第38話 特別扱い


「それで?」


「へ?」


「それで、ワタクシには?」


「はい?」


「ワタクシには、ありませんの?」



お嬢様に瓜二つのパツキンの美人さん、


年齢的には20代中頃?


まだお嬢様と呼ばれても何も違和感がないくらいには若い感じ



今、ワタシの目の前で、ワタシの目をみて、何かを要求しているのは、


そう、


お貴族様の奥様ですね


そして、要求しているモノは、


ぬいぐるみ?


いいえ、たぶん違います



お貴族様は、特別扱いが好き


逆に、他と同じだとご機嫌ナナメ



いくら自分の娘とはいえ、同じぬいぐるみをお渡ししたりなんかしたら、


きっと、プンスカされちゃうのでしょう、きっと



(う~ん、ムズイです)

(何をお渡しすれば、機嫌を損なわずに済むのでしょう)

(ここで食べ物は、ないですよね?)

(既にそれなりの数、ご購入いただいていますし・・・)



そんな考え事をしていると、



「こらこら、エリーゼよさないか。あまり強請るものではないですよ」


お貴族様が奥様を窘めてくれました



(奥様はエリーゼ様とおっしゃるのですね?)


そう思った瞬間、目の前に【買い物履歴】画面が再登場


その中央の[あなたにお勧め]には、




【オルゴール ゼンマイ式 曲エリーゼのために 3,680円】




これはアレです。昔、母の日のプレゼントにと買ったヤツです


小さなピアノの形をしていて、ちょっと小じゃれた感じのヤツです



間髪入れずに購入し、奥様に差し出します


「これなんかいかがでしょう」


「可愛らしいけれど、これはどういったモノなのかしら?」


「これはですね・・・」


そんな感じで、ゼンマイを巻いて実際に曲を聴いてもらいます



「この曲は、エリーゼのために、という曲名なんですよ?」


「まあ! ワタクシのためだなんて、なんて素敵なのかしら!」


特別扱いが大好物のお貴族様たちです


この贈り物は、大層お気に召されたご様子で、一安心のワタシです




「この流れからして、次は私の番かな?」


そしてラスボス登場、お貴族様のご当主様です



「私は、それが気になるのだがね?」


そう言って目を向けるのは、ハンバーガーが乗ったアルミ製のアウトドアテーブルの端


ワタシが売り上げの集計用にと用意していたメモ帳とボールペンを見ているようです



通常、この国で使われている筆記用具と言えば、


鳥類の羽にインクをつけて使う羽ペンと、


動物や魔獣の皮でできた獣皮紙なのだそうで、


真っ白で、きれいに切りそろえられた見たことがない材質のメモ帳、


そして、インクをつけなくても連続して書き続けられるボールペンは、


大層珍しく見えたようです



(おや? 筆記用具にご興味が?)

(それなら簡単。いくらでもご用意いたしましょう!)



【メモ用紙 無地 B7 61円】 ネットショップで送料無料金額の調整の為についでに買ったヤツ

【黒色ボールペン 5本入り 100円】 100円ショップで買った安物のヤツ



【購入履歴】で購入しようとしたところで、ちょっと考えます


(ご本人が欲しいと言うんだから、これでもいいんでしょうけど・・・)

(さりとて、お貴族様にワタシが使っているモノと同じモノをお渡しするけにはまいりませんよね?)

(やっぱり、特別感を出さないとだしね?)



ということで、




【メモ手帳 縦開き 横罫線入り 樹脂カーバ 219円】 たぶん学生時代に買ったヤツ

【3色ボールペン 0.7mm 黒赤青 ラバーグリップ 195円】 たぶん他の文房具を買うついでに買ったヤツ




メモや手帳、ボールペンって、記念品でもらったり、プレゼントされたりで、


あまり自分で買うことはなかったので、


【購入履歴】にはあまり登録されていませんでした



とりあえず、お貴族様に購入したメモ手帳と3色ボールペンをお見せします



「これは?」


「筆記用具です。この3色ボールペンは、ここを捻ると色が切り替わって・・・」


そんな感じで説明終了


お貴族様は、早速、胸ポケットにメモ手帳を入れ、ポケットの縁に3色ボールペンを刺しました


どうやら、ご満足いただけたようです



(それにしても、ご当主様へのプレゼントの値段が・・・)

(まあ、安くても、ご本人がお気に召されているのだから、いいのかな?)




「急に押しかけてしまって、申し訳なかったね」

「それに、プレゼントまで強請ってしまったみたいで」


結局、お貴族様は商品代及び、諸々の迷惑料ということで、大金貨1枚を置いてお帰りでした



(大金貨って、小銀貨の1000倍!?)


プレオープン早々、なかなか、否、かなりの収入です



ちなみに、商品を受け取ったのは、例のいけ好かない従者さん


腰に付けたポーチの中に収納していました


(たぶん、アレはマジックポーチ。さすがお貴族様だね)



そして、お金をお支払いいただいたのも、当然のことながら、そのいけ好かない従者でして・・・


「大金貨など、下賤の者では今後触れる機会などまずありえまい。ありがたく押し頂くように」


そんな、余計な一言と共に・・・


ワタシもお貴族様ご一家も、笑顔でお別れのタイミングだっただけに、最後の最後で台無しです




ちなみに、この従者さん、


ワタシにはあんな捨てゼリフでしたが、


ジェニー姐さんに対しては、こんな感じ


「薬師様、この度はお手を煩わせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

「いずれまた、お会いできる機会を楽しみにしております」

「それでは御前、失礼いたします」



平身低頭ってヤツですね


でもそれが、何だか妙に演技じみていて、逆に慇懃無礼な感じを受けてしまいました



自分より弱者とみるや露骨に見下し、権威的なモノには媚びへつらって特別扱いする従者さん


もうお会いすることはないでしょうから、どうでもいいんですけどね


でも、



「お貴族様は善い人そうなのに、なんで、従者はあんなにアレなんだろうね?」


思わず、こう愚痴ってしまうワタシは悪くないと思います



そして、そんなセリフが自然と口を衝くくらいには、


ワタシは、


「あなたのことが嫌いです」(お家に帰れない地縛霊少女風に)


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