エピローグ
疲れた。
木に寄りかかって地面に座り込んだ俺は、瓶詰めのワインを口に運ぶ。街だと時折ありつく、よく冷えたワインは最高なんだが。森の中では望めるはずもない。
ともあれ、ワインは旨い。
「疲れた」
旨い、というより先に、弱音が口からこぼれた。
「疲れたね」
目の前で焚き火をいじっている、赤毛の女が同意する。
「ま、こっからはのんびり行こうよ」
肉を串に刺しながら、もう一人の同行者が呑気な声を出した。
「街からもだいぶ離れたしな」
俺はそこまで言って肉の持ち主に対し、ラッシュ、一番デカいの俺な、と言い添えた。
くそったれな『冒険』だった。
よりによって領主が、邪龍を復活させようと儀式の準備をしているという。それを阻止するために、領主の兵力を相手取っての大立ち回り。
最終的には、儀式をぶち壊し領主を殺して、逃げるように街を離れた。
当初の約束通りに依頼人が誤解を解いてくれない限り、あの街で俺たちはお尋ね者だろう。恨まれるのはまっぴらなので、さっさと工作だか申し開きだかを済ませて欲しい。
「ポエナも、きつかったな。準備してた触媒、街に入る前と後で、ほとんど使い切っちまったんだろ?」
我がパーティの貴重な魔法使いを労う。
「だから、消耗品は『触媒』とは呼ばないんだって……うん。大変だったよ」
ポエナは俺を一瞥した後、焚き火に視線を戻した。
「私を止めようとした部隊、やけに装備が良いし士気も高いし。普通に逃げ切れなくて死ぬかと思った。事情分かってもらえないかなって近付いたら、指揮官に怒鳴りつけられて全然話聞いてもらえないし。近付いちゃったせいであっさり取り囲まれるし」
「領主が僕らみたいなのを警戒してたからね。冒険者対策を、できる範囲で丁寧に練って、育て上げてたんだろうね。ポエナを追い詰める部隊なんて、仕える相手さえ間違えなければ、ものすごく優秀な戦力になってただろうに」
「だいたい、魔法使いに歩兵部隊の真ん中を単身突破させるのがおかしいんだよ。戦士! 私の背中を守れよ! むしろ私を背中に守れよ!」
セオリーから言えば、こいつの言い分はもっともだ。しかし、邪龍復活が近付く中、街に先行して潜入していた俺と盗賊のラッシュは、時間と戦いながら儀式の場所を特定し、妨害工作を進めていたのだ。どうしようもなかった。
「ちょっとマズいかなぁ、と思ったから、戦いながら炎魔石、地面にばらまいてたんだけどさ。そうやって
かわいそうに。
「ほら。デカい肉は譲ってやるから。ワイン飲むか?」
のむ、と差し出されたカップに、ワインを注いでやる。
有言実行、俺は二番目にデカそうな肉の串を取り、かぶりついた。良く焼けた肉の脂が口の中にしたたり、たまらない。
ぐったりしたポエナにはラッシュが肉をとってやり、二人も食事を始めた。
こうして、俺たちは今回の冒険も生き残った。
根無し草の冒険者に「帰る」という言葉がふさわしいのかは分からない。しかし、「生きて帰れる」という言葉は素晴らしい。
俺達は冒険をし、生きて帰る。
もちろん、これからも。
(了)
一騎当千・男らの意地・そして鉄板包み焼き 今井士郎 @shiroimai
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