鏡の中の『私』に恋をしてしまった『僕』の物語。
ギリシャ神話のナルキッソスとエコーの逸話、その現代版、あるいは超訳のようなお話です。
ナルシシズムの語源であるナルキッソス。
しかし本作の主人公の抱える問題は、いわゆる自己愛や自己陶酔の類とは異なるのが特徴的。
おそらくは性自認が男性と思われる『僕』が、自分自身の『女性としての肉体(私)』に恋愛感情のような気持ちを抱いてしまう、というもの。
自分自身ではなく、はっきり明確に「鏡に映った自分」を対象としているところがとても印象的でした。
あまり詳しくないのですけれど、おそらく原典に準拠した形という印象。
終わり方が好きです。
ちょっとネタバレっぽい感想になってしまいますが、一応形としてはハッピーエンドになっているところ。
さりとて課題が解決されたわけではないため、むしろより一層危うくなった、とも解釈できてしまう点も含めて好き。
ややこしく複雑な悩みの、何か業にも似た重苦しさが魅力のお話でした。