100冊のエロ本よりエロい女の人がいるんだけど?

 授業も終わり、部活動が盛んになってくる時間帯。

 目の前には笑顔でいるが顔全体は暗く、何か言いたげそうな綾華さんと対峙している。

「朝、何があったのかしら?」

いつもの優しい声ではなく、凛々しい生徒会長の声だ。だが、少し怒りが混じっている。

「昨日の帰りの事でちょっと...」

「詳しく話して欲しいな?」

 ピキッと握っていた何かを潰しながら事情を話せと言ってくる。

 正直、めっちゃ怖い。

「えっとですね...」

 恐る恐る、昨日の事、そして今朝の事を話す。

「ふ〜ん。私が大事な話をしている間、そんな楽しそうなイベントがあったんだ...」

「イベントじゃないから!?ただの約束事を果たしただけだから!?」

そんな選択肢で選ばれた事じゃないんだからイベントって言い方はやめて欲しい。

「私だって勇凛君とお出掛けしたいのに...」

「良いですね〜今度のゴールデンウィーク行きましょうよ!いつぶりですかね?もしかして小学生ぶりぐらい?」

「何で聞こえてんのよ!」

 大声で怒鳴る綾華さん。怒りというより照れと言った方が正しいかも。

「ごほん。そうね、ゴールデンウィークには生徒会選挙の事で話さないといけない事が多いから丁度良いわ」

「この学校変ですよね、三年生もこの時期に生徒会選挙に出れるなんて」

大体の学校はこの時期からは二年生が中心となるのが普通だろう。

 だが、この学校は何故か違う。何か理由があるのだろうか?

「生徒会が余りにも人気が無いせいで人が集まんないそうよ。だから、三年生も参加できるようにしてなんとか候補者を出してるのよ」

「凄い聞きたく無い事実ですよ、それ...」

確かに言われてみれば同じような人しか立候補してないし、二年生はほぼいない。二年生がいる方がむしろ珍しいくらいだ。

「今年はどのくらい居るんですか?」

「今年は五人。結局、私とあの女の戦いって感じでしょうね」

「まあ、龍之介先輩が俺のとこに来てわざわざ、宣戦布告してきたって事はそういう事ですよね?」

「ええ、それに管理委員会もあの女の手下だったしね。全く、何してくるかわからないわ。ただの生徒会選挙にどれだけの生徒を動かす気かしら」

前年度の負けが悔しかったのだろう、今回は多くの人を利用しているそうだ。

「これ見て。ここに載ってる名前、全部アイツの手下よ」

「よく覚えてますね」

「当たり前よ。何されるかわからないのだから、関係者の名前ぐらい覚えておかないと嵌められるわよ?」

物騒だな〜生徒会選挙って。中学校の頃とかめっちゃ適当だったのに。

 高校に入ったら急に物騒な生徒会選挙になって驚きが隠せなかったな。

「それでも、私が勝つけどね」

「作戦があるんですか?」

「そんなの考えてないわ」

「無いのかよ!」

 あんだけ思わせぶりな事言っておいてそれはないだろ。

「私は小細工なしで正々堂々と勝つ。ただそれだけよ」

 そう言って、ずっと勝ち続けてきてるからな。ほんと、凄い先輩だ。

「そういえば、さっき話に出てきた金髪の女の人って誰なの?」

遂に綾華さんにも聞かれたか。どうやって隠そう。

「最近、また勇凛君のアパートから前の人とは違う別の声が聞こえてきたんだけど...」

「大学生の友達じゃないですか!?」

勢いだけで誤魔化してみる。

「なんか隠してない?私に言えないこと?」

「隠してることなんてないですよ!?」

「怪しい...」

むむむと可愛らしく睨まれる。話を逸らさなければ。

「ゴールデンウィークどこ行きます?ショッピングモールとかいいんじゃないですか?」

「話を逸らすな〜それも話したいけど〜」

 頬を無理矢理延ばされる。けれど、全然痛くない。

「もしかして、その金髪の人と一緒に住んでるの?」

「...」

どう返すか悩むな。隠すことを諦めて本当の事を伝えるか?いや、まだ隠したいな。

「もしかして...」

「違います!一緒に住んでないです!」

「じゃあ、久しぶりに勇凛君の家に行かせてよ。そうすれば、全てわかる」

 悪魔のような提案だ。それだけは辞めさせなければ。

 こうなればプライドなんて捨ててしまえ!元からそんなに無い訳だし。

「ごめんなさい綾華さん!今家には百冊のエロ本が散らばってるので綾華さんには見せられないです!」

「ふ〜ん...」

昔見たアニメでこんな事言ってる主人公がいたな。でも結局、家に入られたんだよね。

 ...じゃあこの返し方は。

「私が掃除してあげようか?その百冊のエロ本とやらを」

 ニッコリ笑顔で返される。だよな〜やっぱり無理だった。

 アイツらに頼んで少しの間、家に出て行ってもらおう。そうすれば誤魔化せそうだ。

「わかりました。来て良いですけど部屋の中漁ったりしないでくださいね?」

「わかってる。そんな事しないって」

家に居る二人は平気でしてくるからな。ストーカーは怖いよ。

という事で我が家へ綾華さんを迎え入れる事にした。

 二人に事情を伝え了承を得た。これで安心だ。

 やっぱりアルテミスの使うスタンプは変なのだった。

 今回は紐を足に巻かれ逆さまで木にぶら下がりながら頬を赤く染めている狸のスタンプだ。

 だから、どんな状況だよそれ。

 正しいスタンプの使い方を教えてあげないとな。他の人との会話が不安だ。

「それじゃぁ行きましょう」

「久しぶりだな〜いつぶりだろう?」

「割と最近に来てませんでした?」

「そうだっけ?」

そんな、普通の会話をしながら我が家へ向かう。


 家の前に着きドアノブを握ると手が湿っていたことがわかる。

「開けないの?」

綾華さんに声を掛けられる。開けるのが少し怖い。

考えても無駄だ。頼む!家に居ないでくれ!

そう思いながら力強く扉を開ける。

「イリス〜何味食べる〜?」

「私、バニラ〜」

「オッケー」

目の前には部屋着姿で無防備なアルテミスがアイスを咥えながら冷蔵庫を漁っていた。

「百冊のエロ本よりもエロい女の人が居るね〜」

「勇くん、百冊のエロ本隠してるの!どこどこ!」

「え〜まだあるの〜この前一つ見つけたのに後、九十九冊あるのか〜」

「人の部屋勝手に漁らないでって言ったよね!?」

目が笑っていない綾華さん、興味津々なアルテミス、エロ本を見つけた事をさり気なく伝えるイリス、そして動揺しながらツッコミを入れる俺。

 ご近所さんに全部聞かれてるんだろうなきっと。これからの近所付き合いが不安でしかない。

 まあ、それ以上に今からの方が不安なんだけどね。

 そう思いながら綾華さんを家に迎え入れるのであった。

 頼むから変なことは言わないでね?ストーカー達?

 

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