別にあなたの事をライバルとは思ってないけど?

「ねえねえ勇凛」

「なんだよ」

「今日はなんだか騒がしいね」

「そうだな」

「今日はなんだか、風が騒がしいぜ」

「お前はボケないと死ぬのか?」


 当然、ボケないと死ぬなんて病気は存在しない。ただ、キャラクターとしての輝きが無くなるだけだ。

 それは、一般人としては地味な奴として終わるが芸能人からすれば死、同然だ。

 朱奈は一般人なので地味な奴で終わる。個性的なのは髪の毛だけにしておいてくれ。


「にしても今日は騒がしいな。なんかやってるのか?」

「さあ?私もわからん」

「そうか」


 今は昼休み。教室の隅でぼーっと朱奈と話しながら弁当を食べている。

 最近は、イリスが弁当を作ってくれることがある。下ネタ戦車だが、アルテミスよりも家庭的だ。

 それに対してアルテミスは全く料理ができない。

 イリス曰く、アルテミスは自信のあることだけは積極的にやるそうだ。思考が簡単な算数の問題の時しか手を挙げない小学生だ。


「勇凛先輩!助けてください!」

「おっどうした?アテナ?」

「アンタはなんで学校の有名人と仲がいいのよ」

「アテナって有名人なの?」

「ちょー有名人よ。その認識がないのはアンタだけよ。翔平だってしてるのよ?」


 マジかよ!あの野球バカでも知ってんのかよ。自分の交友関係の狭さがバレてしまう。


「早く来てください!大変なんです!」

「大変ってなにさ?もしかして今の騒ぎの事?」

「そうです!綾華先輩と麗子先輩が!」

「え~絶対めんどくさいじゃん。龍之介先輩だって居るじゃん」

「そんなこと言ってないで来てください!」


 補足しておくと、龍之介先輩ってのはナルシスト先輩の事な。


「アテナよ飴ちゃんあげるから、騒ぎを一人で止めてきなさい」

「子ども扱いしないでください!」

「ジュースもあげるから?ね?」

「私をなんだと思ってるんですか!」


 可愛い後輩だよ~なんて言ったらこっちが何されるか分からない。

 ここは黙っておこう。


「行きたくない!行きたくない!行きたくない!」

「わがまま言ってないで来たください!」

「先輩命令だ。一人で解決してきなさい」

「ほら行くぞ、くそ上司」

「お前はこっちの見方じゃないの!?」

「いや、すっごい見苦しかったから」


 やだよ。行きたくないよ。何言われるか分からないし。すっごい皆から睨まれるし。

 騒ぎを止めるって言ったってどうせ、麗子先輩の方が騒いでるだけだし。

 それに、学校一の嫌われ者が学校一の人気者に近づく方が問題だ。

 まだ弁当食べきってないんだぞ?せっかくイリスが作ってくれたのに。食べきらなきゃ失礼だ。

 それに普通においしいしお腹が空いてるから早く食べたい。

 そんな願望は誰にも届かず、改札口を通らされた。

 向かう先は終点、金曜日以外はずれの食堂だ。




 「あそこです!」

 「「うわぁ...」」


 二人が居る場所には他の人は誰も近づいておらず、ぽっかりと穴が開いている。

 無視しながらパクパクと昼ご飯を食べる綾華さん。そして、綾華さんを睨みつけている麗子先輩。

 麗子先輩ってのは龍之介先輩の姉に当たる人だ。二人とも三年生だからつまりは双子。姉の方は高飛車で弟はナルシスト。どちらも自分にいっぱいのようだ。


「早く行きますよ!勇凛先輩!」

「え~」

「文句ばっかり言わないでください!」


 そう言って、アテナは俺の腕を掴みドーナツの穴の部分に足を踏み入れた。


「あら二人とも。どうしたの?」

「えーとですね。その......」


 何も考えてなかったのかよ!誘ってきたんだから、策ぐらいは考えておけよ。

 しょうがない。ここは先輩の俺が一肌脱ぎますか。

 

「今日は、風が騒がしいですね」

「......は?」


 やめて!マジレスしないで!こっちだってめっちゃ恥ずかしから!


「先輩何言ってるんですか。真面目にやってください」

「策なしに突っ込んでったのは何処のどいつだ!」

「それはその......すみません」


 わかればよろしい。次回以降、気を付けるように。


「あらあらこれはこれは。お久しぶりですね。ペットさん?」

「綺華さん、今から一緒にご飯食べませんか?アテナが誘ってきたんです。だよな?アテナ?」

「はい!そうです!せっかく生徒会に入ったので皆さんと一緒にご飯を食べたいなと思って」

「私、食べ終わったのだけれど......」

「お話するだけでいいですので!」


 必至だな~この子。というかさっきから騒がしさが増しているな。

 なんか近づいてくるぞ。変なのが増えなければいいが。


「姉さん何やってるの!」

「どうしたのかしら龍之介?」


 めんどくさいのがまた一人増えあがった。ここからややこしくなりそうだ。


「ようペット君!元気にしていたかい?」

「「「......」」」

「なんだよ......」


 なんでお前らは俺にしか声を掛けないんだよ。何?俺の事好きなの?好きな子に意地悪しちゃう系なの?


「早く行きましょ勇凛君、アテナ」

「あっ!はい!」

「そうっすね。俺も弁当食べてる途中なんで、早く食べたいです」

「その説はすみません......」

「謝らんでよろしい」


 これで一件落着。大きな騒ぎも起きなくてよかった。


「ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わっていないわよ!」

「あら?どうしたのかしら麗子さん?話ってなの事かしら?」

「何って聞いてなかったの!この私がわざわざ出向いて上げたっていうのに!」

「出向いたって何の事かしら?私は可愛い後輩たちと話していただけよ?」


 始まっちゃたよ。どうしてこうもうまく行かないんだよ。

 せっかく今日はいい感じだったのに。ゲームの確定イベントかよ。


「ポケ〇ンで言うところのポケ〇ンの笛で起こさないといけないカ〇ゴンとかゼニ〇メじょうろのウ〇ッキーとか!」

「例えが古いよ!ここにいる人たちみんなわかんないよ!」

「あったよな~最初わかんなくて近所のおにいさんに聞いたっけ」

「たかしがウ〇ッキー倒しちゃって泣いてたっけ」

「たかしって誰だよ!てか、話に入り込んでくるな!」


 めんどくさい奴らだよ。ツッコミする側の気持ちも考えて欲しい。


「今回の生徒会選挙、私が勝つから」

「あっそ。頑張ってね。応援してるわ」

「アンタのその態度が嫌いなのよ」

「それはお互い様でしょ?嫌なら関わらないで欲しいわ」


 おー毒舌だ。この二人の会話っていつもこんな感じなんだよな。

 皆、ひやひやしながら見てる。誰かが止めなければならない。


「......」

「......なんすか龍之介先輩?」

「......一時休戦だ」

「......わかりました」


 龍之介先輩は意外と話が通じる。こうなった時だけお互い協力しあう。

 というかこの人、うざいキャラを演じてる気がするんだよな。姉の方があれだし。姉が浮かないように合わせてるんじゃないかって思うことがある。

 この人も誰かに呼ばれて来たんだろうな。


「綾華さん!早く行きましょうよ!お腹がもうぺこぺこで!」

「私もです!早くお昼ご飯食べたいな~なんて」

「先に二人で食べてて頂戴。用事を済ませてから行くわ」

「ぐわー!あー!あー!」

「勇凛先輩どうしたんですか!」

「綾華さんがご飯食べてるところを早く見てくれないと死んでしまう~」

「綾華先輩大変です!勇凛先輩が!」

「......わかったわ」


 同時刻。

 

「姉さん、選挙管理委員会の奴が呼んでましたよ。なんか姉さんに用事があるそうです」

「あらそう。わかったわ用事が済んだら行くと伝えておいてくれるかしら?」

「大至急だそうです!」

「......わかったわよ」


 龍之介先輩と目が合い、お互いに親指を立てる。

 作戦は成功だ。多少、変な奴みたいになったが元々そんな視線ばかりだった為関係ない。


「楽しみしといてあげる。せいぜい、私のライバルとして頑張りなさいよ?狐さん?」

「......何を言ってるのかしら?」

「この言葉の意味が分からない程のバカなのかしら?」

「ライバルって誰の事?私はあなたの事をライバルとは思ってないけど?」


 カッケーよ!この先輩!けど、もう険悪なムードにしないで欲しいんですけど!


「それじゃ行きましょう?二人とも?」

「わかりました!」

「綾華さん。放課後、説教です」

「......わかったわよ。話ぐらいは聞いてあげるわ」

「アンタは反省をしろ!」


 生徒会選挙も大変だけど、この準備期間も大変なんだよな。

 目を離すとすぐこうなる。止めるこっち側の気持ちも考えて欲しい。

 もうすぐ立ち合い演説が始まる。俺は綾華先輩の応援演説をしなければならない。

 そろそろ、先輩離れしなくちゃな。と思うことも増えてきた。一年間甘えてきたんだし。

 それに、先輩には多くの泥を塗ってきたと思う。学校一の嫌われ者庇ってきたんだ。思うではなく、塗ってきたが正しい。

 最後の生徒会長ぐらいは何も抱えず、有終の美で終わって欲しいな。

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