第7話
───チュンチュン。
近くの木で鳴くスズメの声と、カーテンの隙間から漏れる朝日の光に少女は目を覚ます。
「‥ん」
まだ眠気を訴える頭で考える。
早く妹を起こして朝ご飯をどうにか調達しなくては。
ようやくお金も貯まったしコインランドリーにも行けるはず。
そんなことを考えたあたりで違和感に気付く。
「あれ?うちの布団ってこんなに柔らかかったっけ?」
ふかふかとした感触はあれだ、前にショッピングモールで触ったベッドに似ている気がする。
目を開くと、そこは慣れ親しんだ家ではなかった。
「ここは‥あっ、そう言えば泊めてもらったんだっけ」
隣にはいびきをかいて眠る妹の心露がいた。
着ていたはずのTシャツは床に落ち真っ裸だった。
そう言えば自分もシャツ一枚で何も履いてないのだと思い出し、思わずシャツを伸ばす。
ふと、昨夜のことを思い出す。
妹が大好きなアニメのお菓子を万引きしようとして、男の人に見つかったんだ。
注意されると同時に、自分の店に来るように名刺を渡された。
冗談だと思っていたし、もしかしたら万引きのことを脅されるのではないかと思いながらも空腹に勝てず足は名刺に書かれた住所に向かっていた。
「‥朝起きてもお腹空いてないなんて初めて」
昨日はお腹いっぱいご飯をご馳走してくれた。
初めて食べる料理もいっぱいあって思わず涙が出そうだったのを覚えている。
そして家に帰るのを渋った自分たちを家に泊めてくれたのだ。
そこまで思い出したところでベッドから立ち上がる。
「ぐぅー。おねぇちゃん‥」
寝ていると思っていた心露に名前を呼ばれ振り向くが、どうやら寝言らしい。
クスッと笑い、心露の頭を撫でると部屋を出る。
記憶を頼りにドアを開けるとリビングに着く。
「‥あれ、居ない」
昨夜大はしゃぎしたソファには薄い毛布が畳まれていた。
恐らく彼はここに寝たのだろうと気付き、途端に申し訳ない気持ちになる。
だが、キッチンにも他の部屋にも彼は居なかった。
もしかしてと思い階段を降りると、そこに彼は居た。
「おはよ、咲葉ちゃん。よく眠れたかい?」
喫茶店の調理スペースから自分に笑い掛ける青年。
昨夜自分たち姉妹に食事をご馳走してくれただけでなく、家にも泊めてくれたこの喫茶店のマスターの波切光希だ。
「お、おはようございます‥」
にこやかに笑う彼に恥ずかしくなり思わず俯く。
元々、咲葉は人見知りだ。
妹の心露は懐いたらアクティブだが、自分はどんな時でも一歩引いてしまう。
特にお世話になった負い目がある光希に対してはそれが顕著だ。
「簡単なのでよかったら朝ご飯食べる?」
お腹が空いてないから大丈夫です、と断わろうとしたが彼の料理を知ってしまった腹の虫は正直で、グゥーと店内に響くほどの音が鳴る。
光希は苦笑しながら料理に取り掛かるが、咲葉の顔はトマトも顔負けなレベルで真っ赤だった。
「すぐできるから座ってて」
「‥ふぁい」
居た堪れなくなって急いで椅子に座る。
恥ずかしくて土に埋まりたい気分だ。
調理スペースでは黒い板?(※咲葉が知らないだけでただのIHコンロです)の上でフライパンを振る光希。
「♪〜」
鼻歌を歌いながら料理する光希の顔をじっと見る。
イケメンというタイプではないが、温和で優しい顔立ちをしている。
料理も絶品と言っていいほど美味しいし、店内も掃除が行き届いている。
なのに、彼は昨日しきりに『お客さんが来ない』と言っていた。
咲葉にはそれが不思議でならなかった。
「ん?咲葉ちゃんどうかした?」
「あ‥え、えっと」
じっと見過ぎていただろうか。
キョトンとした顔の光希に、慌てて言い訳を考える。
───が、その必要はなかった。
階段の方からドタバタと音がすると、彼に向かって小さな影が飛んだ。
それは。
「おっはよー!おにーさま!」
ぎゅーっと彼の顔に抱きつく、
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