第349話 邪悪なる鈴の音

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「みなさん、気をつけてください。モロイもまた、東欧に伝わる吸血鬼の名前です」


 冒険者育成学校、焔学園ほむらがくえん二年一組の担任教師、矢上やがみ遥花はるかが警告しつつも、自らの武器である栗色の髪を結んだ赤いリボンで迎撃するのを皮切りに――。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたが代表をつとめる冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズと、〝啜血鬼公せつけつきこうナハツェーラー〟を自称する七罪ななつみ業夢ぎょうむが率いる異形の軍勢、〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟は再び激突した。


「へんっ、〝吸血眷属モロイ〟だかなんだか知らないが、一度は倒した相手だろ。お高い蒸気鎧パワードスーツを失って、動きも鈍い。見かけ倒しの再生怪人なんて、この林魚はやしうお旋斧せんぶが叩きのめしてやらあ!」

「「紗雨ちゃんを脅かす悪党めっ。〝戦士ウォーリア〟部隊が相手だ!」」

「クソガキともがああっ、さっきまでの俺たちと思うなよっ。〝傲慢ごうまんの剣〟よ!」


 モヒカンが雄々しい林魚はやしうお旋斧せんぶら、金属製の重鎧で武装した戦士部隊は、物怖じせずに槍と盾を構え――。

 昆虫に変化させた腕で怪力を発揮し、七罪家の〝勇者の秘奥・影の使役術シャドーサーバント〟で作り出した影の剣で斬りつけてくる索井さくい靖貧せいひんを頭とする部隊五〇名を正面から迎撃する。


遠亜とあっち、ブンオー。側面から攻撃をかけるよ」

「BUNOO!」

「支援は任せて。鬼術・長巻改ながまきかいっ」

「〝砂丘デューン〟という砂状兵器と〝式鬼〟を使った高速戦闘は恐るべきものですが、我ら〝吸血眷属モロイ〟は、業夢様が〝さまざまな冒険者の死体〟を実験にかけて作り上げた上位職の極み。その力は蒸気鎧パワードスーツをも上回る!」


 またサイドポニーの目立つ少女、やなぎ心紺ここんと、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平そひら遠亜とあは、八本足の虎に似た式鬼ブンオーに二人乗りして斬り込み、影によって形作られた〝強欲の槍〟を投げつけてくる郅屋しつや豊輔ほうすけ隊五〇名と交戦を開始――。


「位置よーし。術を詠唱するぞ」

「弓矢構え。外道共をもう一度のしてやる」


 焔学園二年一組の生徒たちは、新たに〝吸血眷属モロイ〟の役名を名乗ったテロリスト達を半包囲しつつ、十字砲火を浴びせようとした。


「ぐひゅひゅ。蛮勇ばんゆうよなあ? 我が役名〝啜血鬼公せつけつきこう〟ナハツェーラーと、〝鬼神具・死を呼ぶ鐘ストリゴイ・ベル〟の真価はここからよ。お前たちも我が戦利品として血を抜いて、剥製はくせいにしてやろうか!」


 しかしながら、七罪ななつみ業夢ぎょうむが勝ち誇るように叫び、首に巻きついた鈴を高らかに鳴らすや――。


「な、なんて猟奇的なオッサンだ。あれ、力が抜ける」

「頭が痛い。意識が乱れて、〝砂丘デューン〟を操作できない?」


 鈴の音を聞いた、焔学園二年一組の生徒たちは、まるで電池の切れたラジコンカーのようにがくりと膝をついた。


「今、リボンで回復します」

「林魚君、心紺ちゃん、今、治癒薬を投げるよっ」


 担任教師である矢上やがみ遥花はるかがスーツの袖口からリボンを伸ばして治療の術を使い、祖平そひら遠亜とあが白い蘭が描かれた〝内部空間操作鞄アイテムバッグ〟からレッドポーションを投げてふりまくものの、効果はなかった。


「だめだ、変わらない。音で集中できないだけじゃなくて、郅屋しつや豊輔ほうすけとかいうツボガエル男の振りまく霜が広がって、体に張り付いてくるんだ」

「フフフ、驚きましたか? 業夢様の鈴音と、私の霜は呪いだ。怪我じゃないから、治ることもありません!」

「ギャハハっ。これが〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の連携れんけい、その真骨頂よ」


――――――――――

あとがき

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