第6話
「あ、ああ…」
以前とは異なる青ざめた肌、服も村で暮らしていたころとは格段に上質なものではあるが長年見てきた娘の顔を忘れることなどありえなく。
「セラフ!」
アリーナさんは村長を跳ねのけて玄関戸の外にいるセラフに抱き着く。
セラフはそれをゆっくりと抱き返した。
「久しぶり、ママ」
「ええ、ええ...! おかえりなさい!」
抱き合い涙を流し合う親子。微笑ましい光景じゃないか。
「納得いただけましたか?」
「この光景を見せられてはな」
厳しい顔をしながらも嬉しそうな村長の爺さん。
「では、我々で話を進めましょうか。せっかくの親子の再会です」
「ああ、そうじゃの」
俺たち二人だけで部屋の囲炉裏の前に腰を下ろし、先程の地図を村長に渡す。
「セラフ様のダンジョンは洞窟型の一階層です。簡単に言えば入り口から部屋一つでボス部屋に直結する形のダンジョンですね」
「えらく簡素じゃな」
「問題があり、セラフ様はダンジョンマスターとして生を送るための知識が欠如しておりますので」
「ダンジョンマスターも大変なんじゃのう」
信用を得られたのか言葉が柔らかい。
「で? ワシらには何をして欲しいんじゃ?」
「まずはダンジョンマスターの仕組みを説明しますね。ダンジョンマスターとは神との契約により、世に降臨することになっています。降臨と言っても動物に知性を持たせたりだとか、セラフ様のように死した者の魂を転生させるのが通常です。無から有を生み出すことは殆どありません。
そして、ダンジョンマスターとして生を受ければ、対価として神にダンジョン税を貢がねばなりません」
「ダンジョン税?」
「人間がダンジョンに侵入している際に発生するエネルギーのことをDPと言います。これを一定数収めなければいけないのです。
また、このエネルギーは感情の振れ幅が大きいと値が大きくなります」
「つまり、ワシらをダンジョンに住まわせて恒久的にそのDPとやらを吸い上げたいと?」
「語弊を恐れずに言うならばそうですね」
一気に険しいことになる村長の表情。そのままチラリと未だになにかを話している親子に視線を向ける。
「セラフを生贄として差し出した後のアリーナは当然だが己を責めた。放っておいたら自決しかねないほどにな。
故に毎日誰かが家を訪れて見張っておったのよ」
「それはまたお優しい」
「地が出とるぞお主。ふん、そんな状況だったんじゃ。アリーナがダンジョンで暮らす分にはいくらでも許可を出す。
だが、ワシらからエネルギーを徴収するなどと聞かされては他の村人を巻き込む事は出来ん」
んー、強情だなぁ。今よりいい暮らしができるのにね。よほど俺を見極めきれてないと見える。
「では、折衷案といきませんか? 先にダンジョンを変革させて食物を採取できるようにします。それを村人総出で収穫に来る。これならばそこまで心配することはないでしょう?」
「ずっとそれでやればよいではないか。何故引っ越す必要がある」
「純粋に遠いからですよ」
歩いて片道三時間だぞお前。
「ダンジョンは移動できないのか?」
「不可能です。ダンジョンを構成するコアはその地に根付きますから。無理に動かせばコアからの力の供給が途絶えてセラフ様が死にます」
ダンジョンコアは契約者の生命力とリンクしているからな。破壊されたり安置されている台座から大きく動かすと契約者もろとも死ぬ設計になっている。
これはアンデッドタイプのダンジョンマスターがゾンビアタックを繰り返して人間側が対処できなくなることを防ぐためのセーフティー処置だ。
「そうか…、わかった。明日、村の皆に伝えておく。明後日に結果を教えるからもう一度訪れて来てくれるか?」
「承知しました。それまでにダンジョンを整えておきます」
今の時点で詰めるところは終わったので、囲炉裏の前からスッと立ち上がり。玄関へ向かう。
「セレス様、そろそろ帰りませんか」
「えぐっ、ひぐっ、もうじょっどだげ」
「承知しました。夜が明ける前に御帰宅ください。日光に当たると御身は溶けますので」
「わがりまじだぁ」
本当に大丈夫なんだろうな。凄く心配だぞ。
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