第4話
喫茶店の2階は僕の居住スペースになっている。
2つの部屋とダイニングキッチン、お風呂とトイレというアパート程度の設備なら備わっている。
玄関を開けてお客さんを先に入れる。
「どうぞ」
「わぁいー!」
「あっ、こらココっ!」
さっきまでの眠気はどこへやら勢いよく部屋に入って行く心露ちゃんを呼び止めようとする咲葉ちゃん。
というか普段は"ココ"と呼んでいるのか。
「別にいいよ。ほら、咲葉ちゃんも入っておいで」
「は、はい。お邪魔します‥」
ペコリとお辞儀をして玄関を上がると、自分の靴と脱ぎ散らかした妹の靴を揃えて向きを変える。
何というか、"優等生"という言葉がよく似合いそうな子である。
テキトーに脱いだ自分が恥ずかしくなり思わず彼女の隣で靴を直すと、なぜかクスッと笑っていた。
僕が見ているのに気付くと慌てた顔をする。
「あっ、ごめんなさい!」
「いや全然いいけど」
彼女と一緒にリビングに行くと、クッションでゴロゴロする心露ちゃんが居た。
前に通販で思わず衝動買いした、所謂人をダメにするというアレである。
ゆったりしようと1番大きいサイズを買ったからか、心露ちゃんの小さな体はすっぽり埋まっていた。
「やわらか〜い♫」
動くたびにチラリとする白い布には気づかないふりをしつつ。
にこにこと笑う心露ちゃんはとても可愛くて思わず写真を撮りたくなる。
と、咲葉ちゃんがクッションに近付く。
「こらっ!そんなことしたら波切さんに失礼でしょ!」
お姉ちゃんらしく叱る咲葉ちゃん。
しっかりしてるなぁ、と見ていると。
「おねえちゃんこれフカフカだよぉ。きもちい〜♫」
「だから‥ほ、ホントにそんなに気持ちいいの?」
ズルっと思わずズッコケそうになる。
どうやら、年相応に子供らしいところはあるらしい。
クッションではしゃぐ姉妹を横目に、冷蔵庫からカリュピスを取り出す。
料理疲れでビールを飲みたい気分だったが、風呂上がりまで耐えようと必死に我慢する。
テーブルにカリュピスを置くと真っ先に近付いてくる心露ちゃん。
「わぁ、おにいさまありがとう♫」
「はいどうぞー。あ、咲葉ちゃん。ちょっといいかい?」
「‥は、はい」
咲葉ちゃんを呼び寄せ、手に持っているものを渡す。
「‥スマホ?」
「うん、一応おうちに連絡しておきな。理由は友達の家に泊まるとかでもいいから。家の電話番号とスマホの使い方はわかる?」
姉妹のご両親にいい感情を持って無いのは本音だが、それと連絡をしないは違う。
もしかしたら、今必死に彼女たちを探してる可能性もある。
「‥はい」
どこか寂しそうな顔でスマホを受け取ると、咲葉ちゃんは台所の隅へと歩いていった。
あとは彼女の判断に任せるだけだ。
「‥あ、お母さん?‥うん」
僕はわずかに聞こえてくる会話を背中に、とりあえずお風呂でも入れようとリビングを出た。
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