男だと思ってたネッ友は美少女でした

「おーい!開けてくれよ!」


 朱奈と別れ帰宅し、かれこれ一時間。アルテミスの部屋の前で呼び続けているが反応無し。アレだけ意気込んでいて前日までと変わらないってダサいな。


「扉も何故か開かないし、どうなってんだアイツの部屋」


 もう自分から行くしかねえと思い扉を開けようとするが何故か開かない。鍵が付いているタイプの扉では無いのに。


「中にいるんだよな、なんか反応してくれ」


 ...反応無し。これじゃ朱奈とマスターに合わせる顔がないな。


「もう寝るか」


 今日は諦めよう。アイツは嫌がってるかもしれないし。時間が掛かっても仲直り出来ればいいさ。




 アレから五日ほど経った夜。今夜も声を掛ける。


「なーそろそろ顔見せてくれないか?すげー心配になってきたんだけど」


 これは心から思っている事だ。メールを送っても既読されないしご飯を食べた後や風呂に入った後などが一切無い。流石に死んでることはないだろうが心配になる。


「返事してくれよ、まったく」


 独り言を呟くと扉の下から一枚の紙が出てきた。思いが伝わったようだ。


「やっと反応してくれた」


胸を撫で下ろす。そうして書かれた内容を確認する。


「「メール、送らないで」だと...」


 人様が毎日、わざわざ声かけてやってんのにこれは無いだろ。だが、その字は少し歪で何故か濡れた跡が残っている。ここで一つ嫌な予感がする。


「まさかな...」


 そうだよな?アルテミス?違うと言ってくれよ直接。


「...ごめんな」


 扉を一回気持ちを叩き伝える。今日はもう寝よう。明日は休みだがもう寝たい。そして、消えてしまいたい。

 部屋に戻り椅子に座る。ゲームのログインぐらいはしておこう。対してやらないゲームだが、ログインボーナスだけはしっかり貰っている。


「お、何か来てる」


 チャットアプリを開くとそこには一つ文字が書かれている。「久しぶりにゲームしない?」ネッ友からの誘いだ。

 アルテミスと暮らし始めてから一回もしてなかったな。寝たい気持ちもあるが久しぶりに遊ぶか。明日のことなんて忘れよう。「いいぜ、やろう」チャットを飛ばす。


「うぃーす!おひさー!」


急に声が聞こえビックリする。俺とは違い元気だなコイツ。


「夜なのにうるさいな虹色」

「鈴ちゃんはもっと元気でいいと思うよ?」

「鈴ちゃん言うな」


 コイツの名前は虹彩。声は二十代前半ぐらいの若々しい声だ。容姿などは全く分からん。本人が虹色ちゃんって呼んでねと言っていたが、男相手にちゃん付けはしたくないと思い虹色って読んでいる。由来を聞いたが、いつか私の正体が分かる時が来るさの一点張り。別に正体が知りたい訳ではないんだがな。


「元気ないね?なんかあったん?」

「まあな、色々と。それより何する?」

「一狩り行きますか!」

「オッケー」


 モンスターでも狩って嫌な事を一旦忘れよう。息抜きも時には大切だ。

 それから三時間くらい経った。


「最初に戻るんだけど、鈴ちゃんほんとに元気なさそうだけど大丈夫?」

「最近忙しくてさ、ちゃんと休めてないんだよな」

「学校?新学期は大変だよね〜こっちも大変だよ〜サークルとか」

「学校以外で。ちょっと喧嘩して。仲直りしたいけどなかなか上手くいかないんだよね」

「なるほどね〜」


 ゆったりとした声で返事してくれる。喋り方がゆっくりなんだよなこの人。


「明日さ暇?もしよかったらだけど一緒に遊ばない?リアルで」

「へ?」

「何その声?変なの〜」


 愉快そうに笑う。いや、今まで会った事ないじゃん。急に言われてもな。


「リアルでは会った事ないけどさ、相談に乗りたいなって直接会って。そっちの方が話しやすいし。それに一回会ってみたいって思ってたんだよ」


 自称シスターの次はネッ友か。四、五年くらい関わってきたけどヤバい雰囲気の奴ではないしな。ちょっと怖いが会ってみてもいいか。


「いいけどさ、どこ待ち合わせなの?」

「確か東京から近いよね?秋葉でいい?一度行ってみたかったんだ〜」

「時間は?」

「うーん十一時ぐらいでいい?」

「了解、集合場所は...駅出てすぐのゴトバ付近でいいか?」

「駅前のゴトーバックスね、了解。行った事ないから迷っちゃうかもだけど」

「時間過ぎても待ってるから大丈夫だ」

「ほんとに待っててね?明日の準備の為に寝ますかな。明日は可愛い服行くから覚悟しておいてね?」

「男だろお前。冗談はやめなさい」

「もし女だったらどうする?」

「どうするもこうするもないだろ?」

「えーなんか賭けてよ。コッチはゴトバで好きなだけ奢ってあげるよ。そっちは?」

「言ったな?じゃあハグしてやるよ」

「わーセクハラだ!」

「男相手にしてもセクハラにならないだろ」

「約束守ってよ?」

「当たり前だ、お前こそ守れよ?」

「もちろん。...それと最後に一つ」

「なんだ?」

「僕から俺に戻ったんだね」

「...まあな」


 やっぱり気づいてるか。変わった時は驚いてたもんな。


「それじゃおやすみ」

「ああ、おやすみ」


 そして通話を終了する。明日が少し楽しみだ。さっさと寝るか。そう思いベットに横になる。

 まてよ、東京の近くに住んでるなんて一度も行った事ないぞ俺。てか、普通に考えれば向こうは答え知ってんだからあの賭け絶対負けるじゃん!...声は男だ、アイツは男なはず。女なわけがない。そんな事を考えてるうちに自然と眠りに就く。




 翌日、家を出て電車で秋葉原に向かう。その間、アイツが男か女かずっと考えていた。俺が信じなくて誰が信じるんだ。そう思いながら、駅から出てゴトバに向かう。ゴトバの周りが少し空間が出来ている。そこでは男の人が女の人を誘っているのが見える。...まさかな。

 そう思い遠くから見ていると、そこから女の人が誰かを呼んでいる声が分かる。


「来た来た!お〜い鈴ちゃ〜ん!私だよ虹色だよ〜。ちょっと待ってって!お願いだから逃げないで〜」


 きっと人違いだ。追ってくる虹色から全力で逃げる。数分後、こちらの体力が無くなり歩いて逃げると直ぐに捕まる。


「何で逃げるのさ〜」


 そこには通話とは違う可愛らしい声が聞こえる。


「さあ!少年よ!おねーさんとハグをするのだ!もちろんそっちから来てね?」


 信じたくないがどうやらネッ友はアルテミスに引けを取らない美少女だった。



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