第3話
「ひとまず全て説明しましたが理解できましたか?」
「多分…」
「わからなければその都度聞いていただければお答えしますので」
もとより一度で全て理解してもらえるとは思っていない。
「そ、それでダンジョン税を払う手段とは…?」
「コツコツやるしかありませんね」
「で、ですよねー」
冒険者を誘いこんでも秒殺されるからなこのダンジョン。マスター部屋の前に多少広い前室あるだけだし。
「まずは内部を改装しましょう。先程説明した人がDPを生み出す仕組みを覚えていますか?」
「感情の起伏で大きく摂取量が変化する…、でしたよね?」
「その通りです、喜び、悲しみ、正と負の感情両方どちらでも大きく揺れ動くことでDPの効率は上がっていきます。
つきましてはセラフ様は一つ選択をお願いします」
「選択?」
「大事なことです。冒険者を殺すダンジョンにするのか、それとも人々と共生するダンジョンにするのかです」
「共生? どういうことです?」
「簡単ですよ、人が死なずに利益を持ち帰れるダンジョンにすれば共生のダンジョンになります。この方々をロウダンジョンマスターと呼びます。
逆に容赦なく人間を殺害するダンジョンのマスターをカオスダンジョンマスターと呼びます。神は世界的なバランスを取るためにこの二つのダンジョンマスターを産んでいます。
人が増えればカオスに力を与え、減りすぎればロウに力を与えて全体的な世界の均衡を取っているんですね。
さて、セラフ様はいかがされますか? 神はどちらでもいいのですが」
セラフの答えは…。
ーーーーーーーーーーーーー
「袷さん優しい人で良かった…」
セラフは教えてもらった生成の機能を使い、高級な生き血を生み出し久方ぶりの美味しい食事を味わっていた。
夜の帳にまぎれて森の動物たちを襲い獲った血とはのど越しが違う。セラフは一日で変化した暮らしに満足していた。
「プランニング? もしてくれたし、あの人にお任せすればいいよねー」
セラフは完全に油断していた。
故に、翌日起こる悲劇には気づくこともなかった。
ーーーーーーーーーーーー
「おはようございます、セラフ様」
「おはようございます! 袷さん! 今日は何をしますか?」
目をランランと輝かせて俺に問うてくるセラフ。うむ、俺が今までサポートしてきたダンジョンマスターと同じ反応である。
「それはセラフ様が決めることですよ」
「え?」
俺はあくまでサポートなのでダンジョンの方針はセラフが決めなければならない。
「わ、私がですか!?」
「セラフ様のダンジョンですから」
「どうすればいいか私には…」
「構想を伝えていただければ形にするのはお手伝いできますが」
「ひーん!」
昨夜は呑気に飯食ってたみたいだから何も考えてないよなー。
俺がメインになって全部やってくれるとみんな勘違いするんだよなぁ。
「よろしいですか? セラフ様はダンジョンで一体何をしたいのですか?」
「共生…」
そう、彼女が選んだのは共生。つまりロウダンジョンマスターになると決めた。
だが選んだだけなのだ。
「共生と言っても色々あります。積極的にダンジョン内に食物、つまり生きている限り果実を生成するトレントや攻撃性のない食用動物などを産みだして採取させ共存すること。
このタイプのマスターはもし冒険者に狙われても土着の住人から守ってもらえることが多いですね。
もう一つは消極的共生、武器や防具にアーティファクト、つまりトレジャーを配備しますがダンジョン自体とコアの部屋との繋がりを切ることで命の保証がされてかつDPが手に入るタイプのマスターですね。欠点は他のタイプに比べて収入が少ないことでしょうか」
「昨日教えてもらった挑戦者に不利があると得られる利益も少ないって言ってた奴ですか?」
うむ、コアの部屋が繋がっていないと完全攻略できないからDPの吸収がかなり減る。大体一万分の一になるんだ。
人間が不利になりすぎないように神がバランスを取った結果がその結論だ。
「その通りです。しかしダンジョンマスターが死ぬ可能性がグッと減るので、そのタイプを取るマスターも少なくはないです」
「そうなんですね。参考までにカオスダンジョンマスターはどのような方が?」
「こちらもタイプとしては二つですね。ダンジョン自体を要塞化して罠と魔物を張り巡らせて自身のフィールドで戦うタイプ。これが一番多いです、おそらく全ダンジョンマスターの中でトップの数を誇るでしょう。欠点は異常な戦闘力を持つ冒険者には打つ手がないことです。
次点は逆に打って出るタイプ、村落や町を襲って人品を回収しDPに変換してまた攻めだす攻撃的なパターンです。この場合はダンジョンはシンプルに人間を飼う牧場に仕立ててDPを吸収する、簡単に言えば冒険者でなく人類の敵ですね。
セラフ様の村の近くにもありました」
「私が生贄にされた…」
「そうです。もうそのダンジョンは存在しませんがね」
そもそもダンジョン同士は近くに現れないからな。このダンジョンが生まれた時点でセラフの村にダンジョンの危険はもうない。
そのことを説明するとセラフは安堵したようだ。
「よかったです、村がもう被害にあわないなら死んだ甲斐があります」
ポジティブでいい娘だなぁ。
「決めました! 私、ダンジョンに村を作ります!」
「ほう、どのようなお考えで?」
結構大きく出たな。
「私の生まれ育ったあの村は土もよくなくて、水源も遠いんです。だから全然野菜も育たなくていつもお腹空いてて…、せっかく生き返って力を手に入れたんだからこの力を使って皆には幸せになってほしいなって!」
「そうですか」
生贄にされて死んだというのに善性の塊だな。神め、最近カオス思想のダンジョンマスターが増えてきたからテコ入れしたな?
いや、蘇生したときに悪感情は全て生命力に昇華されたのか? うむ、興味深い。
「結構です。では早速取り掛かりましょう」
「でも、DPが全然足りないんですけど…」
「大丈夫ですよ。そのための融資機能がありますから」
マスター部屋にあるキーボードとマウスを操作し、融資画面を呼び出す。
「百万DP、期間内返済で利子無しです」
「利子…?」
「簡単に言えば期間内でDPを全て返却すれば余分なDPは掛からないということです。借金とは通常は利子と言って借りたお金に対して多くお金を返さねばなりませんので」
「じゃあ今借りればお得なんですね!」
「有り体に言えば。とりあえずDPを借ります。現状では何もできませんから」
「はーい」
「私が基礎的なダンジョンのマップを作っておきますのでセラフ様はどのような内装にするかお考え下さい」
「任せてください!」
フンスフンスと鼻息荒くメモ帳(DP十ポイント)に文字を書き込んでいくセラフ。
やる気になったようで何よりだ。
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