持つべきものは優しい自称シスター

 あの騒動から一週間。その間に言葉を交わした回数は0回。ストーカーさんは今はストーカーする相手を見たくないらしい。

 一応、料理などは作って置いておくと食べてくれる。部屋からは出ているようだか、会わないように時間をずらしているらしい。

 そんな、うやむやな気持ちの中、学校に行っているが落ち着いている気がしない。常にアルテミスの事を考えてしまう。別に恋してる訳ではない。

 あの日以来、急に変わってしまった事が気になってしまう。どの発言がダメなんだろうか。一番は海外っぽいってところか?自称神様が本当の神様なら、一応出身はギリシャになるはず。そこではないはず。うーん分からん。早くなんとかしなきゃな。


「なーに朝から小難しい顔してんの?」

「...そう見えるか?」

「あたぼーよ」


 前に宿題を取った張本人がやってくる。てか、返し方が現代的ではなくないか。本当に今を生きるJKか疑う。


「なーに悩んでるんの」

「まー色々と。人と関わるのは難しいな」

「何、嫌味?」

「安心しろ、お前ではない」

「安心しました」


 そうしてホッと息をついている。可愛らしい反応だ。


「最近、大変そうだね。今までの付けが回ってきた?」

「まあ、そんなとこかな?」

「なんで疑問系なのよ?」

「自分でもよう分からん」

「さいですか」


 やっぱりわかる人にはわかるらしい。


「とにかく、ゆっくり休んだ方がいいよ?最近、ずっと辛そうにしてるし。うたた寝増えたでしょ、最近」

「まあな」


 ぶっきらぼうに返事する。わかるどころか全てお見通しらしい。そう考えると予鈴が鳴る。 


「おっと時間だ。相談があるならいつでものるからね?それじゃ」

「ああ、ありがとな色々」


 朱奈の後ろ姿を見ながら礼を言う。この声は届いていただろうか。良い友達を持ったなと我ながら思ってしまう。




 ホームルームが終わり騒がしくなる。それはそのはず、学生が一番好きであろう時間、放課後だからだ。


「帰るか」


 そう思い立ち上がると背後から声を掛けられる。


「ちょいちょい」

「なんだよ?」

「放課後暇?」

「一応な」

「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない?」


 おお、久しぶりに人に誘われた。家に帰っても何もないしな。


「いいよ、どこ行くの?」

「黙って来なさい」


 怒られた。帰りが遅くなるだろうなきっと。


「ちょっと待ってくれ」


 少し時間を貰う。


「財布の確認なら許す」

「全然持ってないぞ」

「えーーー奢ってもらおうとしたのに」


 しょぼんとする朱奈はどこか小動物に似ている。

 とりあえず、アルテミスに連絡するか。「今日は遅くなるからカップ麺でも食べてくれ」っと。流石のアイツでもカップ麺ぐらいは作れるだろ。...多分。


「オッケーだ。行くぞ」

「今日は私が仕切る番。私の後ろを歩け子ペンギン」


 どうやら、今日からペンギンらしい。ストーカーからペンギンの研究者になっちまうな、あの自称神様は。

 そんなこんなで行き先はお洒落なカフェだ。高校生が行くような場所ない雰囲気をしている。


「よく来るのか?ここの店に」

「月に一回ぐらいで行くね。ここのパンケーキ、すっごい美味しいんだよ」

「意外だな。もっとパステルカラーな感じの店に行ってるイメージがお前にはあるぞ」

「あーゆーのは友達とたまに行くのが良いんだよ。最近、行ってないけど」


 朱奈の印象を改めてやらんとな。

 そんなこんなで入店し席に着く。回りを見るが他の客は居ない。


「いつもありがとね朱奈ちゃん」

「いえいえ、ここの店の雰囲気とマスターが好きだから来てるんですよ?」


 どうやらここのマスターと仲がいいらしい。マスターの年は六十代ぐらいだろうか。白い髪を靡かせている。身長は翔平より少し小さいぐらいだ。この人の雰囲気は何故か安心する。


「珍しいね連れが居るなんて。朱奈ちゃんの彼氏かい?」

「違いますよ〜ただのクラスメイトですよ。迷える子羊を救済しに来たんですよ」

「もしかして、宗教勧誘されそうになってる?」

「冗談だよ、冗談。...多分ね。」

「その深みのある言い方はやめてくれ...」


 心臓に悪いぞ、まったく。


「仲がいいね、二人は。」

「でも、今日で終わりなんですよ〜友情ごっこは終わりだぜあんちゃん。」

そう言い朱奈とマスターは笑い出す。仲がいいな二人とも。

「とりあえず、注文が決まったら読んで下さい。」

「了解で〜す」


 朱奈の返事を受けてからマスターは一礼して元居た位地に戻る。


「私は大人のパンケーキと甘党ココア、勇凛は何にする?」


 あの店長が名前を決めてるんだろうか。メニュー表意外と可愛らしい名前をつけている事が面白い。やはり、人は見た目で判断しちゃいけないな。


「僕はアイスコーヒーと大人のパンケーキにするかな」

「いい判断だよあんちゃん。マスター!注文いい?」

「甘党ココア一つとアイスコーヒー一つと大人のパンケーキ二つだね。他に注文はあるかい?」

「流石マスター!他は大丈夫!」


 どうやら聞いていたらしい。


「始めますか、シスター朱奈の迷える子羊を導こうのコーナー!」


 ずっと気にしてくれていたらしい。優しい奴だな僕と違って。


「最近どした?学校以外でなんかあったの?」


 ここは朱奈の優しさに甘えよう。この考えのまま大人になったらヒモ男になりそうだ。


「えっと、最近色々ありまして...」


 話し始めようとした時、マスター注文の品を持ってくる。


「ごめんね、お話の最中に。大人のパンケーキ二つと甘党ココアとアイスコーヒー。ゆっくりしていってね二人とも。」

「わーい!こんなコーナー後だ後!暖かいうちに食べちゃお!」

「...そうだな」


 赤髪の自称シスターはどうも気まぐれでマイペースなようだ。



 




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