第37話 お偉いさん


「いらっしゃいませぇ~」

「全品小銀貨1枚ですよぉ~」

「いらしゃいま――」


「お前がこの小屋の持ち主であるか」

「この明かりの奉呈を許す」

「今すぐ持参するように」



突如、ワタシの客引きトークに被せてきたのは、


いかにも偉そうな感じの男性


[いいとこで働いていますよ]オーラ全開の、お貴族様の従者さんぽいひと



お店の前に現れたと思ったら、ワタシが聞いていようがいまいが関係ない、


そんな感じで一方的に宣言していらっしゃいます


『そのLED照明をよこせ』


ひとことでまとめると、こんな感じでしょう



お貴族様は、特別なモノだとか、特別扱いとか、そういったものが大好物


きっと、ワタシのお店の輝きをみて、その照明が特別なモノだと思ったのでしょう


庶民はお貴族様が欲するものを献上して当たり前


そんな思考が透けて見えます



(これは、アレですか? いわゆるひとつの、偉い人に絡まれテンプレ?)

(LEDの光に、悪い虫さんが呼び寄せられちゃったかな?)


ん?

テンプレ?




困った時は、頼れる年長者に相談です


ワタシの隣で、なぜかワタシ用のアウトドアチェアでくつろいでいらっしゃるジェニー姐さんに視線を向けます



「・・・そうね、私が話をつけてあげるわ」


ワタシの視線の意味を理解してくれたジェニー姐さん


さすが姐さん


カッコイイっす!



そんな感じで、


ある意味[違う世界に住んでいる]従者さんへの対応は、


ジェニー姐さんに一任です




優雅な所作でお店のシャッター前に出たジェニー姐さん


巧みな話術で何とかしてくれるのかと思って見ていると、


なにやら胸元から米軍のドッグタグ的なモノを取り出して、


従者さんに見せています



すると、なぜか効果覿面、


従者さんは直角のお辞儀をし始めました



(あれれ?)

(なぜかジェニー姐さんに謝り始めてますよ?)


ちょっと意外な反応です


(もしかして、ジェニー姐さんが出したアレは、例の印籠的な感じなのかな?)


(ちりめん問屋のご隠居さん御用達のヤツですかね?)


(ということは、ジェニー姐さんは、前(さき)の副将軍的な?)


どうやら、ワタシの近くにいる薬師様は、思いのほかお偉いさん? のようなのでした


ん?

印籠?

ちりめん問屋?

副将軍?

一体何のこと?




その後、偉そうな従者さんと共にどこかへ行ってしまったジェニー姐さん


(ジェニー姐さん、どこ行ったんだろう?)

(はっ! まさか! 体育倉庫の裏で『顔はやめなよボディボディ』的な感じですか!)


一瞬そんなことが頭をよぎります


【ジェニー姐さん=裏番】、そんなイメージが薄っすら思い浮かぶワタシなのでした


ん?

裏番ってなに?




それから意外と忙しくて、ジェニー姐さんのことをすっかり忘れて、


しばらくお店の営業に集中していたワタシ



そして気が付いたら、何と、ジェニー姐さんがお貴族様とそのご家族を連れてきちゃってました


どうやら姐さんがお貴族様の野営地まで出向き、説明と説得をしてくれた模様なのですが、


その時、お貴族様がワタシのお店に興味を持ってしまったようなのです




「なにやら、興味深いモノがあると聞いてね」


お貴族様のご当主様? の第一声です



従者さんよりも、はるかにフレンドリー


いや、アレと比べたらいけませんね



服装はそこまで豪奢ではないけれど、品がいい感じ


(暑いから軽装なのかな)


そんな、ちょっと風雅な印象のお貴族様です



「全ての商品をひととおり、もらえるかい?」


こんな言葉からはじまった、お貴族様のお買い物タイム


商品全種類のお買い上げ


まさに、大人買いってヤツです



そんな感じで、終始和やか


無茶ぶり的な、イチャモン的な、


そんな異世界テンプレは、未遂で終わってしまいました




そんなおり、ふと、後ろにいたお嬢様と目が合いました


薄青色の、涼し気でゆるふわなワンピースを着ている、5歳ぐらいの金髪美幼女さんです



(将来、楽しみでしょうねぇ~)


なんて思っていると、


いきなり現れる、【買い物履歴】画面


その中央[あなたにお勧め]には、




【ぬいぐるみ スリーピー 全長80cm 抱き枕兼用 3,980円】




これはアレです。某有名米マンガの[眠たげなたれ耳のわんこ]です


きっと、姪が購入したヤツでしょう



このタイミングで大きなぬいぐるみをどうするのか?


それはもちろん、お嬢様へのプレゼントでしょう


そんな[あなたにお勧め]の意図を汲み取り、


早速購入して取り出してみます


5歳ぐらいの女の子には、ちょっと、いや、かなり大きい感じですね


本人と大きさがあまり変わりません


でも、お嬢様は、ワタシの出した[たれ耳のわんこ]に興味津々のご様子


「パァッ」と効果音が出そうなくらいの嬉しそうな満面笑顔


そして期待で爛々と輝く二つの碧眼で、


ワタシとぬいぐるみを交互に見つめてきます



「ハイ、どうぞ」


「いいの? ありがとう!」


早速手渡すと、まさに「がばっ」といった感じで、ぬいぐるみに抱き着くお嬢様


カワイイ女の子が、もっふりした大きなわんこのぬいぐるみに抱き着いている光景は、


なんともホホエマです



「やっぱり、カワイイものが可愛いことをする姿は、尊いですよねぇ~」



ぬいぐるみわんこのたれ耳のふわもふ感を確かめるように、


頬でスリスリしているお嬢様を見ていたら、思わず心の声が漏れてしまいました


でも、みなさんも頷いていらっしゃるので、きっと問題ないでしょう




みなさんとワタシの「尊い」には、微妙にニュアンスの違いがあるかもしれませんが・・・


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