カクリヨの鬼退治〜追放された少年が、サメの着ぐるみ少女と共に、勇者パーティに逆襲する冒険譚〜

第39話 焚き火にあたって

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　額に十字傷を刻まれて追放された少年、出雲（いずも）桃太（とうた）が、リーゼント頭の元イジメ犯、林魚（はやしうお）旋斧（せんぶ）ら勇者パーティ〝Ｃ・Ｈ・Ｏ　（サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション）〟の団員達の前で踊るや、その効果は絶大だった。

　一〇人の研修生達は、〝鬼の力〟の結晶である〝赤い霧〟や〝黒い雪〟を目鼻口、果ては皮膚（ひふ）からも垂れ流した。

「遠亜（とあ）っち。アタシ達、呉（くれ）学級委員長や出雲君に酷いことをしちゃった。ゴメン、ゴメンナサイ……」

「心紺（ここん）ちゃんを巻き込んだのは私だよ。矢上先生、出雲君、ごめんなさい……」

　追放されて桃太達に協力したサイドポニー娘の柳（やなぎ）心紺（ここん）とショートボブ娘祖平（そひら）遠亜（とあ）も、最初は黒や赤に染まり、やがて透明になった涙を流しながら、桃太と遥花に頭を下げた。

　桃太達が踊っていたのは、わずかに一〇分程度だろう。たったそれだけの時間で、山道を埋め尽くすほどの〝赤い霧〟と〝黒い雪〟が溢（あふ）れ、黄金と白銀の光となって消えていった。

「殺して、殺してよお。殺しちゃったんだ、この手でっ」

「うわああ。もう生きていられない」

　一〇人の研修生達は正気に戻った反動か、犯した罪の大きさに絶望していた。

「出雲、隊長として責任を取りたい。おれが死んで詫びるから、どうか他の隊員の命は助けて欲しい」

　ギリギリで止めたものの、隊長の林魚（はやしうお）旋斧（せんぶ）に至っては、大事にしていたリーゼントを自ら解いて、舌を噛んで自殺しようとしたほどだ。

「捕虜（ほりょ）問題を解決しようとして……」

「なんでこうなった……！？」

　桃太（とうた）と乂（がい）は、混乱してダンスならぬ、てんてこ舞いを踊り始めた。が。

「焚き火を焚きましょう。落ち込んだときは暖かくするのが一番です」

「サメッ、サメエ。イナバの木の花を食べるサメ。お腹が大きくなれば落ち着くサメ」

　栗色の髪を赤いリボンで結び、薄い緑と藍色のフリルワンピースを着た元教師の遥花（はるか）と、サメの着ぐるみをかぶった、銀髪碧眼（ぎんぱつへきがん）の少女、紗雨（さあめ）が、枯れ葉を集めて火をつけたことで、皆の視線が集中し、混乱が鎮まった。

「甘いおやつは疲れを癒やしてくれるの。なつかしい味だわ」

「おかわりもたっぷりあるサメ」

　桃太達はバナナ房にも似た、イナバ樹の花弁（かべん）を焼いたものを食べ、ひと心地ついた。

「舌触りもよくて、本当に美味しい。ホクホクしているのに、熱したアイスクリームみたいだ。紗雨（さあめ）ちゃんのお料理は絶品だったんだね！」

「むふふ、桃太（とうた）おにーさん、もっと褒めるサメエ」

「相棒、サメ子に餌付けされるんじゃない。もっと自分をしっかり持つんだっ」

「香りもいいな」

「おいしい、おいしいよこれっ」

　桃太達が美味しそうに食べる姿を見たからか、それとも焚き火にあたったことで心と体が温まったからか、林魚らも花弁をかじって歓声をあげた。

「それにしても、カムロさんが教えてくれたダンスは凄いものだったんだ」

「ダンスを見ていると、張り付いていたモノが、ごっそりとれちまった」

　桃太や林魚が、衝撃を受けたのも無理はない。

　元勇者パーティ〝Ｃ・Ｈ・Ｏ（サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション）〟の研修生一二人は、桃太と、乂（がい）、紗雨（さあめ）の三人が踊る〝勇者パーティに猛省（もうせい）を促す舞踏（ぶとう）〟を見たことで、体内に巣食っていた〝鬼の力〟が浄化され、正気を取り戻したらしい。

「むふー、ジイチャンを過大評価し過ぎサメ。桃太おにーさんが踊ったから、これだけ効いたサメ。でも、他の人でも呪いを解けそうサメね」

「名前だっていかにも〝パロディ（もじり）〟だしな。相棒を特訓する為の舞踏がこれだけ効くんだ。地球が〝鬼の力〟に呪われても無事な理由がわかったぜ」

「二人とも、真顔でなんてことを言うんだ？　待てよ！」　

「それじゃあ冒険者が携帯端末で〝踊ってみた動画〟とかを見るだけで、大騒ぎになりそうじゃないか。あ！」

　桃太は地面に置いた笈（おい）、箱形リュックの中から携帯端末を掴みだし、林魚と彼の部下達もまた荷物から通信端末を取り出した。

　当然ながら動かない。八岐大蛇（やまたのおろち）が残した呪い、すなわち〝鬼の力〟の結晶たる〝赤い霧〟と〝黒い雪〟の影響で、異界迷宮カクリヨと異世界クマ国では精密機械が動作しないのだ。

「わたしと桃太君が追放された後の二週間あまりで、〝鬼の力〟の汚染が一気に進んだのね。外部と遮断（しゃだん）された環境は、洗脳にも適しているから……。林魚（はやしうお）君達は、どのような生活を送っていたの？」

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あとがき

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