あなたに最高の一皿を。

音雪香林

第1話 おせっかいだったんだ……。

 高校に入学して、同じクラスになった花蓮ちゃん。

 今夏休みが終わったばかりだから、友達になって五か月くらいかな。予定が合うときは一緒に遊んでいるのだけれど、お昼ご飯をファミレスとかで食べるとき絶対に。


「わたし、カルボナーラ」


 という。ほかのメニューを頼んでいるのを見たことがない。

 私はと言えば、その時々でハンバーグだったりオムライスだったり。


 そしてついこの間、同じ味ばかりでは飽きるだろうと、一口大に切った若鳥のステーキを花蓮ちゃんのお皿に乗っけてしまった。


「ありがとう」


 花蓮ちゃんは相変わらずの無表情だったが、そうお礼を言ってくれたので問題ないと思っていた。

 だが。


「それ絶対余計なお世話だよ」


 家で弟にそのことを話すとそう顔をしかめられた。


「え、そうなの?」


 私は急に不安になって、おそるおそる弟に問いかける。


「そうだよ! 好きな味を好きなように食べてるのに、邪魔が入ったんだから」

「邪魔……私は、飽きちゃうだろうと、親切心で……」


 小さい声でごにょごにょ言い訳をするけれど、弟はまっすぐな瞳で断罪してくる。


「それが間違い!」


 曰く、好きな味だけで構成される幸せな空間に、私の押し付けた若鳥のステーキが入るのは、真っ白な紙に落とされた一滴の墨汁のような「雑味」なのだという。


「謝った方がいいと思うよ~」


 最終的に弟にそうアドバイスされ、私は頷いた。

 頷いたのだが、花蓮ちゃんはもともと無表情が常で感情が読めない。自己主張も少ないし、今までの交流も私の一方的な押し付けだったのかと思うと……話しかけられなくなった。


 花蓮ちゃんは、成績優秀で運動神経抜群で「孤高の百合」とあだ名される人物。入学して一週間経っても友達がいなくて、「あっ、あの子も一人だ!」なんて気安く話しかけちゃったけど身分不相応だったんだ。


 けれど。


「わたし、何かしちゃった……?」


 ある日花蓮ちゃんにそう話しかけられた。


「え?」

「最近話しかけてくれない……」


 花蓮ちゃんは俯いていて、かすかに震えていた。めったに自分から他人に話しかけたりしない花蓮ちゃんが私に声をかけるのにどれだけ勇気を振り絞ったか。


「違うの! 私……私が悪いの、ごめん!」


 私は、自分の一方的な「飽きるだろう」という考えで好みじゃない食べ物を押し付けたこと、それに弟に気づかされたこと、一連に伴って今までの態度も自分勝手なものだったと反省していたことを話した。


「なんだ……そっか」


 花蓮ちゃんは、いつも無表情なのにこのときは顔を上げた瞬間かすかに口角が上がっていた。微笑みというにははかないけれど、たしかに笑んだ。


「弟くんは誤解してる」

「誤解?」


 花蓮ちゃんは頷いた。


「親しくもない人に同じことをされたら、たしかに迷惑。だけど、友達でしょ? 友達はこんな味が好きなんだなって、新しく知ることができるのは嬉しいよ」


 今度は私が「そっか」と胸をなでおろした。


「それに、雑味というよりはスパイスだったかな。いつもと違う味を感じた後で食べるカルボナーラはさらに際立って美味しかった」


 花蓮ちゃんは小首をかしげて、


「またお昼一緒に食べるときは一口頂戴?」


 とおねだりしてきた。

 おぉおお、可愛い!

 これを意識的に技としてやってるんじゃなくて天然なのがスゴイよね。


「うん! 最高に美味しい部分をわけてあげる!」


 私のわける一口で、さらに味をグレードアップさせてあげるね!

 あなたに最高の一皿を。




おわり

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