第45話 鬼神が宿る武具

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 桃太は、精密機械が作動しない異界迷宮カクリヨと異世界クマ国で、〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟の一部団員だけが、銃器を使える理由に勘付いていた。


紗雨さあめちゃん、がい、きっと八岐大蛇やまたのおろちの呪いには、例外があるんだ。義手や義足のような、〝肉体の一部と認識される状態〟なら精密機械であっても動くんだよ」

「なるほど。だがよ、相棒。例外というより、八岐大蛇がわざと作った〝抜け穴〟じゃないか? 伏胤ふせたねって奴、〝鬼の力〟に塗りつぶされて、もう人間とは呼べないぜ!」


 伏胤ふせたね健造けんぞうらしきパンチパーマの人影が、山道を降りてくる。桃太と同じ年齢の研修生であり、陰湿ないじめっ子だった少年の肉体は、鬼の力の結晶たる〝赤い霧〟と〝黒い雪〟で膨れ上がり、いまや身長四メートルを超えていた。

 伏胤は、桃太の親友だったくれ陸喜りくきを殺した犯人、黒山くろやま犬斗けんとと同じように、肉体に銃器を仕込んでいたものの……。

 それは自身の右手首から先を落として、代わりに拳銃をくくりつけるという、義手と呼ぶにも無茶な処置だった。


「乂の言う通りかも知れない」


 そして、伏胤の蛮行ばんこうは彼自身の肉体だけに留まらない。

 彼は〝鬼神具きしんぐ〟らしき、爬虫類はちゅうるいの皮をなめした衣をまとっていたものの、その上に二〇人もの人間の生首をアクセサリのように飾りつけていたのだ。


伏胤ふせたね。お前、なんてことをっ!?」

「いやあああっ」」


 林魚はやしうおら研修生の一部は言葉を失い、心紺ここん遠亜とあら大半のメンバーは悲鳴をあげた。


「カラダヲ、カエシテ」

「コイツヲ、コロシテ」


 生首達はそんな状態でも意識があるのか、パクパクと口を動かし、肺も無いのに言葉を発していた。


「林魚、劣等生、ふせたねを……ぐわああ」


 桃太に陰湿なイジメを加えた最後の一人。モヒカンが目立つ張間はるま聡太そうたの生首も何かを伝えようとしたが、身体の主人に殴りつけられて押し黙る。


「桃太おにーさん。アイツが身につけているのは、イナバの里に封じられていた〝鬼神具きしんぐ〟、〝和邇鮫わにざめ皮衣かわごろも〟サメ!」

「そうか、ウサギっ子二人の両親は管理責任者。だから封印を守ろうと残って殺されたのか。カムロのジジイなら逃げろと命じただろうに!」


 異形となった伏胤健造は、紗雨と乂の推測を裏付けるように高笑いした。


「ギャハハ、なんだよ、そこのサメとヘビのモンスター。まるで見てきたように言うじゃないかよ。その通りダ。俺は〝鬼神具きしんぐ〟を、最強の力を手に入れた!」


 彼の瞳が赤く染まり、黒い雪が肉体を膨張させる。


「そうだ。俺は選ばれたんだ。なのに、腹が減ったんだ。喉が乾いているんだ。だから、俺によこせ。この天下の何もかもを食らって俺が新たな勇者ヒーローになってやる!」

「勝手なことを抜かすな!」


 額に十字傷を刻まれた小柄な少年、出雲いずも桃太とうたは、全長四メートルに及ぶ伏胤ふせたね健造けんぞうの巨体にも怯むことなく、異世界の青い落ち葉を踏みしめて飛びかかった。


「正気に戻してやるよ、鬼憑おにつき!」

「劣等生が、ぶっ殺してやる!」


 桃太と伏胤の拳が激突し、衝撃と鬼の力が爆ぜる音が山道を震わせた。

――――――――

あとがき

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