第10話
姉妹がオムライスを食べ終わり、僕も2杯目のコーヒーを飲み終えたところで口を開く。
「さて、これからどうしよっか?」
普通に考えたら姉妹を家に帰らせるべきだ。
たった一晩で信頼を築けたとは思ってないが、全くの他人よりは信用されただろう。
ならば住所を教えてもらえるかもしれない‥と思ったのだが。
「‥‥んぅ」
咲葉ちゃんは僕が何を言いたいか気付いたらしい。
だが困ったように口籠るばかりだ。
と、心露ちゃんが僕の足元に寄ってくる。
「おにーさまぁ、こころまだいっしょにいたい‥」
足にぎゅっと抱き付くと、うるうると上目遣いで僕を見てくる。
この歳で男をキュンとさせる才能があるのかと思う同時に、なんだか姉妹を虐めている気持ちになってくる。
と、その時だった。
「な、何をしてるの‥?」
入り口の方から声が聞こえ顔を向けると、我が姪っ子殿の五恋がいた。
時計を見ると、いつの間にか五恋が来る時間になっていた。
「おはよう、五恋」
「‥おはようよりも先におじさんに聞きたいことがあるんだけど」
とりあえず挨拶してみるが、姪っ子からはいつも以上に冷めた目が返ってくる。
そんな視線に、僕は足元の心露ちゃんを抱き上げると───ぎゅーっと抱き締めた。
「なにしてるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「わぁい、おにーさまあったかぁい♪」
叫び散らかす五恋と、無邪気に喜ぶ心露ちゃん。
そんな2人を見て、僕は真顔で言う。
「いや、どうせ捕まるならもう少し幼女を堪能しようかとぶしゃ!?」
「離れなさい、この性犯罪者っ!!」
思いっきり投げられたのは五恋のカバン。
年頃の女の子らしく化粧品やらなにやらでパンパンのカバンは重量が半端ではなく、ほっぺにパンチを食らったが如く吹き飛ぶ。
「「波切さん(おにーさま)!?」」
倒れ込む僕に心配そうに近付く姉妹。
全力投球し、はぁはぁと息をする五恋だがあるものを見て目を丸くする。
その視線の先には───咲葉ちゃん。
「あなた‥もしかして卯野さん?」
「‥水無瀬さん」
思わぬところで繋がりがあったことを知る。
そして同時に痛みで僕は意識を手放すのだった。
「‥私の名前は、卯野咲葉です。妹は卯野心露」
「うのこころ、5さいですっ!」
場所は変わって喫茶店のテーブル席。
僕と五恋が隣で、僕の前に咲葉ちゃん、その隣に心露ちゃんといった感じだ。
下を向いて、2度目の自己紹介をする咲葉ちゃん。
対照的に、心露ちゃんは元気いっぱいに手を上げての自己紹介だ。
「それで‥なんであなたたちがここに居るの?」
腕組み脚組みをしながら姉妹を睨みつける五恋。
短いスカートでそんな格好をするせいでチラリと黄色の布が覗くが、指摘するとさらに心象が悪くなるだろう。
心の中で、ごちそうさまですとお礼し口を開く。
パンツはともかく、五恋に詳しい話をする。
「‥‥というわけで、僕が2人に泊まって行くように行ったんだよ。小学生たちが帰るには遅い時間だったからね」
「‥なるほどね」
ちなみに、姉妹が万引きをしようとしたことや今朝裸で抱きつかれたことは隠した。
スーパーでお腹空かせていたのをたまたま発見し声掛けたということにしたが、どうやら気付かれなかったらしい。
そして、驚くことに五恋と咲葉ちゃんは同じ小学校の同級生らしい。
2人とも五年生で、クラスも一緒らしい。
「‥だとしても、知らない男の家に泊まる恐怖や、嘘をつく2人の気持ちや、後から連絡したとはいえ娘が遅い時間でも帰ってこない親の心配とか考えなかったのかしら?」
「それは‥うん、軽率だったね」
五恋の指摘に僕はただただ反省する。
あの時は何となく今帰すのが違う気がして泊めたのだが、確かに大人の判断としては違う気がする。
遅い時間なら迎えを呼ぶとか色々あったはずだ。
「そんな!?波切さんはすごく優しくしてくれましたし、ご飯もご馳走してくれました!それにあの人に連絡したところで迎えになんて‥」
「卯野さん、一歩間違えたらこれは誘拐よ。おじさんが悪くないって言うなら、危うく犯罪者にしかけたことを反省しなさい。それに‥この人はそんな人畜無害じゃないわよ」
そう言ってスカートを直すと僕をジト目で見てくる。
見たのがバレていたらしく、慌てて目線を逸らす。
「‥あなたたちの家庭環境に同情しないとは言わないわ。でもとりあえず帰りなさい。家なら私が送るから」
話は終わりだと、椅子から立ち上がる五恋。
だが、姉妹は立ち上がらない。
咲葉ちゃんは下を向いていて、心露ちゃんはそんな姉を心配そうに見上げていた。
「早くしなさい」
急かす五恋だがその顔は何故か辛そうだ。
そんな3人の顔を見て、僕は立ち上がる。
いきなりの僕の行動に驚く少女たちを置いて僕はカウンターに行く。
メモ帳を取りマジックで書くとそれを入り口ドアの外側に貼り付ける。
"本日、臨時休業"と。
「せっかくだし‥みんなで遊園地にでも行かないかい?」
「「「‥は?」」」
突然の僕の提案に、間抜けな声を返す少女たちだった。
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