第2話

「はぁぁ、今日もお客さん全然来なかったなぁ‥‥」


いつもの常連客が1人来たことで何とか姪っ子殿には1000円のバイト代が渡せたが、300円の紅茶が2杯注文されただけで収入的には赤字もいいところ。

夕方になり五恋が帰ると、何となく営業終了モードになり片付けを始める。


「ん?」


店の前で話し声が聞こえた気がする。

スマバで若い子たちがキャーキャー写真撮ったりしているのとは違って小さな声。

ボソボソと話す声に聞き覚えを感じてドアを開く。


「おっ、来てくれたのか」


そこに居たのはスーパーで会った姉妹だった。

いきなりドアが開いたことで驚いたのか、驚く姉とその姉の後ろに隠れる妹。


「腹減ってるんだろ。入って来なよ」


キッチンに戻り冷蔵庫を開ける。

基本お客さんが来ない店だから食材もそんなに準備していないが簡単なものなら作れそうだ。

と、少女たちがまだ入り口にいることに気付く。


「どうした?カウンターにおいで。僕の前で食べるの嫌だったらテーブルでもいいけど」


そう声を掛けるが2人とも動かない。

姉の方はどうしたらいいか困っている様子で、妹も手を握りながらそんな姉を見つめている。

埒が開かないので姉の方の手を掴む。


「失礼っ」

「あっ!」


姉の手を引くと、その姉の手を掴んだ妹の方もついてくる。

一瞬なんだこの光景、という気持ちになるがさておき。

カウンターまで引きずると、まずは妹の方を座らせる。


「よっと」

「わぁ、高い高いだぁ〜」


キャッキャと楽しそうな声を上げる妹。

姉の方もやってやろうかと思うが、無言の拒否を感じやめる。

やがて、諦めたように姉の方も席に座った。


「さて、本日3人目と4人目のお客様。好きなメニューをお選びください」



そして、数分後。


「はいよ、ミックスサンドとクツロ特製グラタンお待ちっ!」

「「(はぐはぐ)」」


テーブルにサンドイッチとグラタンを置くと、すぐに手が伸びてどんどん減っていく。

カウンターには食べ終わった皿が何枚も並んでいた。


というのも、オーダーを聞いても彼女たちは困ったような顔でメニュー表と僕の顔をみるばかりだった。

なのでとりあえずメニューの上から順番に出してみたのだが、まあ食べる食べる。

育ち盛りとは言えみるみるうちにカラになっていく皿にだんだん楽しくなってきた僕はあっという間にメニューの下の方まで行ってしまった。


「はい、クツロ特製ケーキ盛り合わせです」


メニューの最後の方のケーキは一気に出す。

飲み物は最初にオレンジジュースを出したから今回はスルー。

大皿に乗せた色とりどりのケーキに目を輝かせる2人。


「すごぉーい、きれー!」

「‥ホント。可愛くてとても綺麗」

「これは僕が作ったやつじゃないけどね。信頼できる人が作ったケーキだから味は保証するよ」


2人がケーキに手を伸ばす。

妹の方はチョコレート、姉の方はチーズ。

一緒のタイミングで食べると目を見開いた。

そして満面の笑みを浮かべる。


「おいしー!」

「‥おいしいね」


笑顔の2人を見ながら僕は自分用のコーヒーの準備を始めた。

残念ながらドリップではなく、節約目的の特売品だが。

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