気まぐれラジオ
六花
本編
「あー、あー、テステス。マイクのテスト中、マイクのテスト中。……ふむ、大丈夫そうだな。じゃあ、とりあえず1曲――」
「ちょっと、アンタ何やってんのよ」
「おわっ!? ……誰かと思えば蓮花か。……何をやってるかなんて見れば分かるだろ?」
「分からないわよ。分かるのは誰も寄り付かない旧校舎の放送室でマイクに向かって1人で喋ってる不審者が目の前に居るって事だけよ」
「幼馴染みにむかって不審者とは失敬な。俺はマイクテストをしていただけだ。マイクがあったらとりあえずマイクテストをするのが世の理だろ」
「どこの世の理よ。私は地球の日本に住む普通の可愛い女の子なの。アンタの住むヘンテコな世界の事を然も当たり前のように言わないでよね、別世界の不審者」
「別世界の不審者って何!? 俺も地球の日本生まれの日本育ちなんですけど!?」
「あら、そうだったの? それは奇遇ね」
「奇遇って……そういう蓮花こそ、旧校舎に来てるじゃないか」
「私の事はどうだっていいでしょ! そんな事よりアンタは態々こんな所に来て何してるのよ? まさか誰も居ない所で独り言を言うのが趣味なんて言わないわよね?」
「そんなボッチの極みみたいな趣味は持ち合わせてねぇよ。ちょっと歌の練習をだな……」
「はぁ……カラオケに行けばいいだけなのに、アンタってホント変わってるわね」
「おいおい、そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか」
「これっぽっちも褒めてないわ」
「そ、そっか……」
「で? 歌わないの? 練習するんでしょ?」
「歌えるかよ! 自慢じゃないけど、俺は音痴なんだ。幼馴染みの蓮花の前でも恥かしくて歌えないほどのな」
「でも、さっきは歌おうとしてたんでしょ?」
「旧校舎なら誰も居ないし、もし聴かれたとしても声だけじゃ俺とは特定され難いからな」
「ふーん」
「『ふーん』って、反応薄いな……」
「だって、毎晩アンタがお風呂で歌っているのが聞こえてくるもん」
「え? マジ?」
「マジよ。アンタの家のお風呂場と私の部屋が近いから嫌でも聞こえてくるのよ。ちょっとは自重してよね。頭に残って私まで音痴になっちゃうでしょ」
「すんません……。じゃ、俺帰るわ」
「ねぇ、何で帰ろうとしてんのよ?」
「いや、もう歌わないから用は無いし」
「はあ? いきなり何を言ってんのよ、アンタは」
「え、でも……」
「歌わないなら暇でしょ! なら、私の助手をしなさいよ」
「助手? 何の助手だよ」
「いいから、向かいに座りなさい! ほら、早く!」
「あ、ああ……ここでいいのか?」
「そこで大丈夫よ。じゃ、始めるわよ! 3、2、1……『気まぐれラジオ』はっじま〜るよ〜!」
「気まぐれラジオ!? 何それ!?」
「テーテーテン、テーテーテン、テーテーテン、ズンチャ、ズンチャ……」
「オープニングテーマは自分の口で言うのか……」
「は〜い、みなさんこんにちわ。ラジオパーソナリティの蓮ちゃん事、蓮花です。この番組は『元気が欲しい』『今、落ち込んでて癒されたい』というあなたの心を離さない陽気なあの子、蓮花が気まぐれで心に寄り添っていく毎週金曜日の夕方に放送している番組です。元気モリモリのそこのキミも聴いてくれると嬉しいので、最後までお付き合い下さいね」
「気まぐれって……」
「という事で、今週も無事に始まりました『気まぐれラジオ』。先程からチラチラと声が入っていて気になってる方もいると思いますので、ちゃちゃーっと紹介しちゃいますね。今日はなんと! 助手として同じクラスで幼馴染みの山田が来てくれました! みなさん拍手! パチパチパチ〜」
「知らないとこでこんな事してたのか、コイツは。それに俺の名前『山田』じゃねぇし」
「ほら、山田。挨拶して」
「あ……どうも。山田じゃなくて、俺は――」
「ではでは〜、山田の紹介と挨拶も終わったので初見さんの為にも私の自己紹介もしちゃいます!」
「最後まで喋らせろよ」
「私は『気まぐれラジオ』のラジオパーソナリティにして超絶美少女JKの『蓮花』です! 『レンレン』とか『蓮ちゃん』って親しみを込めて呼んでくれると嬉しいな! ハート!」
「ハートとか……言葉で表すなよ」
「はーい、何か喋りたいようなのでさっきからブツブツ言ってる助手の山田にも喋らせてあげましょう」
「え、えっと、急に振られても……別に俺は蓮花に話してるだけであって……」
「はーい、とても面白い話ありがとうございました〜」
「面白い話なんてしてないんだけど……」
「山田の面白い小話も終わったのでまずはお便りとリクエスト曲からいってみましょ〜! 今日初の曲は地球のどこかにお住いのラジオネーム『蓮ちゃん大好きっ子』さんからのお便りとリクエスト」
「地球のどこかってどこだよ。あやふやにも程があるだろ」
「『蓮ちゃん、こんにちわ』。はい、こんにちわー。『つい最近、雨の日に道端で転んでお気に入りの服がドロドロになって泣いていちゃいました』。あららー、それはショックですねー。私も同じ状況なら泣いちゃうかも。『その時にどこからともなく悲壮感を煽るような曲が聞こえてきて雨が降るとついつい思い出してしまいます。今週の金曜は晴れとの予報だったので、晴れの日に楽しみしている『気まぐれラジオ』でその曲を聴いて嫌な思い出をリセットしたいと思ったのでリクエストしました』。だ、そうです。偶然にも先日私も同じ事があったんですよー。あの時はマジで転んだ原因となった地面をめちゃくちゃ恨みましたね」
「逆恨みもいいとこだな。地面を恨むなよ。自分のせいだろ」
「という事で、お聞き下さい。『蓮ちゃん大好きっ子』さんからの悲壮感バリバリのリクエスト、曲名『帰り道』」
「お便りとか言ってるけど、これ先週のお前の話だろ……」
「……え? 無い? ……すみませ〜ん、曲が用意出来ていなかったみたいなので一旦CMに入ります。チャンネルはそのまま!」
「おい、蓮花」
「何よ?」
「気まぐれラジオって何だよ」
「その名の通りよ。日本語が分からないの?」
「お前、ラジオやってたのか? いつからだ? っていうか、これマジでラジオ? もしかして俺が歌おうとしてたのも聴かれていたのか?」
「……そんなのどうだっていいでしょ! そんな事より何で曲を用意してないのよ!」
「何も聞かされていないのに用意出来るかよ! それに俺は流れで何だかよくわからない内に助手をやらされてるわけで――」
「あっ! そろそろCMがあけるわ。次はちゃんとやってよね」
「『ちゃんと』って……。そもそもCMはどうやって流してるんだ? まさか、このやり取り自体がCMなのか……?」
「『気まぐれラジオ』! きゅるりん」
「タイトルコールとSEも自分でやるのか……」
「はーい、みなさーん。数十秒ぶり! チャンネルを変えずに待っていられたかな? 『気まぐれラジオ』ラジオパーソナリティの蓮花です。突然のCMでごめんね、てへっ!」
「真顔で『てへっ!』とか言う奴を初めて見た……」
「続いてはみなさんお待ちかね。あのコーナー」
「みなさんって誰だ……あっ、リスナーか」
「蓮ちゃんの『お悩み相談室』。デデーン!」
「なんか毎回、効果音がダサくね?」
「お悩みを紹介する前にサクサクッとスナック感覚でこのコーナーの説明をしちゃいます」
「スナック感覚で説明出来るお待ちかねのコーナーとは……」
「『お悩み相談室』は頂いたお便りの悩み事に対して私、蓮ちゃんが気まぐれで答えていくコーナーです」
「そこも気まぐれかよ。たまったもんじゃないコーナーだな」
「今回は助手の山田も居るので、山田には真面目にしっかりと答えて貰いましょう」
「何で俺がちゃんと答えなきゃいけないんだ? ラジオパーソナリティの蓮花がちゃんとやれよ」
「では早速、1つ目のお悩み相談、いっくよー!」
「人の話を聞けよ」
「ラジオネーム『一生レンレンの幼馴染』さんからのお悩み相談です。『レンレン、こんにちわ』。はい、こんにちわ。『先日、幼馴染の女の子がおねしょをしてその布団を泣きながら干していました。高校生の、しかも2年生にもなっておねしょとか……と思って呆れて見ていたら目が合ったのでつい思っていた事をそのまま言ってしまい、めちゃくちゃ怒られました。僕は幼馴染の事が大好きなので、失言を挽回して幼馴染の機嫌を直すにはどうしたらいいでしょうか? 良いアドバイスをお願いします』との事です」
「いや、これもお前の話だろ。しかも、昨日の」
「これは困りましたねー」
「正確には困ったのは高2にもなっておねしょをする娘を持ったお前の母ちゃんだろ」
「その幼馴染ちゃんは恐らくおねしょをしてお母さんに物凄く怒られたのと寝る前のジュースを禁止されたのでかなりショックだったのだと思います」
「寝る前にジュースを飲んでおねしょとか幼子か! それに見られたのとかはショックじゃねぇのかよ!」
「そこで蓮ちゃんからのアドバイス! 寝る前のジュースを欠かさない幼馴染ちゃんは甘いのが大好きなはずだから、きっと駅前にあるお高いアイスクリーム屋さんのアイスを食べたいと思っています。なので、今週の日曜日に幼馴染ちゃんを連れて行って好きな味のアイスを5つ選べる5段スペシャルを無限トッピング付きで奢ってあげましょう。それで幼馴染ちゃんのご機嫌は直ると思います」
「絶対、幼馴染ちゃんってお前だろ。先月からずっと俺にアイスを奢れって言ってるし」
「では、私からのアドバイスはしたので、折角ですから山田にも聞いてみましょう。山田、どうですか?」
「どうと言われても……見られた事や失言を気にしていないようだから、普段通りに接していればいいと思う。それに今月のお小遣いはあまり残ってないから100円アイスしか奢れないし……」
「はい、ありがとうございました。さて、山田のアドバイスは無視してリクエスト曲へ移りましょう」
「無視するなら何故聞いた!?」
「『一生レンレンの幼馴染』さんからのリクエスト。曲名『週末はアイス日和』です。では、お聞き下さい。…………え? これも無い? …………すみません、またスタッフが曲の用意をしていなかったみたいなので、次のお悩みにいきましょう」
「スタッフって誰だよ。俺と蓮花しかここに居ないだろ。まさか、俺の事か?」
「ちょっとスタッフがうるさいけど構わず読みますね」
「やっぱりスタッフって俺の事か……」
「2つ目は『蓮花のお隣に住む者』さんからです。『蓮花さん、こんにちわ』。はい、こんにちわ。『僕には凄く可愛い幼馴染がいます』。それは羨ましいですね。『いつも一緒に学校の行き帰りをしているのですが、その事で困っている事があります』。困っている事ってなんでしょう?」
「この内容、嫌な予感が……」
「『それは手を繋ぎたいのに恥ずかしくて行動はおろか、言葉にも出来ない事です』。恥ずかしがり屋さんですねー」
「くっ! 気付かれていたのか……いや、待て。これは俺と一緒の悩みを持ってる人という線も……」
「『小さい頃は出来たのに、どうしても今は自然に手を繋げません。どうすれば良いでしょうか? アドバイスをお願いします』との事です。どうですか? 山田」
「ここで俺から先に喋らすとか……うーん。やっぱり恥ずかしくても聞いてみたらどうかな? 幼馴染みとはいえ、いきなり手を繋いだらビックリするかもしれないし」
「はい。自分は出来ないクセにアドバイスだけはいっちょ前のヘタレ山田のアドバイスでした」
「ヘタレって……そうだけどさ……」
「今回は私のアドバイスは無しです。気まぐれなので。自分で何とか考えて下さい」
「これはちょっと聞きたかったのに……」
「では、リクエスト曲へ参りましょう。『蓮花のお隣に住む者』さんからのリクエストで曲名『その手を繋いで』です。…………これも無いの!? ちょっとどうなってんのよ! 山田!」
「やっぱり俺か」
「アンタ以外に居ないでしょ!」
「そう言われても俺は成り行きで付き合わされてるだけだし……」
「もーっ! 次はちゃんとやってよね!」
「次っていつだよ……」
「取り乱しちゃってすみません。曲が無いようなので次のコーナーに行っちゃいますね」
「まだ続くのか」
「続いてのコーナーは……大人気のあのコーナー!」
「大人気? そんなに評判の良いコーナーがあるのか」
「心とお耳を癒して元気を与える『キミへのASMR』のコーナーです!」
「へぇ〜、ラジオでASMRか」
「このコーナーは番組の冒頭で言った『癒されたい』『元気が欲しい』という人に応えていく為のコーナーです。お便りを紹介させて頂いた後にセリフリクエストの『言って欲しい言葉』を私がASMRでお届けします」
「これは気まぐれじゃないんだ……まともなコーナーもあるんだな」
「では、1つ目を紹介しまーす。ラジオネーム『やつれモヤシ』さんからのお便りです」
「聞くからに元気がなさそうなラジオネームだな」
「『蓮花ちゃん、こんにちは』。はーい、こんにちはー。『現在、社会人2年目なのですが、後輩も出来て嬉しい反面、仕事や教育に追われていて上司には怒られてばかりでツラいです』。それはかなりツラそうですね。『そんな中、蓮花ちゃんのラジオを耳にして癒される自分がいました』。これは嬉しい言葉ですね! ありがとうございます! 『そして今回、ちょっと欲を出してセリフリクエストをさせていただきました。もし、言って貰えたら来週からの元気が湧いてくるのでお願いします』。との事です。お便りの内容から察するにかなりまいっちゃってるようですね」
「社会人って大変なんだな」
「そうですね。という事でヘロヘロになっている『やつれモヤシ』さんが『言って欲しい言葉』をASMRで言いますのでみなさんお静かに!」
「あっ、新たな機材が……どこから出してきたんだ?」
「では、いきます……こほん。『今日もおつかれさま。毎日大変だね。体を壊さないようにね。いつも私のラジオを聴いてくれてありがとう。これからもずっと聴いてね』…………はい! 何だか恥ずかしいですね! 恥ずかしさのあまり最後の方で心の声が漏れちゃいました」
「心の声って……宣伝みたいなもんだったけどな」
「それでは2つ目のお便りにいきましょう!」
「恥ずかしいと言いつつ続けるんだな……」
「2つ目はラジオネーム『干からびたカエル』さんからのお便りです」
「このコーナーに送ってくる人は何か弱々しいラジオネームの人ばかりだな」
「『蓮ちゃん、こんちわー』。はーい、こんちわー。『僕は今、高校2年生なのですが』。あらら? 私達と同じですねー。『ウチは貧乏なので家計を助ける為にバイトをしているのですが勉強もしなければならないので大変です。自分では当たり前の事だと思ってやっているのですが少し褒められたいという気持ちもあるので蓮ちゃんにお便りを出しました。蓮ちゃんに褒められたら凄くやる気が出ると思うのでよろしくお願いします』。だってさ」
「同じ高2として気持ちは痛い程わかるけど、どのお便りもちょっと重くね?」
「重いからこそ『元気が欲しい』『癒されたい』ってなるんだと思うな〜」
「確かに……そうかもしれないな」
「ではでは〜。『干からびたカエル』さんの『言って欲しい言葉』を! みなさん静かにして聴いてね! 『いつも頑張ってて偉いね。でも、たまには息抜きをしてもいいんだよ? 少しくらい休んでもいいんだよ。だって、君がいつも頑張ってるって私は知ってるから』。……はわわ! やっぱり恥ずかしいですね!」
「恥ずかしいと言ってる割に今回は宣伝してないじゃん」
「次が最後のお便りとなります。沢山のお便りとセリフリクエストありがとうございました。選ばれなかった方はまた送って下さいね! それではこのコーナー最後のお便りです。ラジオネーム『蓮花様のしもべ』さんからのお便りを読みます」
「かなり崇拝しているのがわかるラジオネームだ」
「『蓮花様、ご機嫌麗しゅうございます』。はい、ごきげんよう。『某は齢40のニートでござる。この度はニート生活を充実させたく、蓮花様の有難いお言葉を授かるべくお便りを送った次第で御座います。ニート生活に疲れきった某をどうか癒して下され』。…………はあ……何これ」
「最後に香ばしいのが来たな。どうするつもりだよ」
「大丈夫! 私はこんなクソ野郎のリクエストにもちゃんと答えるよ!」
「どこが大丈夫なんだ? クソ野郎とか言っちゃってるけど」
「『蓮花様のしもべ』さんからはセリフリクエストがなかったので私がお便りを読んで頭に思い浮かんだ言葉をお届けしますね」
「大丈夫だろうか……」
「それではみなさんお静かに〜。『ニート生活ご苦労さま。今日も生きていられるのはお父さんやお母さんのおかげだから感謝してね。そろそろ出荷されると思うから、早く人間の言葉を覚えようね』。……ふぅ、ちょっとスッキリ」
「トゲトゲしい内容だったな……こうなるのも当然だけど」
「という事で〜、『キミへのASMR』のコーナーはここで終了! CMを挟んで次のコーナーに移りまーす! では、CM!」
「これ、CM入ってんのか? 俺の事を助手やらスタッフって言ってたから、これもやはり俺がやらないといけないのか?」
「そんなのどうでもいいでしょ? っていうか、最後のお便り、キモッ! 鳥肌がおさまらないわ!」
「まぁ、気分のいいものではなかったな」
「たまーに居るのよね。勘違いしてる人間モドキが。あー、キモいったらありゃしない」
「人間モドキって……そんなに嫌ならそういうは事前に弾けばいいだろ?」
「それじゃ不公平じゃない。私は良くも悪くもリスナーには公平でありたいの!」
「数分前の記憶を無くしたのか? 掛ける言葉の内容に公平さが無かったんだが……」
「うるさいわね! ほら、そろそろCMがあけるから準備して!」
「準備って何の!?」
「ジングルとかリクエスト曲とか準備する物が沢山あるでしょ! ずっと私がやってるじゃない! それにCMだって……」
「やっぱりこれがCMなのか。曲に至っては1曲も流れてないんだけど」
「それはアンタが歌えばいいでしょ!」
「何でだよ! しかも、俺が音痴だって知ってるよな?」
「練習だと思えばいいじゃない」
「これ、ラジオだよな? 生放送の」
「それが何?」
「『何?』じゃねぇよ。生放送のラジオなら練習もクソもないだろ。ぶっつけ本番じゃないか」
「別にいいじゃない。練習しても下手くそなんだから」
「そういう問題じゃないだろ」
「で? 準備は出来たの?」
「何の?」
「ジングルとか曲に決まってるでしょ! さっき言ったじゃない!」
「すんません、用意出来てません」
「ホントにアンタは役立たずね! もう曲は無しでいくわ! 他も私がやるから、アンタは上手い相槌をしなさい!」
「頑張るよ」
「じゃ、CMあけるわよ!」
「ああ」
「蓮花の『気まぐれラジオ』。じゃじゃーん! はいはーい、みなさんお待たせ〜! CMも長かったので早速次のコーナーへいきましょう! 続いてのコーナーは〜……デレデレデレデレデレ……キュピーン! 『蓮花の週間ニュース』。じゃんじゃじゃーん!」
「ジングルがダサい!」
「『蓮花の週間ニュース』は今週起こったニュースの中で私が最も印象に残ったトップ3を感想や意見と共に紹介するコーナーです」
「このコーナーは世情も知れて良さそうなコーナーだな」
「早速今週のニュースを紹介していきましょう! 第3位『お父さん、楽しみを奪われて会社を休む』」
「ニュースって、お前のニュースかよ。期待して損した」
「この事件は今週月曜日の夜に起こりました。お父さんは1週間で1番憂鬱な月曜日の仕事を乗り切ったご褒美とその後に控えている休みまでの4日間を頑張る為に月曜日の夜に必ず大好きなカニの高級缶詰を1つ食べます。しかし、あろう事か高級缶詰は買い置きも含めて全て消え去っていました。慌てて探し回り、空になった哀れな缶詰をゴミ箱の中から発見。唯一の楽しみである缶詰を失ったお父さんは泣き崩れて次の日の会社を休んでお母さんに凄く怒られました。山田、どうですか? この事件は」
「哀れというか何というか……落ち込むのはわかるけど、それで休んだら怒られるのは当たり前だと思う。というか、これは事件なのか?」
「厳しい意見ですねー。まぁ、私も同じような意見ですが、お父さんがあまりにも可哀想だったので味方したい気持ちはありました。結局、見て見ぬふりをしましたけど」
「気持ちがあったなら、味方してやれよ」
「味方にならなかった理由はお母さんがめちゃくちゃ怖かったから。それと可哀想だけど、缶詰を私に食べられるような所に保管してるお父さんが悪いと思ったからです」
「お前が食ったのかよ! 悪いのはお前じゃん」
「それでは第2位のニュースへ行ってみましょう!」
「こんなのが後2つもあるのか」
「じゃじゃん! 第2位『お母さん、夕飯前に激怒』」
「お母さんが怒ってばっかりのニュースじゃん」
「これは水曜日の夕飯前に起こった事件です。その日の夕飯は私の大好物、唐揚げ! お母さんが汗だくで揚げている最中、目を盗んで揚げたての唐揚げを1つまた1つとつまみ食いしていき、全部食べた所でお母さんに見つかりました。私が泣くくらいお母さんが怒り、更には私だけ夕飯のおかずは抜きになった事件です。では、山田の意見を聞いていきましょう」
「いや、これは完全に自業自得だろ。何で怒られる事ばかりするんだよ」
「あれ? 山田の声が聞こえない。何でだろ?」
「自分に都合が悪い事は聞こえないふりかよ」
「うーん、ま、いっか。このニュースに対しての私の意見としては完全に無くなる1個手前で逃げておけば見つからなかったと思いますね。そして感想としてはあの時の怒り狂ったお母さんは本当に怖かった……です! あんなに怒らなくてもいいのに……怒りん坊だなぁ」
「怒らせたのお前だから!」
「気を取り直して最後のニュースにいきましょう! 気になる第1位は……ででんっ! 『夜中にお姉ちゃん襲来』」
「結局、ニュースって全部、蓮花家の話じゃん……」
「これは木曜日の夜中に起こったニュースになります。いつものように寝る前にジュースを飲んだ蓮花ちゃん。でも、寝付けない」
「昼寝のし過ぎか? いつも昼休み以外は寝てるし」
「寝付けないのは小腹がすいたから」
「常に腹減ってるな。食いしん坊かよ」
「そうだ! 夕飯前に冷蔵庫で発見した有名店のケーキを食べよう! って事で食後にデザートで出てくると思ってたけど出てこなくてそのまま忘れていたケーキの存在を思い出した蓮花ちゃんはこっそり冷蔵庫へ向かって箱に入っていた1つしかないケーキを食べて小腹を満たして眠りにつきました」
「盗み食い常習犯だな」
「眠りについてすぐに事件が起きました。大学2年生の姉、鈴花ちゃんが部屋に襲来! 寝ている蓮花ちゃんのぷにぷにほっぺにこれでもかってくらい往復ビンタをして叩き起し、夜食にしようとしてたケーキを食べた蓮花ちゃんに小一時間説教。すこぶる怒られた蓮花ちゃんは大泣き。鈴花お姉ちゃんが去った後、泣き疲れた蓮花ちゃんはそのまま眠りにつき、朝起きた時にはおねしょをしていたというニュースです」
「これ、お悩み相談の最初の話に繋がってるのか」
「これは意見というか、もうただただお姉ちゃんが怖かったという感想しかありません。山田もあの怖さをわかるでしょ?」
「俺は鈴花さんに怒られた事ないし、いつも優しい鈴花さんを怒らせるお前は大概だな。というか、どのニュースの事件も全部元凶はお前じゃん。怒られて当然だろ」
「…………はい! 山田が私の味方をしてくれないので『蓮花の週間ニュース』を終わりたいと思います」
「次はどんなコーナーがあるんだろ……」
「という事で、そろそろお時間となってしまいました」
「お? やっと終わりか?」
「次回の『言って欲しい言葉』や『お悩み相談』、リクエスト曲は番組ホームページ『気まぐれラジオ』内のリンクからお願いします。私へのプレゼントやファンレターはリンク下のプレゼント、ファンレターの所から! 注意事項をしっかり読んでちゃんと送ってくださいね!」
「番組ホームページ? ……これか。あれ? 送り先の住所って俺の家の住所じゃね? もしかして俺の個人情報ダダ漏れじゃね?」
「それではみなさん、また来週! お相手はラジオパーソナリティの蓮花と助手の山田でした! 次回も楽しみにしてね」
「……山田じゃねぇけど」
「来週も聴いてね! ばいばーい!」
「ふぅ……終わったか」
「さ、帰るわよ」
「え? あれ? マイク切らなくていいのか?」
「いいのよ。次の番組の人が使うから」
「次の番組の人って何!? ここってラジオ放送するスタジオなのか?」
「うるさいわね。別にアンタは知らなくてもいいでしょ」
「そりゃそうだけど……」
「何? 私と帰りたくないの?」
「い、いや……その……そりゃ一緒に帰りたいけどさ……」
「助手をしてくれたから今日は手を繋いで帰ってあげようと思ったのに」
「え? マジで!?」
「嫌なら私1人で帰るわ。アンタは負け犬のようにトボトボ帰りなさい」
「ま、待ってくれよ! 蓮花! 俺も一緒に帰るからー!」
気まぐれラジオ 六花 @rikka_mizuse
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