あのエロいちゃんねえー誰よ!

「ねぇ!あのエロいちゃんねえー誰よ!」

「朝から元気だなお前...」

 開口一番言い放った内容は男子高校生のふざけたノリの様な内容だった。

 昨日、アルテミスが正門の前で待っていたところを自称シスターも見つけたんだろう。

 あの時は多くの生徒が集まっていた。それゆえ、噂として一気に広まったのだろう。今朝はいつも以上に視線を感じた。

「ちゃんねえーって言い方今どきするか?」

「そんな事はどうでもいいんだよ!教えろよ〜」

 悪いことを考えているような表情で俺の肩を肘でグイグイと押してくる。

 人の話は聞かないようだ。

「もしかして、あの人が前に喧嘩してたって言う人〜?」

「...まあな」

「マジ!あんなエロいちゃんねえーと喧嘩してたのかよ!いいな〜」

「どこに羨む要素があるんだよ!?」

 なんかさっきより視線がより集まってきてる気がする。そんなに喧嘩したことが羨ましいのか?

「喧嘩だって大変だったんだぞ?」

「仲直りできたの?」

 ふざけていた態度から一変、真面目な雰囲気に変わる。

 回りの生徒はそんな雰囲気を感じ取っておらず視線の強さは変わらない。

「まだしっかり出来てない...結局自然消滅って感じ。けど、俺はまだちょっともやってする。どこかでちゃんと仲直りしたいけど今はなんとも」

「とりあえずは良かったじゃない。最近は辛そうな顔してなくてこっちはちょっと安心してるよ」

あれ以降もずっと気にしててくれてたんだな。ちゃんと仲直りできたら必ず報告しよう。

「それはともかく、あのちゃんねえーとは...」

バン!扉が勢いよく開かれる。だが、力強くしすぎた為か反動で戻ってきてしまい完全に開いたとは言い難い。

 その開けた本人がすたすたと音を立てながらこちらへ向かってくる。

「やぁペットくん久しぶりではないか〜」

「...」

「...」

 俺と自称シスターは近づいてきた人を一瞥するが無視をする。

「でさ〜エロいちゃんねえーとは...」

「先輩にその態度はどうかと思うよ!?」

 無視された事に怒りを露わにする先輩。

「なんすか、ナルシスト先輩?カワイイ後輩達をいじめに来たんすか〜?」

「朱奈くんは先輩に対しても当たりが強いな...」

「お前呆れられてるぞ」

「ふっ...これが俺の生き様さ...」

 カッコ悪〜この人。もっとまともな生き様を見つけて欲しい。

「それよりペットくん。あのエレガントで素晴らしい女性とはどんな関係なのかな?」

「それ、私も知りた〜い」

 同調するな自称シスター。せめてこっち側に居てくれ。

「...先輩に話すような事ではありません。帰ってください」

「じゃあ、私には話してくれるの!」

「お前は一旦黙ってろ!」

あいつ、ツッコミ役が増えたからってふざけまくってるだろ。

「僕を置いてかないでくれ...」

先輩が肩を落としている。そのまま帰ってくれれば嬉しいが帰ってはくれなさそうだ。

「あれ、龍之介先輩じゃない?」

「ほんとだ!やっぱ、カッコイイな〜」

 廊下から女子生徒の黄色い声援が上がり始める。気付けば廊下には沢山の女子生徒が集まっているんだろう。きっとナルシスト先輩を見に来たんだと思う。

 ナルシスト先輩の本名は高岸龍之介。アメリカと日本のハーフで顔の彫りは深く、爽やかイケメンというよりは、男らしさ溢れるタイプのイケメンだ。髪は金色であり、父親譲りだとか。

「話を本題に戻そう。彼女とはどんな関係なんだい?」

「さっきも言いましたよね?先輩には話すような事ではないって」

「そうだそうだ〜」

 唇を尖らせこちらの意見に同意してくれる朱奈。嬉しいが今はこっち側の味方しない方がいいと思うぞ?

「言えないような特別な関係だって事かな?」

「それは...」

「図星のようだな」

実は一緒に住んでま〜すなんて口が裂けても言えないな。

 「まあいい、じゃあ彼女の連絡先教えてくれないか?その御礼に僕の知っている美女達を紹介してあげよう」

「別に彼女とか欲しい思ってないんで大丈夫です」

 全然嘘だけどな。欲しいがこんな奴にアルテミスの連絡先教えてたまるか。

「嘘つき発見!捕まえろ〜」

 わ〜と力の抜けた声を発しながら近づいてくる朱奈に両肩を掴まれる。

「あんちゃん、嘘は自分を傷つけるだけだぜ...」

「お前マジでなんなん?」

 コイツいつにも増してテンション高いな。そんなにこの状況が楽しいか?

「時間も惜しいそろそろ変えるか」

 そう言い龍之介先輩はこの場から去っていく。

「今年度の生徒会選挙は姉さんが勝つからな。楽しみにしておけよ、ペットくん」

振り返らず入ってきた時のようにすたすたと音を立てながら去っていく。

出ていったと思えば、聞き覚えのある足音が聞こえる。おお〜と廊下から歓声が上がる。

 あ〜絶対あの人だ。来たる来訪者に身構える。

 その来訪者は俺の目の前に立ち、今日の放課後について話し始める。

「勇凛君?今日の放課後、絶対に生徒会室に来なさい?わかったかしら?」

 目の前で凄いオーラが放たれている。

「了解しました!姉御!」

 ビビり散らかした返事を聞いた綾華さんは無言で頷き教室を出て行く。

 めっちゃ怖かったよ。覚悟して生徒会室に向かわなきゃな。

「や〜い怒られてやんの〜」

「...そろそろキレるぞ?」

 今なら自称シスターを殴っても天罰は喰らわなそうだ。そう考えるとめっちゃ殴りたくなるな。

「勇凛大丈夫だったか!」

 騒ぎが収まり教室がいつも通りの賑やかさを取り戻した時に翔平は教室に入室してきた。

「...とりあえず、朝練おつかれさん」

「おう!やっぱり野球は楽しいな!」

コイツが居たらもっと大変だったんだろうな。

 タイミングよくチャイムが鳴る。いつも通りの賑やかな学校生活が今日も始まり出す。

 始まるまでも大変だったな...


 



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