第二章 運命の出会い

第11話 カクリヨをゆく師弟

11


 西暦二〇X一年、一一月九日。

 出雲いずも桃太とうたは、高熱に苦しむ矢守やがみ遥花はるかを抱いて河原を移動中……。

 川の向こう岸にある、ひび割れた勾玉と赤茶けた短剣の上で、空飛ぶサメと黄金のヘビが踊る光景を見て、驚きの声をあげてしまった。


「GUOO!」「GAAA!」「SHUU!」


 額に十字傷を刻まれた少年の声は、異界の最下層にむ怪物達の注目を集めるに十分だったのだろう。

 オオカミに似た体毛と尻尾を生やすトカゲや、ヤドカリめいた巻き貝を背負うカエル、角が生えた大きなイモムシが突撃してきた。


「う、うわああ。まずいっ」


 桃太は遥花の柔らかな身体を抱きしめたまま、必死で石を跳ね飛ばして駆けた。

 不意にダン! ダ、ダン!という発砲音が三連続で響く。

 遥花が跳ねた小石を拾って弾丸に用い、〝夜叉やしゃ羽衣はごろも〟こと、赤いリボンをマスケット銃代わりに使って、桃太の肩越しに射出したらしい。


「GUOO!」「GAAA!」「SHUU!」


 石弾は、オオカミトカゲの尻尾を潰すも再生され、ヤドカリカエルの大巻貝を穿うがつには至らず、イモムシは柔らかな表皮で逸らしてしまう。

 三体の怪物は、威嚇射撃を受けて一瞬だけひるんだものの、すぐに追跡を再開した。


「出雲君、アレらは魍魎もうりょう。山川よりいずる、魔性の獣精じゅうせいよ。貴方ではまだ勝てない。わたしを捨てて逃げなさい」

「いやです!」


 桃太は首を横に振ったものの、春花の熱はいやまして、右足の銃創からは赤い霧と黒い雪のような何かが溢れ出ていた。


「このままじゃ追いつかれるわ。自分でもわかるの、傷口に毒が入ったみたい。わたしは、もう長くない」

「絶対に嫌です!」


 桃太は叫ぶなり、遥花を更に固く抱き寄せて速度をあげた。


「GUOO!」


 されど、人間がヒトならざる化物オニ追いかけっこおにごっこで勝てるはずもない。

 オオカミトカゲは歓喜の雄叫びをあげながら、桃太の背を鋭い爪で引き裂いた。


「リッキーが、命をかけてくれたんだっ」


 桃太は痛みをこらえ、振り向きざまにトカゲの柔らかな腹を蹴り、ふさふさの尻尾を踏み千切って突破する。


「GYAINッ」

「GAAA!」


 更に先回りしたヤドカリカエルが口を大きく開けて、酸のような液体を吐き出すも――。


「こんなところで諦めてたまるかよっ」


 桃太は、切れたトカゲの尻尾をカエルの口内に蹴り入れ、巻き貝との境目にある脳天へかかと落としを叩き込んだ。


「GYABUUッ」

「SHUU!」


 更にイモムシが角を突き出して飛び掛かってきたが――。


「俺は先生を守る。二人で必ず地上に戻るんだ!」


 桃太は横っ飛びに避けることで、カエルがこぼしたよだれ、酸の水溜まりへと突っ込ませて動きを止めた。


「BUOOOッ」

「先生、リボンを借ります。お前たちなんかに負けてたまるかあ!」


 桃太は遥花が握る赤いリボンを伸ばして三体の怪物を巻き取るや、地下川の中へと投げ込んだ。


「GUOO!」「GAAA!」「SHUU!」


 水流は見た目よりも速いようで、三匹の魍魎は悲鳴をあげながら濁流に飲まれて消えていった。

 二人をとりまく赤い瞳と獣の気配はまだまだいるものの、当面の危機はなんとか乗り越えたようだ。


「矢上先生、やりましたよ!」


 桃太は得意満面で、腕の中の遥花に呼びかけた。しかし。


「いずもくん。にげて、わたしを、ころして」

「え、あ、ぐああっ」


 桃太は、予想もしなかった攻撃を受けて悶絶した。

 彼を先程助けてくれた、否、幾度となく命を救ってくれた……。

 遥花の手の中にある赤いリボン、〝夜叉やしゃ羽衣はごろも〟が、コブラの如き大型蛇に変化して、桃太の首すじに牙を突き立てていたからだ。


――――――――

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

連載開始記念として本日も五話、更新いたします。

是非お楽しみください!

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