File063.黒い鍋

 「エマお姉ちゃん、どんな店に行くんですか?」

 「ふふっ、内緒よ。」

 「お姉ちゃん、まさかあの店に行くの?」

 あの店って、キティお姉ちゃんも知っているのですか?しかもかなり危なそうな感じがするんですが、気のせいですか?

 「お姉様、私達明日の朝が迎えられますか?」

 イリス、怖いことを言わないでください。私も心配になってくるじゃないですか。


 「ここよ。美味しいお鍋のお店よ。」

 ブラックポット、ですか。黒い鍋、まさか闇鍋ですか。ちょっとやばそうな感じがしてきましたよ。

 「エマお姉ちゃん、具材とかは選べるんですか?」

 「何言ってるの、ここは全部お任せのお店よ?」

 闇鍋の可能性が高くなりましたね。危険です。



 「お姉様、こんな暗い所で食事をするんですか?」

 「そうみたいね。」

 「キティお姉さん、本当に大丈夫ですか?」

 「ええ、食べられないものは入ってないはずよ。」

 はずって、怖い発言をしないで下さい。変な物が入っていないことを祈るばかりです。


 「お鍋が来たわよ。誰が1番に食べる?」

 エマお姉ちゃん、楽しんでますね。これは絶対に変な物が入っていると言うことですね。確率から行けば最初にとった方がいいように思いますが、全部ダメって言う可能性もありますね。

 「イリス、先にいただいたら?」

 「あ、アリスちゃん・・・」

 キティお姉ちゃん、何も言わないでください。私も最初の犠牲者にはなりたくないのです。

 「そうですか?それじゃあ先にいただきます。」

 「「「・・・・・・・・・・」」」

 エマお姉ちゃんもキティお姉ちゃんも黙ってイリスが食べるのを待ってますね。もちろん私もですけど。

 「お姉様、美味しいですよ。」

 えっ?美味しいんですか・・・ちょっと信じられませんよ。

 「ほ、ほらね、美味しいお店だって言ったじゃない。」

 エマお姉ちゃん、その驚いたような返事は何ですか?美味しいはずは無いと言った感じがするんですけど。

 「それじゃあ、私もいただきますね・・・」

 お椀に取り分けて食べてみましょう。

 「・・・・・・・・・・」

 イリスはこれを美味しいと感じてるのですか?私には理解できませんよ。なぜチョコロートの味がする鍋なんですか?どうして具に唐辛子が入ってるんですか?

 「味のコントラストが凄いですね・・・」

 「アリスちゃん、素直にまずいって言ってもいいのよ?」

 キティお姉ちゃん、まずいとわかっていてついてきたんですか?

 「キティ、酷いこと言わないで。奇抜だとは思うけど、まずくは無いと思うわ。」

 奇抜だと言うことは認めるのですね。

 「普通に美味しいと思いますよ?」

 イリス、あなたの味覚はどうなっているんですか?何を食べても美味しいと言うんじゃないでしょうね?


 「それじゃあ、みんな一口食べたみたいだし普通の鍋も頼みましょうか。」

 エマお姉ちゃん、それは酷くないですか?普通の鍋もあるならそっちを食べましょうよ。


 「普通の鍋もあるんですね。」

 「もちろんよ、あの鍋だけでは人気店にはならないでしょ?」

 ここって、人気店だったんですか?信じられません。

 いえ、確かに人気店になるかもしれないですね、普通の鍋はものすごく美味しいです。最初の鍋を出さなかったらもっと人気が出るのではないですか?

 「エマお姉ちゃん、この店はどうしてこんな鍋を出してるんですか?」

 「面白いからだって言ってたわよ?」

 「そうなんですね・・・」

 面白いからという理由だけで、この鍋を出すんですか。ちょっと信じられませんよ。



 普通の鍋はとても美味しかったです。もう1度来たいと思いましたよ。最初の鍋がなければですが。

 「エマお姉ちゃん、最初の鍋は食べないといけないんですか?」

 「ええ、あの鍋を食べないと次の鍋を出してくれないの。」

 そうなんですか、どうしても食べないといけないんですね。次来るかどうかは考えておきましょう。



 「エマ、夕飯はどっかで食べてきたのかぁ~」

 マーキスお兄ちゃん、また飲んでるんですか?ロッドお兄ちゃんもですか。

 「ええ、ブラックポットに行ってきたわ。」

 「あそこにアリスちゃん達を連れていったのか?」

 「行ってきたけど、それがどうかした?」

 「アリスちゃん、うちのエマが悪いことをしたな。今回は許してやってくれ。」

 ああ、マーキスお兄ちゃんは連れて行かれたんですね。ちょっと同情しますよ。

 「マーキスお兄さん、どっちの鍋も凄く美味しかったですよ。」

 マーキスお兄ちゃんもロッドお兄ちゃんもその化け物を見るような目で、イリスを見ないであげてください。私も我慢しているんですから。

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