戦訓への対応と揺らぐ天秤
マダガスカル島攻略後、イタリアは戦力の涵養に努めた。
船舶不足は直ぐには解決しなかった為、明日の空母より今日の客船が欲しい海運業界は議会及び陸軍を抱き込みアウグストゥスの改装を拒否。
国民感情と資材配分を背景に成立したサボタージュにはさしもの海軍も勝てず、空母スパルヴィエロは計画のみに終わった。
だが先に改修されているアクィラも資材と経験不足に悩んでおり、労力と資源を分散させるよりは賢明な判断だったと言える。
資材と引き換えに、伸び切った前線から解放した兵や傷病者と本国から交代要員を乗せる船を確保した陸軍も、装備の戦力化は遅遅として進まなかったが各戦線での戦訓を消化しつつあった。
機甲部隊ではKV1対策として火力増強が求められていたが、そもそもの配備数や空軍、砲兵の反対等から量産が軌道に乗った46口径75㍉砲ではなく、同砲に更新され不要となった40口径の75㍉高射砲を転用する事になった。
対峙するソ連は当初から41.5口径の76.2㍉砲であるF-34を装備するKV1やT-34の数が徐々に増加し、友邦の独も4月から43口径の75㍉砲に換装しており、想定以下ではあったものの漸く総合性能では互角になったのである。
お下がりの75㍉砲は90㍉高射砲より軽いとはいえ重量が3.3t有り、牽引出来る車両が限られた為自走化は当然の流れと言えるだろう。
尚最大5tの牽引能力を持ち、前年に採用されたTM40砲兵トラクターは騒音と排熱が酷い為鋼材と引き換えにドイツへ提供。
元は農業用トラクターだった為、装輪式にも拘わらず不整地でも走破性が高く、冬の東部戦線では排熱は問題にならず他の車両を尻目によく活躍した。
同級である独のSd Kfz 6は生産性が低かったので、不満点の騒音を補って余りある総合性能のTM40を独側は歓迎したという。
最高速度はSd Kfz 6の50kmから43kmに落ちたが、そもそも悪路では速度低下は問題にならなかった。
寒さと土が緩み泥濘期も終わるとTM40は北方に引き抜かれたが、抽出後の南部戦線は敵の後背ペルシャ回廊を伊日で寸断済みの為、レンドリースされた戦車が居らず枢軸側が優勢だった。
伊空軍は4月にマッキ205とG.55の初飛行を済ませ不具合の洗い出しの最中だったが、スエズ爆撃以降英軍の動きは低調だった為搭乗員の損失も許容範囲で済んだ。
東洋艦隊の生き残りはアッドゥ環礁及び豪州を拠点としていたが、ソロモン諸島で日本軍の飛行場を発見した事から米豪遮断を恐れてペルシャ回廊の啓開は延期され、日本軍牽制の為アンダマン諸島に在ったのである。
8月以降から連合軍の反撃が始まり、9月になると独からディエップの戦いで鹵獲したチャーチル戦車や6ポンド砲の要目が伝えられたが、既にKV1シリーズや各種砲と交戦中の枢軸国からすれば、貫通力が乏しく榴弾の撃てないチャーチルや25ポンド砲及びZis-2未満の対戦車砲は少し厄介な相手でしかなかった。
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