第36話 善意
(光に集まる虫が如く・・・)
集まってきた人々に対してそんな不謹慎なことを考えていると、
ワタシの目の前に、見覚えがある男性が現れました
「よお、道のど真ん中で馬車を止めたお嬢さん、昼ぶりだな!」
「あっ! あの馬車の・・・」
「おう。それで、この明るい小屋は、一体何なんだ?」
「えぇっと、これはワタシのお店ですけど・・・」
「お店? ふぅ~ん、そうか・・・」
道で会った(ワタシが止めた)馬車の御者さんがご来店です
どうやら、異様に目立つ白く輝く小屋があったので、ナニゴトかと見に来たみたいです
そしたら、見覚えがあるワタシがいたので声をかけてみた、そんな感じでしょうか
(それにしたって、大勢の人前で、【馬車を止めたお嬢さん】呼ばわりしなくたって・・・)
御者のおじさんのワタシに対する呼び方や、
本来のコミュ障気味なワタシの性格、
そしてなにより、昼間の御者のおじさんのワタシに対する対応、
そんな諸々の感情から、
御者のおじさんに対し、ちょっと拒否反応が出はじめたワタシ
あまり気安く話しかけてほしくない気持ちになってしまいます
ワタシにとって、はじめて接触した人でもある御者のおじさん
出会い方が微妙だったので、私的にちょっと、複雑な感情になってしまう相手です
おじさん的には、【強引に馬車を止めた】獣人の小娘、
ワタシ的には、【馬車に乗せてくれなかった】不親切なおじさん
客観的に見れば、強引に馬車を止めて、お金も持っていなかったワタシが悪いのですが・・・
それでも、何もわからず、場所も不明、さらに疲労も重なり、とても困っていた時だっただけに、
事情も聞かれず、ただただつっけんどんな態度で乗車拒否されてしまえば、
その時ワタシに刷り込まれた御者のおじさんに対する第一印象は、よろしくないことは確かなのです
(まあ、単なるワタシの八つ当たりなんですけどね)
そんなことを思っていると、再度、御者のおじさんが話しかけてきました
「まあそれはいいや」
「それでだ。これだけの小屋を持ってるってことは、金あるんだろ?」
「明日からオレの馬車に乗せてやろうか?」
ここにきて、まさかのお誘いです
今ならお金も持っていそうだし親切心で誘ってくれたのか、
それとも別の理由があるのか
(その言葉、日中に聞きたかったよ・・・)
そんなことを考えてると、ジェニー姐さんから小声で話しかけられます
「気を付けなさいね」
「え?」
「たぶんだけど、心からの善意であなたを誘っているわけではなさそうよ」
「ワタシがお金持っていそうだからとかです?」
「それもあるだろうけど、目的は別ね」
「別の目的?」
「そう。この小屋をあなたがここで出したということは、この小屋を持ち運べる能力があなたにあるということでしょ?」
「なるほど。つまり、ワタシの輸送能力目当てです?」
「きっとそうだと思うわ」
そんな会話を小声でしていると、御者のおじさんが
「何だったら、乗車賃は値引きしてやってもいいぞ」
「まあその場合、こちらの条件を飲んでもらうことになるんだがね」
(なるほど。ワタシに何かやらせたいのは間違いなさそうですね)
もちろん、ワタシのお返事は決まっています
「いいえ、あなたの馬車にはご迷惑をおかけしたようですし、」
「ワタシがいたら、またご迷惑をかけてしまうかもしれません」
「ですので、これ以上、あなたの馬車には一切関わり合いになりなせん」
少し八つ当たり気味な嫌みものせてのお返事です
「いいのか? また歩いて――」
「ええ、馬車に乗るとしても、他をあたるのでお構いなく」
まだ食い下がろうとするおじさんの言葉を遮り、ハッキリと拒否です
「そうか・・・」
「・・・それじゃあな」
そう小さく言葉を発して、立ち去っていく御者のおじさん
お店を開いて最初に声をかけてきた人物
本来なら、商品の一つでもお勧めするタイミングだったのでしょうが、
この御者のおじさんには、商品を売る気にはなれなかったワタシなのでした
ちょっとおセンチ気味になってしまったワタシの前に、別のお客さん? が登場です
「スキニー嬢ちゃん、こいつに、この肉と野菜の串焼き、売ってやってくれ」
声をかけてくれたのは、ザックさんでした
ザックさんの隣には、ザックさんと同じ制服を着た男性がひとり
中肉中背、あまり特徴という特徴はない、ただただフツー、そんな男性です
「小銀貨1枚でいいか?」
彼はそう言って小銀貨を渡してきます
「ハイです」
「焼き鳥のねぎまは、塩とタレの2本セットなのです」
【インベントリ】からあらかじめビニール袋に入れておいた2本セットを取り出し、彼に手渡します
「どうぞです。ありがとうございますぅ~」
早速、ザックさんの同僚が焼き鳥を買ってくれました
開店早々のお買い上げ
いきなりの展開に、ちょっとビックリです
と同時に、先ほどまでのちょっとモヤっとした気分もなくなりました
それは、ザックさんが来てくれたから
ザックさんが同僚の人を連れてきてくれたから
それはまるでサクラのようで・・・
ワタシの目の前には、サムズアップしているザックさん
ワタシのはじめての現金収入は、
面倒見のいい兄貴分による、やさしい演出が見え隠れするモノなのでした
その後は、異世界物の定番的な冒険者? そんないでたちの5人組さんが登場です
「よお、嬢ちゃん、ここは一体何なんだ?」
「いらっしゃいませぇ~、ここはワタシのお店、すぐ食べられるものを売っていま~す」
「店? 食い物屋か?」
「ハイです」
そんな感じで、気分を切り替え、営業スタートです
「小銀貨ショップでぇ~す」
「お値段は全て、小銀貨1枚で統一していま~す」
「手に持って食べられるものを中心に販売してま~す」
「商品の数には、限りがありま~す」
「営業時間も短めですので、お早めにどうぞ~」
こんな感じのセールストークです
なお、注意事項として、転売ヤーや買占め防止のため、
「転売や買占めはご遠慮くださ~い」
「同じ商品はひとり2個までしか売りませんですよ~」
と制限をかけておくことも忘れません
出鼻はちょっとアレでしたが、突然の開店にも関わらず、
ワタシのお店、小銀貨ショップのプレオープンは、
ザックさんの優しいサクラ的な手助けもあり、
つかみは順調に? 滑りだしたのでした
(あ、BGM流すの忘れてた。まだプレオープンだし、いいか)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。