第347話 〝啜血鬼公《せつけつきこう》〟ナハツェーラー

347


「〝鬼神具きしんぐ〟、〝死を呼ぶ鐘ストリゴイ・ベル〟よ、響き渡れ。舞台登場ぶたいとうじょう 役名宣言やくめいせんげん――〝啜血鬼公せつけつきこう〟ナハツェーラー!」


 西へと傾きつつある太陽が、紅葉を照らす異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟で――。

 テロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟をべる老人、七罪ななつみ業夢ぎょうむが名乗りをあげて鬼面を被るや、首に巻きつけた鈴が甲高い音を立て、カメレオンに似た猫背の肉体が膨らんでゆく。


「くそ、鬼化するのか?」

「「ええーっ、また〝神鳴鬼かみなりのおに〟ケラウノスや、〝蛇髪鬼へびかみのおに〟ゴルゴーンみたいな怪物が出るのか!?」」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたと、彼の仲間、冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の団員達は、過去に四鳴しめい啓介けいすけくれ陸羽りうといった、鬼に変化した人物との交戦経験があったために恐れおののいた。


「サメーっ。危ないサメエ。葉桜はざくらさん達も下がるサメエ」

「わかりました。紗雨さあめ姫、その着ぐるみの足下はどうにかならないのですか? 先ほどの戦闘で投げ技を仕掛けたとき、裾が開いて足が丸見えになっていました。これは御身の立場を考えるに――」

「説教は時と場合を考えるサメエ!」


 異世界クマ国代表カムロの娘である銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速たけはや紗雨さあめと、防諜部隊ぼうちょうぶたいヤタガラスの小隊長、葉桜はざくら千隼ちはや達も何やら言い合いしつつも一度退いて、防御を固める。


「待て、相棒。名乗りが違うぞ」

「ニャー(若返ってるけど、異形ではないわね)」


 しかしながら、桃太の相棒である金髪の長身少年、五馬いつまがいと、一度は鬼に堕とされて人間に戻り、今は三毛猫に化けた少女、三縞みしま凛音りんねが違和感に気づいた。


「怪物に……ならないだって?」


 そう、鬼面を被った業夢は、カメレオンめいて曲がった背がピンと立ち、しわしわだった肌も青くみずみずしい血色を取り戻したものの、あくまで人間の姿にとどまっていたのだ。


「遥花先生、ストリゴイやナハツェーラーって何かわかりますか?」

「桃太くん。ストリゴイとはルーマニアに伝わる吸血鬼で、ナハツェーラーもまた、ドイツやポーランドなど、東欧に伝わる吸血鬼のことです」


 冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の中核となった焔学園二年一組の担当教師、矢上やがみ遥花はるかが解説すると――。

 親戚の六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんに当主の座を奪われたものの、本来であれば業夢と同じ、八大勇者パーティのひとつ〝SAINTSセインツ〟の代表である少女。六辻ろくつじうた二つのお団子状ダブルシニョンにまとめた赤い髪の下、まるまるとした目を大きく広げてジャンプし、豊かな胸をたゆんたゆんと弾ませながら声をあげた。


「コケっ? 〝啜血鬼公せつけつきこう〟ナハツェーラー? 業夢さんの役名は――〝鬼勇者ヒーロー〟ではないのですか」

「ぐひゅひゅ。六辻詠よ、貴様は世の中のことを知らんようだな。勇者など所詮、愚民どもに利用される存在に過ぎん。そんなことは、親戚の六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんらが好き勝手する為の神輿として使われたお前や、四鳴しめい啓介けいすけが次期冒険者組合代表の座を得るために利用した出雲いずも桃太とうたを見れば明らかだろう」

「「!?」」


 桃太も詠も、若返った老人の気迫に押されて、生唾なまつばを飲み込んだ。

 業夢の逆張りじみたあおりは、奇妙な説得力を持っていたからだ。


「じゃが、わしは違うぞ。わしこそは愚民どもをしつけ、支配する高みにある存在、貴種ブルーブラッドにして貴族ロードなのだ。ゆえに正しき秩序を実現するため、地球とクマ国を革命しよう!」


――――――――――

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る