第五章 性欲があったとしても
とある昼休みに
四限目の授業が終わり昼休みになった。
クラスメイトたちは仲のいい人同士で固まり、お昼ご飯を共にしている。
普段ならば俺も仲のいい男子たちと昼飯を食べるのだが、今日は叶わなそうだ。
仲のいい男子たちが全員、教室に居ないのだ。
別に俺がハブられてるというワケではない。
ある男友達は教師に呼び出しを喰らい、ある男子は仮病で学校を休み、ある男子は部活や委員会の集まりがあって教室を出ている。
それらの偶然が重なり合って、俺は一人ぼっちになってしまった。でも決してハブられているワケではない。絶対にだ。
今更別の男子グループに混ぜてもらう気にもなれず、だからといって教室で一人で飯を食べる気にもなれなかった。
さて、どうしたものか。一人で席に座って頭を悩ませていると……。
「ねえ瑞稀。もしかして今日のお昼休み一人ぼっちな感じ?」
その声に顔を上げてみると、目を丸くさせた莉愛が目の前に立っていた。
莉愛は相変わらずの薄化粧で、ハーフアップにしている髪型が今日も可愛い。
「ああ。もしかしなくても一人ぼっちだ」
机の上には莉愛に作ってもらったお弁当がある。それを取られないようにと手で守りながら、俺は首を縦に振ってみせる。
すると莉愛の表情がパーっと明るくなり、俺の机にバンと手を置いた。
「だ、だったらさ、あたしと一緒にお昼ご飯食べない?」
「うん? だって莉愛の友達は教室に居るだろ」
「居るけど! でも違うんだよー。せっかく瑞稀とお昼ご飯を一緒に食べられるチャンスなの。分かる?」
顔をズイとこちらに寄せて、莉愛が圧を掛けてくる。
「わ、分からなくはないけど……」
「でしょ!? だから今日はあたしと一緒にお昼ご飯食べない?」
「俺は別にいいけど……友達はどうするんだ?」
莉愛の友達へと視線を向ける。莉愛はいつも四人の女友達とご飯を食べているのだが、その全員が笑顔でこちらに手を振っていた。
どうやら俺と莉愛が話しているところをずっと見ていたらしい。
そんな友達の反応を見て、莉愛はふんすと鼻息を吐いた。
「ね? 友達も応援してくれてるから」
「なんの応援だよ」
「そりゃああたしが瑞稀のこと好きなの知ってるから、みんなあたしの恋を応援してくれてるのよ」
「……そういうことか」
莉愛の友達は、莉愛が俺に恋していることを知っているらしい。
そりゃあ笑顔でこちらに手を振るよな。莉愛が友達に応援されているのがヒシヒシと伝わってくる。
「じゃあ一緒に昼飯食うか」
今日のお昼休みは一人ぼっちだと思っていたので、俺としても誰かと昼飯を食べられるのはラッキーだ。
教室で一人で飯を食ってたら、ぼっちだと勘違いされてしまうかもしれないからな。
俺が了承すると、莉愛は目をこれでもかと大きくさせた。
「え、いいの!?」
「なんで莉愛から誘っておいて驚いてるんだよ」
「だって学校の昼休みを瑞稀と一緒に過ごせるんだよ!? こんなに幸せなことある!?」
段々と興奮しだして、莉愛は机に手を置いたままぴょんぴょんと跳ねている。
だから俺は「落ち着け」と言って、机の上に置いてあるお弁当が落ちないようにと手で掴んでおく。
「少し前の休日も一緒に昼飯食べたろ。なんで今更になって一緒にご飯食べるくらいでそんなに興奮するんだ」
「もー、瑞稀は分かってないなー。休日に瑞稀とデート出来るのも幸せだったけど、学校の昼休みを好きな人と過ごせるのは違う幸せがあるんだよ」
ということは、莉愛は俺と一緒に居る時間を幸せだと思ってくれているということだろうか。嬉しいというか、照れくさいというか。
「なんだそれ。俺はどっちも同じにしか思えないけどな」
「ちっちっちー。まだまだ瑞稀は子供だね。女心を分かってないよ。そんなんじゃお姉さんたちも呆れちゃうからね?」
「えぇ……」
休日に一緒に食べるご飯と、学校で一緒に食べるご飯とでそんな違いがあるのか。莉愛はその違いが分かるらしいが、俺にはさっぱりだ。
やはり俺は女心を理解できていないのだろうか。お姉ちゃんたちと一緒に暮らして来て、少しだけ女心を理解しているつもりでいたんだけどな。
「ということで瑞稀! あたしの夢を叶えてよ」
「夢?」
「うん。瑞稀と昼休みを一緒に過ごすって夢」
こいつ……教室には沢山のクラスメイトが居るんだぞ。よくもまあそんなことを涼しい顔して言えるな。そんなことを面と向かって言われて、クラスメイトたちからの視線もあるので、俺の顔は熱くてしょうがない。
「ああ、分かったから。とりあえず場所を移そう」
これ以上教室内でイチャイチャしていると、非モテの男子共に後ろから刺されてしまいかねない。俺はそう思って、お弁当を持って立ち上がった。
「やったー! でもどこに行くの? 外?」
「まあ外は外だけど、屋上かな」
「え、屋上って生徒の立ち入りは禁止されてるよね?」
「立ち入り禁止らしいけど、俺の友達がたまに彼女と屋上で飯食ってるんだよ。先生も見回りに来ないし、誰の目も気にしなくていいからちょうどいいかなって」
俺がそう言うと、莉愛は目に見えない尻尾を振り始めた。
「行く! 屋上行きたい!」
またも興奮して莉愛はぴょんぴょんと跳ねるが、それでも俺の身長には届かない。
相変わらず小さいなあという思いを込めて、莉愛の頭を撫でる。
「ほら、そうと決まればさっさと行くぞ。先客が居たら厄介だから」
莉愛の頭から手を離して歩き出す。
すると俺のすぐ後ろを、莉愛がちょこちょこと着いて来てくれる。
俺たちはこうしてクラスメイトたちから注目されながらも、無事に教室を抜け出すことが出来た。
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