学園モノの授業風景は飛ばされがち
授業の時間は決まった時間よりも長く感じるのは学生あるあるだ。そんな事を六回耐え、なんとかホームルームまで辿り着く。
ホームルームの時間が終わり、クラス中が賑やかになる。それと同時に廊下も騒がしくなる。
それもそのはず、この学校で一番の人気者が歩いているからだ。どんなに騒がしくても足音は甲高く響く。普通は聴こえない為、人気者だけが使える技なのかなと思っている。そんな足音はこの教室の入り口で止まり再び足音が鳴る。その音は段々近づいて来くる。鳴り止んだと思えば目の前に人影が現れれ、そして、その影をつくる人の声が僕の鼓膜を震わす。
「勇凛君、生徒会室に行きましょう?」
一個上とは思えない程落ち着いた声音であり、その声からは歳上としての威厳を感じさせる。振り向くと学校一の人気者、稲荷綾華生徒会長の姿が現れる。
「僕は生徒会活動をサボったりしないですよ」
「先週、全部生徒会室に来なかったくせに」
ズバッと言うね、うちの会長。
「さあ、仕事よ仕事。先週の分が溜まってるから。がんばりなさい」
「先週は忙しかったんですよ〜」
「言い訳無用」
腕を引っ張られながら教室を去っていく。視線がとてつもなく痛い。特に男子からの視線は凄まじく、呪い殺そうとしてくる。翔平の姿が見え、視線を送ろうとすると何故かこちらを向いて泣いていた。
そして僕はそっと彼に向けた視線を逸らし、会長に腕を引っ張られたまま生徒会室に向かう。
稲荷綾華。彼女は昔からの知り合いである。小さい頃から仲良くしてくれて小さい頃は良く遊んでいた。その頃はボーイッシュな女の子であったが、今は美しい髪を腰まで伸ばして、大人びて雰囲気を出しており、唯一変わっていないのは少しキリッとした目つきだけだ。そして一番変わったのは、何がとは言わないが柔らかそうな大きな半円が胸板にくっ付けている事。誰かさんは綾華さんにも勝てない。ツーストライクといったところだな。きっと見逃し三振で終える。
「ところで、なんだけどさ」
「どうしました?」
「勇凛君の方のアパートから知らない女の人の声が聞こえるんだけど。新しい人引っ越して来た?」
「...」
まだアルテミスがある事は誰にも言っていない。周りには一緒に暮らしている事はバレたく無い。急に知らない人と住んでるって知られたら大問題だ。
「ねえねえ、聞いてる?」
反対の席に座る綾華さんは僕の隣に座りこちらを見つめる。
「お〜い?汗凄いけど大丈夫?」
下から顔を覗かせてくる。昔だったら何も思わないが、歳をとるにつれ恥ずかしさを覚える。
「ねぇ〜ってば」
次は腕ではなく顔を引っ張ってくる。彼女が非力なのかそれとも手加減してるからなのかは分からないが少し気持ちよく感じる。...マゾじゃないからな?ついでに補足すると異性しか恋愛対象にしてないからな?
「知らないですよ、綾華さんの気のせいじゃないですか?」
「ほんとに?」
「引っ越ししてきたら挨拶するでしょ?それが来てないから少なくともうちのアパートじゃ無いと思います」
震えた声で答える。
「大学生とかじゃないですか?新年度が始まったばかりですし」
追い討ちを掛けてこれ以上質問されないようにする。
「確かにそうかもね」
ふぅ助かった。アルテミスの事これから考えてかないとなあ。いつかバレるだろうし。
「先週、生徒会室に一回も来てなかったけど何かあったの?」
汗が止まらない。
「今日、変だよ勇凛君。何処か体調悪い?」
「いえ!大丈夫です!」
即答する。
「ちょっとおでこ貸して」
「...えっ」
こつん。綾華さんのおでこと僕のおでこが重なる。その時、部屋の窓から見える木から枝が折れる音が聞こえたのは気のせいだろうか?
「熱は無さそうね。でも今日はもう帰りましょうか」
そう言い綾華さんは立ち上がる。おでこを合わせて熱を測る方法を考えてくれた人、ありがとうございます。これからはあなた様に足の裏を向け寝ません。どこに居るかは知らないけど。てか、これで体温測れるの?でも、いい経験したからそんな事はどうでもいい。
「実は立てないほど辛い?」
「立てます立てます!さあ帰りましょう!綾華さん!」
テンション爆上がりの僕を見て綾華さんはうふふと笑う。その笑顔は今日見た中で一番美しいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます