美女ストーカーの中身はおっさん?
「いや〜人気者は大変ですな〜」
正門に群がる生徒達から走って逃げた。アルテミスは疲れを一切見せない。その反対に俺は呼吸が荒くなり汗も出てきている。
「人気者って、思うなら、変装、でも、しろ、!」
「それじゃあ、勇くんが気づかないかな〜って思って〜」
「その、延ばす、話し、方、やめ、ろ!」
久しぶりに走るとすぐこうなる。運動した方がいいなと思いつつしない。このループにハマる人は数知れず。
「そんな嫉妬されても困るな〜」
「...」
イラッ。何だコイツ?調子乗りやがって。
「喰らえ!右握力23.8ビンタ!」
ぺちっ...虚しい音だけが住宅街に広がる。
「痛くなさすぎて不安になるよ...」
「うるさいやい!みんながゴリラすぎるだけやい!」
そんなじゃ女の子の手なんて握れないぞ?
もっと筋力を落とせ。
「勇くんはもっと筋肉付けた方がいいよ?」
「マッチョな自分か〜」
雰囲気的には翔平みたいな感じか?アイツずっと小さい時からずっと野球してるらしいし、結構筋肉あるんだよな。
「「...ないな」」
「...お前が否定するなよ」
「...てへ⭐︎」
舌を出して誤魔化してくる。てへ⭐︎じゃないが。
「まあ、勇くんはそのままが一番だよ」
「そうかもな」
どんなに非力でも守りたいものが守れればそれでいい。でも、もうちょっと大きくなってもいいかもな。
「スーパーってどこにあるの?」
「目の前にあるぞ」
「思ったより大きいね〜」
「ストーカーしてたならわかるだろ」
「スーパーをしっかりと見てなかったんだよね。ずっと勇くんの事見てたから」
アルテミスは人差し指を唇に乗せながらスーパーの外側をまじまじと見ている。
ほんと、黙ってれば美人なのになあ〜。色々と残念なだからな、このストーカーは。
「残念美人とは何だ〜」
ぶ〜と言いながら肩をポンポン叩かれる。
「ほら、中に入るぞ」
「はーい!」
向こうの方が歳上なのに反応が幼いのはいつもの事だけど場所が変わると感慨深いものがあるな。
「今日は何が安いっかな〜」
入り口にあるチラシを見て買うものを決める。バイトをしたいが、祖母達にダメだと言われている為やらせて貰えない。
黙ってやろうと考えたが、裏切っている感じがして良心が痛まれるから計画を断念した。
仕送りを貰っているが、沢山ある訳でもない。貯金もあるが、将来の事を考えるとあまり使えない。
その為、主婦の隣りに行き、いつもチラシを確認している。節約精神は大切だ。
「主婦みたいだね」
「男だから主夫だけどな」
「パパ素敵♡ママ惚れちゃう♡」
「お前を嫁にした覚えはない」
「えぇ〜〜〜」
その反応は何だよ。全く、将来の嫁ぐらいは選ばせてくれ。
買いたいものが決まったので、カゴを持ち、店内に入る。
「今日は何作るの?」
「今日はもう疲れたから簡単な料理だ」
「答えになってないよ〜」
実際、まだ決まってないからな。候補はいくつかあるがなんとも言えない。買いたい物は決まっているが夕食とはまた別だ。
そうして、スーパーの中を小一時間程回る。
今日のメニューは麻婆豆腐ともやしのナムルとお惣菜のコロッケだ。イリスを家に待たせているし、素早く作った方がいいと思った。
コロッケの選択はアルテミスだ。変わった惣菜を持ってくると思っていたが意外と普通だった。
「お菓子買うか?」
「いいの?お金、あまり使いたくないって言ってたじゃん」
「たまにはいいの。イリスの分も選んでこい。俺は何が好きかわからんからな」
「わ〜い」
小走りで近くのお菓子コーナー向かう。小走りで向かう後ろ姿を見ていると小さい時の自分はあんな感じだったのかな〜なんて思ってしまう。まだ、高校生なのにな。
「一個までだからな」
「わかってるよ!」
楽しそうに選ぶアルテミスを見ていると自然と笑みが溢れる。何を選ぶのかな?アルテミスから少し離れ、選んだお菓子が見えないようする。
「選んだよ〜」
そう言いながら近付いてきて、カゴの中に二つのお菓子を入れる。
一つはビターなチョコレート。もう一つはチータラだ。
「...一応聞くがどっちがアルテミスのだ?」
「こっち!」
アルテミスの人差し指はチータラを指す。なるほどな〜。
「さては中身、おっさんだな?」
「チータラ選んだだけでそこまで言われるの!」
だってね〜酒のつまみで選ぶ人はいるけど、単体で食べる奴あんまりいない気がするだよな〜
「おつまみ好きなの何か意外」
「私もそう思う。意外と好きなんだよねおつまみ系。甘いものも、もちろん好きだけど」
「イリスはまあ...予想通りだな」
「昔から大人な感じのもの好きなんだよね、イリスは。小さい時からずっとコーヒーはブラックを飲んでたらしい」
小さい時から、ブラックコーヒーを優雅に飲んでいる姿が容易に想像できる。アルテミスより大人っぽい雰囲気があるからな。
「会計行くか」
「勇くんは買わないの?」
あ〜確かに。アルテミスを見ていたら自分のもの選ぶの忘れてた。
近くにあったグミをカゴに入れる。期間限定のメロン味だ。
「子どもっぽいチョイスだね」
「うるさい、おっさん」
「私、中身おっさんじゃないからね!」
拗ねるがしっかりと着いてきているアルテミス。その姿はちょっと面白い。
無事、会計を済ませエコバッグに買ったものを入れ店を後にする。
「買い物楽しかったな〜また、着いて行ってもいい?」
いつも行くスーパーのはずなのに二人で行くだけでも楽しいと感じる。アルテミスが知らない商品が沢山あり、驚きの連続だったようだ。カルチャーショックを受けている様子も見られて面白かった。
「いいけど、次は変な男に絡まれるなよ?」
「その時はちゃんと助けてね?」
アルテミスは一歩前に出て手を後ろに組みこちらの顔を下から覗いている。その言動にドキッとしてしまう。
「まあ、気が向いたらな」
頬を掻きながら歪な笑顔で答える。顔をとても熱くなっている。
「気が向かなくても助けてね?」
今度は首を傾げながら答えを求めてくる。もちろん。言葉にするのは恥ずかしいから心の中で返事をする。言わなくても届いているだろうからな。
これからずっと、お互いが支え合って生きていくんだろうな。そんな関係に人間と神様なんて関係ない。
ドン!
「いって〜!」
そんな余韻に浸って歩いていたら電柱にぶつかる。初めての経験だ。
「大丈夫?生きてるよ?お願い死なないで〜!」
「いや、生きてるから。そんな簡単に死なないから」
アルテミスのオーバーすぎるリアクションにはまだ慣れない。
でも、いつもこんな感じだもんな。急に雰囲気が変わるのは。
少し安心している俺は、一ヶ月前の生活には戻れないだろうな。
夜空に浮かび上がる今日の月は満月であり、いつもよりも輝いていた。
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