自称シスターは最後まで優しかった

 お互いにパンケーキを食べ終わり、真剣な表情で向かい合う。刑務所で面会している気分だ。 


「迷える子羊を導きたいと思います」

「お願いします」


 一応、挨拶する。


「で、最近嫌なことでもあったん?」

「嫌って事ではないけど喧嘩ぽいことしちゃってさ」

 

 アルテミスの事を隠しながら相談したい事を話す。


「でもさ、よく分からないんだよ、相手が怒ってる理由。悪口言ってないんだぜ。でもまあ、その後こっちが強く言い過ぎちゃったのは良くないとは思ってるけど」

「なるほど」


 適度に相槌を打ってくれる。ちゃんと聞いてくれてる感じがして話しやすい。


「その後はどうしたん?」

「向こうがどっか行っちゃってそれ以降、直接話してない」

「気まずいから?」

「それもあるけど向こうがこっちと喋りたくないみたい」


 アルテミスの事以外を包み隠さず話す。


「その子ってどんな感じの子なの?シャイな感じ?」

「真逆。いつもふざけてる感じの奴」

「そんな子と話すんだ。以外」


 だろうな。普段あまり人と喋るタイプじゃないからな。


「いつ出会ったの?」

「二週間ぐらい前かな」

「直近だね」

「直近ですよ」

「女?」


 口からコーヒーを吹き出しそうになる。ストレート過ぎだろ。


「...そう。けど、向こうの事あんまり知らないんだよね、僕」

「なるほど、女絡みか。面白くなってきたな」

「付き合ってないからな、それだけは伝えたく。」

「な〜んだ、付き合ってないのか。つまんないの〜」


 ちゃんと相談乗ってくれてるのか?不安になる反応してきたな。


「でも、一つ言えるのは変えたいと思うなら自分から行かなきゃダメだよ?人間関係はトカゲの尻尾みたいに時間が経てば回復するもんじゃないからさ」


 わかりやすい例えだが、例え方が可愛くない。本当にJKか?


「向こうが会ってくれないんだよ、連絡しても無視されるし」

「尚更、自分から行かなきゃダメだよ、むりにでも。向こうからはほぼ来ないだろから」

「やっぱそうだよな〜」


 無理矢理部屋に入るか?でも、一度も入った事ないし。


「どう声掛ければいいと思う?」

「それは自分で考えて。私よりも勇凛の方がその子に刺さる言葉を掛けてあげれると思うよ?」


 難しいなそれ。やっぱストレートに行くべきだろうか。


「勇凛はどうしてその子と仲直りしたいの?気になってしょうがないから?別にこれから関わらなければいいじゃん、その子と」

「それは...」


 言い返したいが言葉が出ない。アルテミスと仲直りしたいのはそんな自分にとって小さな事なのだろうか。


「いいじゃん、学校生活は別に楽しくないわけじゃないんでしょ?翔平だって綾華先輩だってクラスメイトだって私だって居る。そんな事忘れてさ、学校生活楽しもうよ?」


 耳を撫でるような声で僕を誘惑してくる。それもアリではないと一瞬思うがあの誘惑に負けてはダメだ。


「アイツとは仲良くしたいんだよ。お母さんの頼みって言うかなんと言うか。」

「それは本当に亡くなったお母さんの頼みだから仲良くしたいの?それじゃあ仲直りなんて無理だよ。今日はおしまい、ほな解散」


 そう言い朱奈は立ち上がる。違うんだ。そうじゃない。お母さんの頼みだからでは無いのに直ぐにそんな言葉が出てきてしまう。どうやら無意識に逃げてるみたいだ。素直にならなきゃな俺も。


「...俺はさ、アイツのこと何も知らない。でもさ、アイツは俺の事一方的に知ってんだぜ。それでさ急にキレられちまって。意味わかんないよな全く。だからさ俺も怒ってんだよ、アイツに。」


 俺なんて使うのは中学以来だな。俺って言い方がなんか恥ずかしいなって思って高校生になってから変えたんだっけ。アルテミスは変わってる事に気がついてたのかな?


「なーんだ素直に言えんじゃん。てか、俺って何?急にキャラ変?感情的になると俺になっちゃうんだ」


 朱奈は大笑いする。こうなる事を予測してたのだろうな。きっと。


「ちげーよ。元々は俺だったんだ。高校生になってから僕になったの。」

「僕から俺はたまにあるらしいけど、その逆ってあるんだ」

「俺って子どもぽいじゃん?ちょっと背伸びしたかったんだよ」

「子どもなんだしいいじゃん別に」


 席に戻り両肘をつけ手で顎を支える。きっとまだ話し相手になってくれるんだろう。


「ドーンと来い!いくらでも話し聞いてやるからな」


 やっぱりだ。どこまでも優しいらしいなこの自称シスターは。

「聞いてくれよ...」


 この二週間思ってた事を全てぶち撒ける。彼女はずっと笑顔で聞いてくれた。その姿は子どもの話しを聞く母親みたいな感じ見えるんだろうか。

 結局、閉店まで話しを聞いてくれた。


「すみません。閉店まで居ちゃって」

「いいさ、この店僕一人で経営してるからね。いくらでも居てくれても構わないさ」  


マスターも心が広い人だ。


「じゃ、お会計よろしくね〜」


 そう言い先に店を出て行く。


「まったく...」


 でもまあ、話し聞いてくれたしいいだろう、このくらい。そう思い財布を取り出そうとすると。


「いいよ、お金は。」

「そんな訳にはいかないですよ」

「いいんだよ。この店は利益を出す為に営業してるんじゃ無い。この店は、僕が多くの人と同じ時間を生きている事感じる為に作ったんだ」

「でも...」

「それじゃあ一つお願いしてもいいかな?」

「何ですか?」 


 そう答えると、マスターは笑顔でお願い事をする。


「その子と仲直り出来たらまたこの店に来て話してくれないかい?その子との仲直りするまでの過程を。気になって仕方がないんだよね」


 その顔は年相応の顔では無く、探究心溢れる子どもの笑顔のみたいだ。


「わかりました。また来るのでその時を楽しみにしててくださいね?」

「もちろんさ」


 その後一礼してから店を出る。


「遅かったね?マスターと話してた?」

「そう。男同士の熱い約束してたんだよ」

「仲直りしたら、マスターに報告しようね?」

「もちろんだ」


 聞いてたんだろうなコイツ。今は気分が良いからツッコまない。

 空には雲が一つも無く、月だけが輝きを放っている。俺も自称月の神様をもう一度、輝かせてやりますか。

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