこざこざこ、雑魚吸血鬼!」

「「ぐぬぬぬっ」」


 西暦二〇X二年八月一二日午後。

 昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹いぶき賈南かなんが挑発すると、落とし穴にはまったテロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の団員達は、真っ赤になって地団駄を踏んだ。


「「おのれ、悪戯好きのガキどもめっ……」」


 しかしながら、怒りのあまり一周回って冷静さを取り戻したのだろうか?

 カマキリのように手を変化させた痩せ男、索井さくい靖貧せいひんと、壺のような機関を背おう丸々した体格の男、郅屋しつや豊輔ほうすけは、冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟を――その中心である焔学園二年一組の研修生達を穴の底から見上げた。


「ギャハハ、お前らのような悪戯っ子どもを見ていると思い出す。俺たちがガキの頃はそりゃあ親父もお袋もうるさかったものだ。慎ましくとも立派に生きなさい、なんてな。だが、貧乏なまま首を吊りかけたところを親分に救って貰ったのさ」

「フフフ。私は裕福だが争いばかりの家に嫌気がさして反社に入ったが、そこで待っていたのも強い奴が優遇されるルールでね。爪弾きにされて殺されかけ、業夢様に救われた」

「「だから気づいたのだ。このままではいけない。我々は既存の道徳も規範も踏みにじり、新しい世界と新しいルールを創り出す。〝吸血眷属モロイ〟の力をわからせてやろう!」」


 索井や郅屋は過去を懐かしむように告げた後、人間と昆虫が混ざったような異形の怪人と成り果てた肉体を誇示するように、力任せに穴を上りはじめた。

 賈南が彼らを落とした穴は、先に交戦した異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの必殺技、三つの竜巻から身を隠すために掘った即席仕立てだ。

 落とし穴は吸血眷属モロイの昆虫めいた装甲のあちこちに傷を刻んでいたものの、完全に戦闘能力を奪うには、いささか深さが足りなかったようだ。


「ちいっ、浅かったか。だが、連中が不幸自慢と言い訳にもなっていない御託ごたくをならべてくれたお陰で、十分時間は稼げた。矢上やがみ遥花はるか、そろそろ情報は集まっただろう。対策を出さんか!」

「はい、やっと分析が終わりました」


 賈南に発破をかけられて、スーツに隠された大きな胸とむっちりとした太ももを弾ませながら駆け回っていた二年一組の担任教師、矢上やがみ遥花はるかが、栗色の髪を束ねる赤いリボンに触れて、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟を彩る紅葉樹や下草に伸ばしていた布生地を引っ込めた。


「〝夜叉ヤクシニーの羽衣〟で解析したところ、〝吸血眷属モロイ〟の霜は、熱で溶かすことで対処可能です。葉桜さん、生徒たちと協力して、谷を燃やさないよう付近を温められますか?」

「我が鬼神具、蛇切丸は戦闘不能ですが、鬼術なら使えます。おまかせを!」

「同じ紗雨ちゃんファンの同志として、協力するぞ」


 七三分けにまとめた研修生、羅生らしょう正之まさゆきと、前髪を伸ばした鴉天狗、葉桜千隼はざくらちはやが、それぞれ仲間の術師と力を合わせて、杖と錫杖しゃくじょうを周囲に向ける。


「「合体術・熱風」」


 ドライヤーのような熱風を引き起こし、異界迷宮カクリヨの第九階層、木の子の谷を覆う、赤黒い霜を溶かした。


――――――――――

あとがき

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