猫と俺とストーカー

「「......」」

「何よ?」

 

 ということで最後に寄るお店は猫カフェだ。

 いやーね?まあさー知ってるよ?イリスが猫が好きなのは。使ってるマグカップや部屋着などに猫柄や猫のイラストが描かれてたりしてるし。

 でもさ、立てば芍薬座れば牡丹喋る内容は下ネタ戦車みたいな奴だぞ?

 そんな奴が猫好きなんです~とか言われても、こっちとしては違和感しかないんだけど。


「いいじゃない。私だって可愛いものは好きなのよ」

「下ネタばっかり言ってる奴が何を言う」

「可愛いじゃないおちんぽって。ちんちんよりかは。」

「どこも可愛くないけど!全然汚らわしいんですけど!」


 なーにを言ってんだこの神様は。しかも、隣の神様はずっと顔を赤くして黙ってるし。

 一言なんか言ってやれ。

「別に好きじゃないわよ。ただ、勇ちゃんの反応が可愛いから言ってるだけよ」

「こっちとしては、反応に困るからやめて欲しいです......」


 健全な少年の教育方法をぜひとも覚えておいて欲しい。


「立ち話はやめにして、中に入りましょう」

「はいはい......行くぞ、アルテミス」

「あっ!うん!」


 固まりすぎだろお前。しっかりしろよな。仮にも神様なんだし。


「仮はいらないでしょ!」

「やっべばれた」

「何やってるのよ勇ちゃんと仮の女」

「仮の女って何よ!」


 ほんと、申し訳ございません。猫カフェの店員さん。

 営業妨害してしまって......




「わぁ~~~」

「猫がいっぱいだよ!勇くん!」

「猫カフェに猫居なかったら問題だろ」

「そっか」


 さてはコイツ、何にも考えてないな?小学生以下の感想に落胆する。

 こんな奴でも神様になれるなら、俺でもなれそうだ。


「ねえ、勇くん。イリスどこ行った?」

「いや、俺も分からん」


 開始早々、姿が見当たらなくなる。店の中は物凄く大きいって訳でもないんだけどな。

 結構、目立つと思うんだけどな、アイツ。


 「あれじゃない?」


 アルテミスが指さす方を見ると、そこには猫耳カチューシャを付けた知り合いが一人いる。

 おいおいマジかよ。アイツ、遊園地とか行ったら真っ先にカチューシャ買うタイプなのか?

 形から入っちゃうタイプなのか?

 あー隣のやつ、めっちゃ笑いを堪えてる。頑張れー笑ったら多分、殺されるぞ。

 俺だって正直、笑いを堪えているが、後が怖すぎる。

 でもさーやっぱり美人さんだから、なんとなく映えてるのがこれまた面白い。

 

「イリスのやつ、にゃーんとか言って話かけてるんじゃない?」

「さすがに無いだろ。アイツだって、周りの視線ぐらいは気にするだろ」

「真偽を確かめるぞ!勇くん!」

「勝手に確かめてください」


 気になるけど、もしも、にゃーんとか言ってたら笑いは堪えれない。

 無理だって。いつものアイツからは想像ができない。

 あれか?推しにしか見せない姿って奴か?恋する乙女が好きなあの人にしか見せない姿みたいな奴なのか?

 そうだとしたら、どれだけ猫の事が好きなんだよ。


「じゃあさ、じゃんけんで負けた方が近づいてみようよ!」

「やだよ、めんどくさい」

「最初はグーじゃんけん!ポイ!」

「へっ?」


 俺はグーで、アルテミスはパー。俺はじゃんけんするつもりはなかったぞ?

 体が勝手に動いていた。なぜだ?まさか、この猫カフェは呪われているんじゃないか?

 恐ろしいな......


「って!お前!俺になんかやっただろ!」

「何のことかな~」

「コイツ!今のは無しだ!」

「ほら、早く行った!イリスがどっか行っちゃうでしょ?」


 背中を押され、イリスの方に向かわせられる。

 神様パワー、まともな使われ方してるところ、見たことないぞ。

 今度の晩飯、アイツの分だけ抜いてやろうかな。これぐらいの仕返しをしないと割に会わない気がする。

 ほんと、ろくでもない神様だな。

 

「どれどれ、イリスの奴は何してるかな~」


 抜き足差し足忍び足。バレないよう、コッソリと近づく。

 そして、耳を澄ませながら様子を窺う。


「ぬっこ様~こっちに来るにゃ~」

「ぶっ!」


 無理だって!誰でも笑うだろあんなの!なんで、周りの客は笑わないんだよ!

 めっちゃ微笑ましい顔でイリスの事見てる~ここの客たちはイリスの事を娘だと勘違いしてるのか!

 店員は!

 めっちゃ笑顔やん!なんでそんなに笑顔なのか分からないぐらい笑顔だよ!

 てか、あの男の店員!なんか、乙女の顔してるよ!恋に落ちちゃってるよ!


「こうすれば来てくれるかにゃ~?」

「ごっふ!」


 アイツ!猫耳カチューシャを超える猫の尻尾までもってやがった!なんで持ってんだよ!猫の尻尾!

 なんか、尻尾動いてるし!すげーな最新の技術は!

 絶対に近づけないって!あれには!

 遠くで見守るしかできないな。やっぱり、怖くて近づけないや。


「何じーっと見つめてるのよ」

「猫が人に!」

「何言ってるのよ。私は元から人型よ」


 急に近づいてくるからビックリした。音を立てずに近づくのが上手なのは、ストーカーだからだろうか。


「私に何か用?」

「えーっと......」


 何か絞り出せ俺。うーんなるようになれ。


「猫カフェって初めてだからさ、具体的に何すればいいの分からないんだよね。何してればいいのかイリスに聞こうと思って」

「いいわよ。猫カフェの極意ってものを教えてあげる!」

「お願いします師匠!」


 それっぽくごまかせたぞ。実際、猫カフェの事はよく知らないからな。ちょうどいい機会だ。色々教えてもらおう。

 カチューシャ着けたり尻尾つけるのは嫌だがな。


「はい、これ。猫たちにあげる餌」

「サンキュー」

「こうやってしゃがんで、餌を出せば来てくれるよ」


 ほほう。見せてやろう。俺のなつかれやすさを。

 近づいてきた猫に差し出してみる。

 

「ほーれお食べ」


 一度餌まで近づいてきたが、どっかいってしまった。

 そう思ったが向かった方向にはイリスが居る。


「おーよしよし。いっぱい食べるにゃ~」

「にゃ~お」


 言い食いっぷりだなお前。そして、男ではなく女の元に行くお前は中々現金な奴だな。

 アイツは絶対にオスだな。

 来る猫すべてに餌を差し出すが全員、イリスの元へ向かって行く。


「にゃーおん」

「おっ、どうしたお前?」

「にゃっ」

「おー食べてくれるのか?」

「にゃっ」


 言い食いっぷりだコイツ。目の感じとか何処となく俺に似てるぞ。


「可愛い奴だな~」

「しゃーぁぁ!」

「なんで!」


 急に切れられたんだが。怖!コイツ。

 やっぱ全然似てないわ。だって、俺はもっと心が穏やかだもん。コイツとは違う。


「ほれ、これを見なさい」

「何これ?」


 猫一面のパンフレットを差し出された。


「これ見て勉強しなさい」

「勉強って......」

「ここには、猫ちゃん達の情報が載ってるから。見てるだけでも楽しいよ?」


 ふーん。なるほど、アイツはこれを見て学習しこの店の長になったわけか。

 パラパラと捲っていると、猫たちの名前と一言コメントの書かれたページが現れる。


「この子とか勇くんにそっくりだよ」

「って!さっきの奴じゃねえか!」


 どれどれ、一言コメントは......


「「皆からいじめられがちです。他の猫が見えない所で可愛がってあげてください」だって」

「そっくりじゃん!皆からいじめられがちってところ」

「あんた!自覚あるよね!絶対にあるよね!」


 はぁ......この猫も俺も結局は弱者ですか。我々には希望がないみたいですよ。

 これを見た後だと、アイツの後ろ姿は悲壮感が漂っている感じがする。

 それは俺もなのかな。

 でも、いつもとは違うイリスが見られた感じがして、良かったとは思うよ。

 そうでもしなきゃ、なんか負けた気がするから。

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