第ⅩⅤ寝〜夏なんて毎年違うから、でも去年より…

 空を見た、梅雨は明け、強い陽射しの通学路。

 これから夏休みに入る、去年は何がなんだか分からないうちに終わった夏休みだ。


 去年はシアを忘れる為の夏休み、シアを忘れる為の毎日だった。

 気付いたら免許を持ってた、気付いたらバイクに乗ってた。毎日何かをして思考を止めていた。

 学校が苦痛だった、生きるのが苦痛だった。

 何もかも無茶苦茶に…までは言い過ぎだけど、外に出ればバイクだけが生き甲斐だった。


 当時サラが話しかけて来た時も、何を言ってるのか頭に入って来なかった。


 今も隣にサラがいる。ニコニコしながら夏休みの予定を話している。

 バイクに乗せてほしい、海や山、遠くじゃなくても良いからと。

 

 以前…高校入学前のサラは内容も支離滅裂気味で無茶苦茶な話し方だった。

 ペラペラとまだ子供みたいなサラが早口で喋り倒していたな、冷静に考えれば中身が殆ど無かった。

 でも、だから音楽みたいで心地良かったが、最近は普通になってきた。

 

「何だか昔に比べてちゃんとしてきたねぇ」

 

「そんなお爺さんみたいな…まぁまぁ、クラスでも最低限話しますし、仕事でも打ち合わせしますからね!慣れてきたというか…え?昔の方が良かったですか?…」


「いやいや、良い方に変わったよ。前は何言ってるか分からん時あったもの」


 と、言いながら俺はまた…あの人を思い出す。ちゃんと話せるけどすぐ原始人みたいな言葉になっていた、別に普通にしてるのが嫌いじゃないんだよ…普通に話す時の中身は輝いていたから…サラも…

 なんて、俺は本当にすぐ繋げる…シアに。あぁやだやだ…

 

 「夏休みかぁ…まぁ泊まりは厳しいけど海とか良いな…海だと葉山とか良いらしいね。サラの水着かぁ…」


「と、泊まりも、検討してたん…ですか?いや、良いんですよ!?泊まりでも!?水着はちょっと…いや、頑張り!やす!」


 何言ってんのか分からんが、真っ赤になるサラ。

 でも、今の楽しさに溺れるのも悪くないんだろうな…


「まぁ…とりあえずバイト先で話そうか?」

「ハイっ!」


 そんな甘酸っぱい登校をしていた…残り二人のジト目を見ないようにしながら…


「お、お兄ちゃん…旅行!?…家族旅行は!?」


 ほら来た…家族旅行、行くよ、行きますよぉ…


 今年の夏は、家族仲も良かった。

 メグミはまるで本当の兄…しかも仲の良い兄妹の様に話す様になった。

 母さんも俺に気を使わなくなり、正直に気持ちを伝えてくれた。本当の家族になれた気がした。


 そんな夏前の週末、お食事会の帰り道。


「良い人じゃん?母さん、再婚しないの?良いじゃん、俺の事は気にしないで、あの家に皆で住んでも。俺は賛成だよ」


「再婚って…しないわよ、するとしてもアンタ達二人がそれぞれ結婚して家庭を持つまではしない。同じ事は流石にしないわ(笑)」


「それ、いつの話…メグミはどうだった?」


「んーでもお兄ちゃんと一緒じゃなきゃちょっとな~…まだ二人で会うのはちょっと無理かな…何ていうか気不味い…それに、知ってるんだよ?お兄ちゃん、高校卒業したら旅行行こうとしてんの…そのタイミングで家出るつもりなの?」


 ハハハ!旅行バレてら(笑)いきなり話し変えやがった!?でも家を出る気はまだ無いけどね…金貯めてツーリングしたいんだよ、大学行かないからさ(笑)



 今日はメグミの父親…つまり義母さんの離婚した元旦那さんと食事会をした。

 司さんという人で言葉数が少ないが、とても優しい人だった。

 義母さんとは幼馴染で恋愛結婚だったそうだ。

 だけど仕事が災害絡みの関係でほぼ仕事場に泊まり込みらしく、家族との時間が作れない人だと聞いた。

 俺の親父と対極だ、元から明るく笑いよく話すアクティブな親父は、早くから離婚して母親がいなかった俺によく構ったし、メグミの事情も知ってたからメグミをよく連れ出して遊んでいた。


 メグミは父と思うのはウチの親父だけで、司さんはほぼ顔を覚えていない他人…と言っていた。

 ただただ、ずっといない。遊びにも行かないし、子供の行事に何も参加出来ない。

 結果、たまに帰っても義母さんとは会話は無く、メグミは無視…ではなく実際話す事がないから無視みたいになったそうだ。

 家族を養う為とわかっていたとしても…

 想像出来る…その時は、義母さんも司さんと家族の時は、話す事なんて無かったんだろう。

 子供…つまりメグミの話題しかないから。


 だけどメグミも大きくなり、親父との関係は恋愛だ。そして恋人が死んだ…誰に相談や悲しみを吐き出すか…俺やメグミには無理だろう。

 そして大人で相談に乗れる、幼馴染の様な、好意を持ち気持ちを汲んでくれる知ってる男性って言うと…司さん…だろうなぁ…俺でいうと蘭子みたいなもんか…

 

 しかしメグミはそれを裏切りと感じたようで、この事を知り烈火の如くキレ、親、俺に当たり散らし、悪い事もしていたと思う。

 多分、本人は自覚はないが同じ中学の同級生の話だと結構酷いレベルの様だ。

 それが当時の俺に対する態度に出たとも言える。


 でも、義母さんや司さんは俺等とは違う、大人だ。見えるものも、感じるものも、きっと違う。


 まだ大人ではないけど、今ならなんとなく分かる…親父は死んだ、死んだ人に縛られるのは息子である俺も悲しい。

 メグミもそこまで親父に気持ちを持ってくれるのは嬉しいけど、司さんもメグミを愛しているのを知ると…親父なら仲良くしてほしいんじゃないかなって思った。


 何を持って家族とするかのすれ違いで離婚なのかな。産んでくれた母さんとは未だに会う気が起きない。

 そんな事を司さんに聞いたらがコソっと教えてくれた。

 

「仕事に生きてる癖に理想の家族を望んでしまった、自分は何もしてないのに家族を押し付けた。自分の選択が正しいかどうか分からないけど、多分、心の在り方は間違えいたんだよ。産んでくれたお母さんは…まだ君に対して自分の理想の家族像を見ているのかも知れないね…君からすれば接点なんて見えないのに…私も同じだけどね」


 小さな隙間はいつしか大きな溝になり、そのまま谷になってしまった。谷と認識してるか、そもそも谷にすら見えていないのか…


 俺は自分の事はまだ無理だけど、俺の好きなこの、新しい家族のその隙間に入ろうと思った。何か出来るわけじゃない…けど俺が我慢すれば…イヤ、我慢じゃない。

 自分の立ち位置をきちんと自覚すれば、相手次第で上手く、楽しくやれると思ったから、俺も含めて会おうと言った。

 実際会ったら悪い人じゃなかった、だから一緒に住んでも構わないと意思表示をした。これが俺の譲歩であり好意の表現だ。

 だって親父が死んですぐ、皆が険悪な空気の時に義母さんの話相手になってくれたのが元旦那さんだったから。俺の新しい母さん、だけど大好きな母さん、その母さんの大事な人を俺も好きになる。


 昨年、同級生から悪意を浴びたからこそ、感覚や考えが少し変わったし、変えようと努力した。


 

 これは多分、シアの事があったから…俺はシアの事は変われてなかった。多分、未だに何かを間違えている。そして、おめでとうって言えなかった事が…まだ燻っている。でも、やれる事をやる、いつかはシアを心から祝福出来る様な人間になる為に、やれる事をやる。

 家族から、友達から、特別な人に笑えるように。



「太郎、また難しい事を考えてるね、考え過ぎも身体に毒だよ?」


「そーだよお兄ちゃん、蘭子さんみたいに心も身体も軽く考えたほうが良いよ」


「はぁ?」


 家に帰って来たら蘭子がいた。蘭子とメグミと3人でお茶飲んでたら勝手に揉め始めた。


「ウチ、隣だから全部聞こえるんだけどさぁ…メグミ、アンタヤバくない?普通、兄妹間でトイレとか部屋とか侵入しないよ?それに何あの声…」


 トイレって…あぁ、思い出したくない…それに…部屋?


「は?はははぁ?な!?なな!?なになになに!?言ってんの、ららららら蘭子んさん!?そっそそそ、そんな訳ないじゃじゃい?」


「私は乱交も乱婚もしないよ…」


 すると、こっちに身体を向き変え、蘭子が真顔で俺に向かって話す。


「シアの件、アレは多分…何かの間違いじゃないかなぁと思いたいけど…サラはどーすんの?いい加減決めてあげないと可哀想だよ?いや、余計なお世話かも知れないけど…私やメグミと違って学校卒業したら接点が無くなっちゃうじゃん…それって何かフェアじゃないかなぁって」


 なんか整理しろみたいな言い方だけど、義妹と浮気した元カノと男がいる芸能人とその妹の人気イラストレーター…フェアも何も無いだろ…


「待ってくれ、俺…そんなに俺に選択肢はないだろ?少し前からは考えられないが?お前にNT…まぁそれは良いとして…」


 はぁっとため息をついて蘭子は続ける。


「はいはい、太郎はモテモテだよ。私の見る目がありませんでした!ヨータを見てご覧よ?あんな感じで軽く人と付き合うのもまた高校生の特権じゃないかな?シアもそうだけど重く考え過ぎじゃない?」


「でも蘭子はそんな感じで地獄見たじゃん…ヨータは強メンタルなだけっぽいし…」

 

「ぐぅ…それ言われると…何も言えないわ…」


「そうだよ、お兄ちゃんは家族との絆を強くすれば良いの!絆を激しく強く!食事に旅行に室内の…ろ、露天風呂!夏も冬もお出かけね!」


「メグミ…アンタのは家族のソレとは違うから…てゆーか恋というより変態…ストーカ…『ハイィっ!?』


 この二人、揃うといつも煩いんだよなぁ…

 でも蘭子の言ってる事、分かってるんだ…でも、何かな…別に蘭子やヨータが悪いとは言わない…でもなんか俺だと違う様な…


「ほら、また長考モードに入った…将棋の人じゃないんだからさぁ…」


 いつか変わるのかなぁ…変われるのかなぁ。偶然でもまたシアに会いたいよ、あって…友達としてでも話がしたい。

 別に彼氏が出来たとかそんな話はしなくても良い…元気にしてる?だけでも言いたいな。

 サラも偶然にしか会わないって言ってたし、忙しいからな…


 なんて考えてたら二人が俺を見ながら溜息をつく、呆れられてる…ヌヌヌ。

 


 そして楽しい…?夏休みに入った。



※いつも遅くなりずびばぞん、何か自分語り多過ぎ長いになったので分割しました。

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