第3話
「‥ごちそうさまでした」
「さまでした〜!」
ケーキを食べ終えると2人揃って僕にペコリと頭を下げる。
姉の方は控えめに、妹の方は元気よく。
そんな姿に思わず笑みが溢れる。
と、なぜか姉の方が焦ったような顔をする。
「‥あの、お金。数千円どころじゃないですよね‥?」
「ん?ああ、君たちから取る気はないから大丈夫だよ」
お金と聞きなんのことかと思ったが、食事代のことのようだ。
元々僕が店に来るよう言ったんだし最初から払わせる気はなかったのだがお腹いっぱいになって思い出してしまったのだろう。
「‥え、でも」
「いいから。大人からの厚意はありがたく受け取りなさい」
「こ、好意!?」
「何を勘違いしてるかわかんないけどそれは違うからね」
そういえば、と彼女たちに尋ねる。
「君たちの名前は?」
「‥昼間、私たちがしたこと通報するんですか?」
「いやしないけど。呼び方が困るからなんとなく聞いただけだよ」
「‥そう、ですか」
怯えたような姉にそう答えると、安心したような顔をする。
もちろん気にならないはずがない。
姉妹ともに薄汚れた服や体に、万引きをし|てしまうほどの空腹。
だが、今の状態でそれを知ってもただの興味で終わってしまう気がした。
「なんなら適当に呼び名つけるけど、君がポチで妹がタマでいいかい?」
「‥犬でも猫でもないですっ」
僕の言葉にクスクスと笑う姉。
食事の間も散々見たが可愛らしく笑う子だ。
「‥
「こころですっ!」
「はい、元気な挨拶素晴らしい。咲葉ちゃんに心露ちゃんね、了解」
今どきというか、可愛らしい名前だなぁ。
…名字を名乗らなかった理由はあえて尋ねない。
「改めて、この店のマスターの波切光希です。光希でもにぃにでもお兄様でも好きに呼んでな」
「‥選択肢がおかしいです!?」
…だって兄呼び憧れるやん?
唯一の希望だった姪っ子はおじさん呼びだし。
「はぁい、おにいさまっ!」
「‥順応してる!?」
「よーし、心露ちゃんはいい子だな。なでなでしてあげるからこっちおいで」
「わぁい!」
とてとてとカウンターの中に入ってくると足に抱きついてくる。
心露ちゃんの綺麗な黒髪を撫でていると、席から視線が。
そちらを見ると、プイっと顔を反らし
た。
ニヤニヤ笑顔で僕が彼女に話し掛ける。
「なんだー?どうかしたかい、咲葉ちゃん?」
「‥な、なんでもないです」
顔を反らしたままそう言う彼女。
物静かな子だと思いきや中々いい反応でからかいがいがありそうだ。
「ふぁ〜」
「ん?眠いか?」
「うん、ねむぅい」
「そうかー」
時計を見ると、夜の9時。
この年頃の子だと眠くなるのも当たり前だろう。
僕は咲葉ちゃんの方に向く。
「家まで送ってくよ。住所聞いてもいいかい?」
「あ‥えっと‥」
僕の質問に困ったように下を向く咲葉ちゃん。
まあ聞いといてあれだけど、うす汚れた服に何日もまともに食べてないんじゃないかと言うほどの食欲。
そして何より、万引きしてまでもお菓子を手に入れようとした姿。
それから見るに、普通の家庭じゃないのは明らかだった。
僕は色々な、もうホントに色々な覚悟を決める。
「よかったら‥ウチ来る?」
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