ナンパを全て断る俺のストーカー達

 あ〜また一人断られてる。これで何回目なのかわからない。ここまで来ると可哀想になってくるな。

 うわ、目が合った。めっちゃ見られてるんですけど。

 数メートル先に居る二人組が笑顔でこちらを見ている。しかし、身体中から溢れる負のオーラは止まらず不機嫌である事を訴えてくる。

 だが、そんなオーラには気付かない男達が次々と話しかけている。要はナンパだ。

 その二人組のうちの一人、白いワンピースを着た白髪の女性が手招きしてくる。

 物凄く近づきたく無いが、今行かなかったらこの後が恐ろしいから仕方なく向かう。


「ごめんまっ...」

「そこの姉ちゃん達!今暇かい?よかったら一緒にカラオケ行かない?」


 ま〜たナンパされてるよ。白髪の女性の顔に怒筋が生まれる。

 不機嫌な金髪の女性は隣の女性の怒りを察知したのか、慌てて落ち着くよう説得する。


「まあまあ、落ち着いて。ほら!勇くん来たんだし!」

「あんた、どうして遠くから三十分も見てた訳?何?殺されたいの?」

「ほんとにすみませんでした!」


 やっと口を開いたと思えば物騒な答えが返ってくる。

 だって、来る人みんな怖いんだもん。近付いたら殺されるかと思ったもん。

 そんな姿を見てナンパしてた男性はそれ以降喋らず、息を忍ばせて何処かに去って行った。


「何がもん!よ。可愛子ぶっちゃって。このヘタレ!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「お願いだから喧嘩しないで〜!」


 イリスの罵声と俺の謝罪とアルテミスの悲痛な叫び声が都会のど真ん中で木霊する。

 何故こうなったのか、数日前に遡って説明しよう。




「ゴールデンウィーク皆んなで何処かに出かけない?」


 とある日の晩ご飯中、アルテミスから一つの提案がされる。


「確かに皆んなでは出かけた事ないな」

「長期休みぐらいは出掛けたいね」

「でしょでしょ〜」


 俺もイリスもその案には賛成だ。偶には皆んなで出掛けるのも悪くない。


「でも、何処に行くんだ?」

「せっかくだし、ちょっと離れた所に行きたいね」

「東京に行って皆んなの行きたい所に回るのはどう?」

「珍しくまともな意見だな」

「どうせ、前々から考えてたんでしょ。この子がそんな計画的に動ける訳ないし」

「まともなだけでそんなに言われるの!?」


 アルテミスのまともな発言に驚きが隠せない。いつもこれぐらいだと助かるんだけどな。


「俺は二人の事あんまり知らないからいい機会かも」

「まあ、私達は勇くんの事を一方的に知ってるだけだもんね」

「そうそう、ただ一方的に知ってるだけさ。特に問題はないのだよ」

「問題しかないと思うんだけど!?」


 ご飯を頬張りながら一方的に知っている事を正当化しようとするイリス。

 普通はおかしい事だからね?


「じゃあ今度の日曜日でいい?」

「俺は問題ない」

「私も〜」

「じゃあ決定!」


 アルテミスの元気な声が皆んなで出掛ける事を確定させる。

 アルテミスの頬にご飯粒がついているがテンションが爆上がり状態なので見て見ぬ振りをした。ちょっと面白いし。


「アルテミス〜ご飯粒、頬に付いてるよ〜」

「え!マジ!」


 顔を赤く染めるアルテミス。指摘されてもやっぱり面白い反応だ。

 我が家の食卓はいつも明るい。




 とまあこんな感じの事が行われたのだ。


「やっぱり皆んなで行った方がよかったんじゃない?」

「いーじゃん待ち合わせしたって。そっちの方がデートっぽいし」

「二股デートだ〜」

「二股してないから!そもそも付き合ってないから!」


 確かに待ち合わせした方が雰囲気は少し出るが、ナンパされる事ぐらいは想定していて欲しい。

 仮にも美人であるのだから。


「そうやって口に出さずに褒めるんじゃなくて口に出して欲しいな〜」

「そうやってす〜ぐ人の心を読む...」


 考えている事が筒抜けなんだよな、いつも。

 そうしているうちに一つ目の目的地に着く。

 目の前に広がるはゲームやアニメの広告ばかりだ。

 最初は俺の行きたい所、秋葉原だ。


「前に行った時に何も買わなかったからな。今回は色々買うかな〜」

「あの時は勇ちゃんは素直だったな〜私に愛してるって言ってくれたし」

「勇くんそんな事言ってたの!?」

「言ってないから!近しい事も言ってないから!」


 でた、被害妄想神。す〜ぐ捏造して人様を困らせる。やめて欲しい限りだ。


「やっぱりゲーム?それともマンガ?」

「俺はやっぱりエッチなゲームかな」

「あ〜ツッコミのも疲れたわ...」

「そこで諦めるな!頑張れよ!」


 応援したって無駄だ。イリスのモノマネを無視しながら目的地に向かう。

 ここに来てまともに話した覚えがない。少しは会話を成り立たせたいものだ。

 



「いっぱい買ったね」

「何ヶ月も買ってなかったからな。偶には何も考えず買うのもいいな」


 結構な店舗数回ったな。やっぱり買い物は楽しいものだ。マンガの続きも新作のゲームも買えたし満足満足。


「ありがとな。色々奢ってもらっちゃって」

「いいよ別に。偶には歳上の威厳を保たないと」

「いつも保ててないもんね〜」

「それはイリスもでしょ!?」


 そんな威厳も尊厳も無い神様達と今日は買い物を楽しむ。

 いつもとは違う、愉快で楽しい一日が今日も始まる。


 



 

 

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