第2話
「まず、改めて自己紹介を。袷と申します。神より派遣されダンジョン経営をサポートするマネージャーだと思いください」
「ご、ご丁寧にどうも」
混乱しているな。それはともかくお茶ぐらい欲しいものだが。
「チェイリーヴの森ダンジョンのセラフ様でお間違いないですね?」
「は、はい。間違いないです」
ふむ、髪色はここらの人間に多く見られるえんじ色で、肌が白く犬歯が発達しているがそれ以外には特徴無し。典型的なレッサーヴァンパイアだな。神ももう少しサービスしてやればいいのに。
「アナタ様の昨今のダンジョン収入。つまりDP≪ダンジョンポイント≫が殆ど増加せずに横ばいのまま九ヵ月が経ちました、自覚はおありですか?」
「はい、でもどうすればいいのかわからなくて…」
「でしょうね、故に私が派遣されました。年一のダンジョン税を払えるようにセラフ様の領域を改装してまいりましょう」
「で、でも改装するためのDPが!」
金羽の使徒の野郎全然説明してないな。今度会ったらぶん殴ってやる。
「…為すべき説明がされていないようなので私から説明しても?」
「は、はい! お願いします!」
マスター室に備え付けてある座っていた安っぽいテーブルから立ち上がりダンジョン制御装置の前に行く。
およそ六畳半の部屋の大きさで壁の半分が埋まるデカさの制御装置は使いにくいだろう駄神よ。もうちょっと考えてやれよ。
「まず、ダンジョン制御装置の説明からさせていただきます。カメラ機能とマイク機能は理解できていたようですが、そちらの説明は省いても?」
「カメラ? マイク?」
ああ、概念として伝えないと理解できないのか。
「カメラとはこちらの装置でダンジョン内の景色が見渡せる装置です。マイクとは先程私に使われた声を届ける装置ですね」
「あ、それならわかります! それだけは教えてもらいました!」
なんも教えてないじゃないか。クソが。
「わかりました。ダンジョンの事よりまず先に現状を理解してもらいましょうか。聞きたいことは今ここで全て聞いていただけると助かります」
セラフはキョトンとして。頭を抱えて言葉を紡ぐ。
「私、死んだんですよね」
「はい」
今更か。
「生き返ったんですよね?」
「はい、レッサーヴァンパイア。いわゆる下級吸血鬼という魔物として蘇生されました」
「ダンジョンマスターなんですよね?」
「はい、登録名『セラフ』としてマスター登録されていますね。私が神との契約でサポートとして現れているのでそれは間違いありません」
こくりこくりと一つずつ納得するように頭を振るセラフ。小動物みたいだ。
すると、ハッとした表情を浮かべこちらを見てくる。
「私このままダンジョン税を払えないと神様に、こ、殺されちゃうんですか?」
「ダンジョン税を払えずとも殺されることはありませんよ。ちょっと小言を言われるだけです」
「で、でも使徒様が酷い罰を受けるって…」
「あ、そいつは今度殺しとくんで安心してください」
適当な仕事をしやがって。俺の負担が増えてるんだよ。
「こ、ころ…」
「奴は全く仕事をしていませんでしたから。神に報告して処分になりますね、おそらくは」
「そ、そうなんですね…」
いかん、かなり怖がられているな。軌道修正せねば。
「ご安心ください。セラフ様はこれからでもダンジョン税の支払いに間に合わせることができます。私も協力いたしますので」
「あ、ありがとうございます…」
「他の質問はございませんか?」
「な、なんというか。出来ることがわからないので何を質問するべきかわかっていないと言うか」
「なるほど」
言葉のわからない子供と一緒だ。全てを説明しないといけないな。
「ダンジョンマスターとしての能力を全て解説していきますので質問があれば適宜お願いします」
「わかりました」
やっと話が進むので一つ息を吐きモニターを指差す。
「これはモニターと言います。先程のカメラと繋がっていて設置したダンジョン内を監視することができます」
「はい、それは知ってます」
「結構です」
次にマイクを指差す。
「こちらはマイクです。指定したダンジョンのルーム、こちらは後で説明しますがダンジョン内のエリアの範囲ですね、そこへ声を届ける事ができます。先程使われていたのでこれはご存じだと思います」
邪魔しないようにしているのかコクリと小さくうなずくセラフ。
「注意していただきたいのですが、マイクを通して魔術を使うことはできません。あくまで声を届けるだけです」
「私は魔術を使えないので…」
「レッサーヴァンパイアはレベルが上がると使えるようになりますよ? その前に中級吸血鬼のヴァンパイアになることが殆どですが」
「そうなんですか…」
ここら辺の知識は俺と神しか知らんからな。こちらの不手際の詫びで教えるぐらいいいだろう。
「次にモニターの前にあるこの黒い板と楕円の塊、キーボードとマウスと言います。こちらはダンジョンマスターの特権を行使するために必要なものです」
「そうなんですか!? 私ずっと特権特権って叫んで能力を発動しようと…」
顔を覆いペタリと座り込むセラフ。哀れな。
「こちらのマウスとキーボードを使うとモニターに項目が出現します」
マウスと左右に動かしモニターに半透明になった項目が現れる。
この世界の言語に対応したキーボードを操作し、俺はダンジョンマスターの特権の一つである『物質の生成』を選択する。
「あの…。すみません、文字が読めなくて」
「しばしお待ちください」
生成物のカタログは三つ。アイテム、アーティファクト、魔物の三項目であり、今回はアーティファクトを選択する。ズラズラと数千を超える品物の中から『識字の書』を選び購入。値段は百DP。モニターに示されているDPは五千なのでセラフは一切使っていないな。
エンターを押すと部屋に青白い光を纏いながら宝箱が落ちてくる。
「ふわぁ!?」
「これが生成です」
宝箱を開けて中から『識字の書』を取り出し、セラフに渡す。
「こちらをお読みください」
「これは?」
「識字の書と言います。読めばダンジョン周辺で一番多く使われている言葉の文字が読めるようになります」
「え! 凄いです!」
「これはダンジョンマスターになった時に一番に教えられることです。申し訳ございません」
腰を折り深く謝罪する。
「あ、ああ、袷さんが謝ることでは」
「ダンジョンが立ち直るまでの期間精いっぱいサポートしますのでそれを謝罪の対価とさせていただきたく思います」
「はい! よろしくお願いします!」
やっとスタートラインに立てたな…。
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