第344話 ヒーロー、六辻詠

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舞台登場ぶたいとうじょう 役名宣言やくめいせんげん――〝鬼勇者ヒーロー〟!」


 六辻ろくつじうたが、二つのお団子髪ダブルシニョンでまとめた赤髪の頭頂部に浮かぶ光輪を〝鬼面〟に変化させてかぶり、大きな胸をぶるんぶるん揺らしながら宣言するや――。

 彼女の背中から真っ白な翼が生え、革の防具からはみ出そうな胸とお尻を守るように、七色に輝く一二枚の光輪が出現した。


「ほ、本物の六辻ろくつじうただとお? 六辻家め、影武者を立てているから問題ないという話は、嘘だったのか!?」

六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんめっ、本物の当主は閉じ込めておかなきゃだめじやないか!」


 テロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の団員達……。

 特にノコギリのような乱杭歯らんくいばが目立つ痩せっぽちの男、索井さくい靖貧せいひんや、カエルに似た太っちょの男、郅屋しつや豊輔ほうすけといった隊長二人は、同盟相手である六辻剛浚に偽の情報を掴まされていたことが、よほどにショックだったのか、隠していた真相を暴露してしまう。


「コケーッ。貴方達、大嘘つきのオジサマと共犯でしたの!?」


 詠は、七罪家が六辻家と足並みを揃えて彼女を監禁していたことを知り、怒りで顔を赤く染めた。


「コケーッ! でもおかげさまで、我が最愛の執事、出雲いずも桃太とうたさんと運命の出会いを果たすことができましたわ」


 詠の万感のオモイをこめた呟きに、「お兄さんは執事じゃないサメー」とか、「桃太くんは、わたしの生徒ですよ」とか、様々なツッコミが集中したが、彼女はスルッと聞き流して、丸く大きな目に力をこめた。


「ご安心遊ばせ。ダメな親戚の尻拭いはちゃんとします。この六辻詠が桃太さんと共に腐敗した八大勇者パーティを革命し、まともな組織に変えてみせますわ」

「だまれ! 革命の大義も知らぬクソガキが、勇者を名乗るなど三〇年早いっ」

「そうとも、我々は腐った世を変えるために決起したのだ!!」


 索井は乱れた歯を剥き出しにして、郅屋もまた威嚇いかくしようとばかりに大声を張り上げ……。

 血のように赤い色で塗装した蒸気鎧を着る上級職、〝夜狩鬼士ナイトストーカー〟隊は隊長から末端に至るまで影の武器を手に斬りかかってきた。


「コケッ! 昔のチキンハートだった私ならば、気圧されたかも知れない。でも、桃太さんや紗雨ちゃん、焔学園二年一組と旅をして知りましたのよっ」


 されど詠は意に介さず、一二枚の光輪でひとつひとつ影の武器を打ち払う。


「自分達が利益をむさぼるために、女の子を閉じ込めて当然と思う輩。それを悪党と呼ぶのですわ。かつ目なさいっ、六辻が誇る〝勇者の秘奥・空中浮遊フロート〟を!」


 詠は、七罪家の罪科ざいか弾劾だんがいしつつ、白い羽根をバラバサとはためかせて飛翔し……。


「そして貴方達こそが、革命されるべき、〝腐敗ふはいした既得権益者〟であると知りなさい。これが大空を支配するジズの力ですわあっ。〝鬼術・光刃三千こうじんさんぜん〟!」


 詠は自らを守る一二枚の光輪を、数千にも及ぶ光刃に分裂させて解き放つ。


「ええい、〝影の使役技シャドウーバント〟で防ぐんだ」

「簡単に言うな。光の刃が多すぎて、とても防げないっ」

「空中を自在に移動しながら、あれほどの光刃を操るなんて、これが勇者の力なのかっ」


 詠の精密なコントロールにより、流星の如く降り注ぐ光の刃は、索井や郅屋が操る影の剣、影の槍の防壁を潜り抜け、彼らが背負った蒸気機関を串刺しにして、爆散させた。


「コケケっ。吹っ飛べですわあ」

「つ、強すぎる!?」

「ただのお飾りじゃなかったのかあ!?」

「勇者パーティである我々が勇者に討たれるなんてええ」


――――――――――

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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https://kakuyomu.jp/works/16817139557990913699#reviews

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