ストーカーの本領発揮です!
家に着く頃には外は暗くなり始め、空は不気味さと美しさの二つを備える。さっきの余韻はまだ残っておりいつもよりテンションが高いまま家の前に着く。扉を開け、
「ただいまー」
いつもより一オクターブぐらい高い声を響かせる。
「おかえり〜」
一方で向こうはいつもより一オクターブぐらい低い声を出しながらこちらに向かってくる。だが体は出さずリビングに入る為の扉から顔半分だけを出してこちらを見ている。目を見ると光が失われていた。
「...何してんの?」
「なにも〜」
ぶっきらぼうに返事を返された。明らかにテンションが低い。
「どいたどいた。ご飯すぐ作ってやるから座って待ってろ」
しかし、アルテミスは動こうとしない。
「いつもよりテンション高いね〜なんかあったの〜」
脈絡の無い声で聞いてくる
「別に何も無かったぞ。いつもと変わらない何も無い学校生活だった」
大嘘だ。あの出来事がいつもと変わらなかったら、心臓が幾つあっても足りない。現実世界は緑のキノコを食べても残機は増えない。
「ふ〜ん、アレがいつもあるんだ〜」
意味深な言い方をしてくる。
「楽しそうな学校生活だね〜先輩ちゃんに優しくしてもらえて」
そう言いながらリビングに戻っていく。その後ろ姿はアマチュアに負けて悔しがるプロ選手みたいだ。...まて、先輩ちゃんってなんの事だ?まさか!
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「な〜に〜?」
「今日、何してた?」
嫌な予感がするなと思いながら聞くと
「午後からは勇くんのストーカーしてたよ。午前中は別の仕事があったし」
やっぱりか。彼女が母親公認のストーカーである事を忘れていた。午後からって事はやっぱり...
「...見てた?」
「何を〜?」
しらばっくれるアルテミス。どうやら楽しそうなおもちゃを見つけた様だ。彼女の声が少し高くなる。それと同時にこちらの声は低くなる。
「何の事か言ってくれないとわかんないな〜」
こちらを追い詰めてくる。段々といつもの声に戻ってくる。
「ねえねえ何の事かな!」
「うっ」
形勢逆転。彼女の声はいつもどころかそれより高い声になる。勝ち目は無い。白旗の代わりに声を出す。
「綾華さんと生徒会室にいた事だよ。お前知ってたろ」
そう言うと彼女は顔を俯かせる。数秒経ってから顔を上げ、こちらを見てくる。光のないめから一変し泣き目に変身している。
「何よアレ!アレが勇くんの日常なの!」
勇凛君じゃ近所のおばさんっぽいと彼女は思ったらしく、最近は勇くんと呼ばれるようになった。大して変わらないと思うが。
「何よあの女!ぽっとでの癖に!私の勇くんに手を出すなんて!」
「やめて!その言い方は語弊が凄いから!」
地団駄を踏みながらは怒る。まるで僕がアルテミスの彼氏みたいじゃないか。勇くんと呼び方が変わったせいで余計に彼氏ぽくなっている。
どちらかと言うとアンタの方がぽっとでだろ。実際に顔を合わせたのって一週間程前な訳だし。
「顔を合わせたのはそうだけど、私の方が先に勇くんの事知ってたもん?」
「人の心を読まないでください!」
言い訳がやはり小学生。綾華さんの方が精神年齢は大人だ。
「もう知らないもんね〜」
意味のわからない事を言いながらアルテミスはリビングに戻る。泣いたままだ。その後ろ姿を見ていると、そこには昨日には無かった傷が見える。...やっぱりか。
「僕が生徒会室にいる時、窓の目の前にある木の上からみてたでしょ。」
彼女はピタッと止まりゆっくりとこちらを見る。
「何でわかったの?」
どうやら驚きが隠せない様だ。しかし涙は離れていない。
「あの時、外から木の枝が折れた音が聞こえた。それに、腕に傷がついてるだろ。昨日はなかったのに。」
視線を逸らし照れながら答えると急に体が重くなり倒れそうになる。何とか踏み留まると目の前にはアルテミスがいる。女の子特有の甘い匂いがする。
「勇くん大好き!」
ストレートな言葉に少し怯む。彼女がストーカーである事は忘れてはいけない。
「離れた離れた。夕飯作るから待ってなさい。後、顔が惨めだから顔洗ってこい」
「惨めなかおしてないよ〜」
彼女の肩を持ち、距離をとる。心臓の音がきこえてなければいいが。
「は〜い」
遅れた返事をしながら洗面所に向かっていく。以外と素直だ。
「あ〜そういえば聞きたい事があったんだ」
そう言い彼女は振り返るその顔は最初と同じ顔になっており、嫌な予感がする。
「先輩ちゃんとのアレ、どうゆう経緯でなったか教えて貰うから。」
「...はい」
そう言い放ち彼女は洗面所に向かう。感情の切り替えが早すぎてやっぱり怖い。
今夜は我が家で異端審問が行われる事は確定だ。どうやら夜は長いらしい。
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