ネッ友はインターネットストーカーでした

「なんで逃げたのさ〜」


道の真ん中で話しているのは良くないので近くにあったファミレスに入り話をする。

 虹色。ハンドルネームは虹彩だが、虹色と呼んでいる。歳はアルテミスと同じくらいの雰囲気が出ていて、髪は純白のウェディングドレスと同じ色をしており、背中まで伸びた髪はアルテミスや綾華さんと違いふんわりとさせ三つ編みを右耳にかけている。目はエメラルドを埋め込んでいると疑う程綺麗な緑色で少し垂れ目寄りである。身長はアルテミスより少し低く、綾華さんよりは高い。そして体型は全体的にアルテミスより出ているような気がする。心の中でバッターアウトーと審判が叫んでいる。見事、豪快な振りは当たらず三振のようだ。次は打てるさ自称シスター。


「それは〜」


 あの場面に関わりたくなかったから逃げたなんて言えねー。


「あの場面に関わりたくないって思ったんでしょ?」

「お前も人の心を読むな!」

「神様パワーは全てを解決出来るのさ」


 コイツも胡散臭い信仰心で力が変わりそうなパワー使ってくるよ。


「ナンパから助けてくれるカッコイイ鈴ちゃんが見れると思ったのにな〜」


 ぷんぷんと効果音を付け足してくる。可愛さを出さないで欲しい。顔が合わせづらくなる。


「こっちに顔を向けなさい」


 そう言い逸らした顔を無理矢理動かされる。顔、近いな。顔が熱くなる。


「お〜照れてる〜可愛い反応するな〜」

「うるさい」


 そう言い彼女の手を払う。柔らかいひんやりとした手が少し恋しいが周りからの視線があまりにも怖いから諦める。


「生の私見て率直にどう思った?」

「男じゃなかったのが残念だなと思った」

「予想以上の可愛さについ結婚したくなった。いやー嬉しいよ。で、いつ挙げる?明日でもなんなら今からでもいいよ?その前にハグしようハグ。さあ!来い!このワガママボディで受け止めてやる!」

「さてはお前、言葉わかんないな?」


 会話が成り立たないしどこかデジャブを感じる。てか法を知らないのか法を。


「結婚は今じゃないとしてハグはしてよ〜」

「あの賭けは平等では無いから無効だ」

「え〜それはないっすよ」


 そう言いながら崩れ落ちる。ぶーと唇を尖らせながらこちらを見ている。


「相談に乗ってくれるんじゃないの?」

「やるけどハグしてからが良い〜」

「またいつかな」

「それやらないやつだよ〜」


 そう言いながら顔を伏せる。なんかアイツに似てるな。


「あの...前...よ」

「なんか言ったか?」

「何も〜」


 気のせいではないだろが本人は隠したいらしいからこれ以上は聞かない。


「私からさ〜鈴ちゃん...ううん、勇凛君に見せたいものがあるんだけど見てもらっていい?」

「...何故、俺の名前を知っている?」

「ほいっ。この紙見て欲しいんだけど...」


 無視された。とりあえず虹色の指示に従う。


「ここ見て欲しいんだけど、この字誰のかわかる?」

「どれどれ、この字どこかで。...まさか!」


 そこには、お母さんの字で名前が夏目理恵と書かれている。その紙の全体を見ると一番上に大きく契約書と書かれている。


「これはね、あなたのお母さんがアルテミスと結んだ契約書なの」


 てことは虹色は。そう思い彼女に視線を向けると、首を縦に振る。どうやらこちらの言いたい事が予想できているようだ。


「そう。だから私はアルテミスの上司なの。」


 あの回想で出ていた何年も仕事をサボっていた上司か。


「周りからはサボってるなんて言われてるけど実際は働いてたんだからね?」

「神様パワーで心を読まないで欲しいな〜」


 こっちから疑問を言わなくても勝手に答えてくれる。少し有難いと思ってしまう。


「どんな仕事してたと思う?」


 首よ横にし、綺麗な髪を揺らす。ここでクイズらしい。


「俺のストーカーだったりして」


 笑いながら冗談を言ってみる。


「よくわかったね〜流石だ!」


 そう言い頭を撫でてくれる。いや〜それ程でも〜...じゃなくて!


「...マジで?」

「マジだよ〜」

 

 ニコッと笑顔で答えてくる。周りからは黄色い声援が出ているが無視しよう。


「インターネットストーカー的な?そんな感じの奴。てか、この契約書しっかり見てみ?」


 そう言われたからもう一度よく読んでみる。


「...どこにも書いてないぞ?」

「よく見て、ここ」


 ...以下の条件で神達との契約を締結します。


「達ってついてるでしょ?つまりは複数と契約してる訳」


 なんで複数の神と契約してるんだ?


「実はこれアルテミスは気付いてないんだよね。元々は入ってなかったんだけど契約した後日に理恵さんに確認したんだよ。そしたらオッケーって言ってたから書いたの、達って」


 段々と答えているがこっちとしてはちんぷんかんぷんだ。


「こっちにも色々とあるんだ。この要望は私じゃなくてゼウス様の要望なんだけどね」

「ゼウスってあの有名な?」

「そう、ギリシャ神話の。アルテミスはゼウス様の娘だね」


 前に調べた時にそんな事を書いてあったな。アルテミスは不倫相手との子だっけ?


「ちょっとあの子が不安だって言っててさ、だから一緒に仕事してあげて欲しいって言われたの。でも、一緒ってアルテミスにバレると私一人でやるって言われちゃうからさ、彼女を騙した訳」

「なるほどね」


 きっとゼウスが不安だと思っている理由も虹色は知ってるだろう。


「ここで良い事教えてあげる。勇凛君をストーカーしている子がまだ居るよ。安心して、皆んな女の子だから」


 安心できる要素あったか?


「その子たちはどちらか言うと仕事体験的な感じなんだけどね」

「それっていいの?」

「上がオッケーって言ってるから多分大丈夫なんでしよ。理恵さんもオッケーくれたし」


 笑顔でとその時の顔をプラスして教えてくれる。言っている姿が想像できるから笑えない。


「そこでさ、お願いがあるんだけど...」

「何?」

「勇凛君の家、行かせてもらっていい?」

「どうして?」

 何も考えず疑問を口にする。

 

「いやーそちらのお宅に一週間ほど仕事を放棄してる方がいらっしゃるからさー」


 その目は笑っておらずメキメキメキと効果音がついてそうな怒筋を作っている。


「会ってくれるかわからないよ?今、喧嘩してるから。仲直りしたくて声掛けても無視されるし...」

「もしかして悩んでたのってアルテミスと喧嘩してた事?」

「そう」

「...なるほど、今から仲直りしよっか」

「そんな簡単に出来るのか?」

「策はあるよ」


 ドヤ顔で答えてくる。猫の手も借りたいぐらいの気持ちでいるからとてもありがたい。グレードが上がりすぎているが。 


「じゃあ行こっか?」

「よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる。


「頭なんて下げなくていいのに。あ、会計は私が払うからいいよ?一応こっちの方が歳上だし」


 そう言って会計までしてくれる。太っ腹ですね姉貴!


「誰がデブだ誰が〜」

「そっちの意味じゃないから!」


 人のお腹を触ってくる。柔らかいものが二つ背中に当たっているがきっとこれは会計のお釣りだろう。俺は払ってないけど。


「思春期の男の子だね〜喜んじゃって」

「...悪かったね」


 顔を赤くし風船のように膨らませる。爆発しそうだ。


「あはは!可愛い〜」


 悪戯好きな少女の笑みをする。この神様には引っ張られぱなしだな。不思議と悪気持ちではない。


「さあ行こう!サボり神の所へ!」


 おーと言いながら拳を上げてみる。それに気づいた彼女は笑顔で真似をしている。今度こそ月の神様を笑顔にしてやりますか。




「ただいま〜」

 返事は返ってこないが一応。

「お邪魔しまーす」

 虹色が挨拶する。

「えっ...」

 ぼとっと目の前で何かが落ちた音がする。目の前にはI’m GOT STALKER と書かれたTシャツを着ている金髪の神様がいる。自作だよな〜どう見ても。流石にセンスを疑う。


「約束のハグ。今しよっか!」


 と静まり返った空気をぶち壊す発言をして抱きついてくる。顔が二つの球体に埋もれる。ほんのりと甘い香りとその柔らかい感触に脳が支配され考える事が出来ない。


「...何してんの〜!」


 少し経ってからアルテミスの叫び声が聞こえる。仲直りどころか悪化しそうだな〜と思いながらもこの感触を楽しんでいる自分を殴りたい。


「もっと堪能してもいいんだよ?」


 耳元から甘い囁き声がする。...偶にはいいよね?殴りたい自分を忘れじっくりと堪能しました。てんごくにいるきぶんでしたまる。





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