五人で遊園地へ

 日曜日。俺と三人のお姉ちゃんは、遊園地の入場ゲートの前に居た。

 ここは地元で愛される遊園地で、親子連れやカップルの姿が多く見受けられる。

 俺はこの遊園地に子供の頃に訪れているが、お姉ちゃんたちは初めて来たと言っていた。

 前に訪れた時には夏の炎天下の中で歩いたから、暑かったという記憶しか残っていない。でも今日は秋の涼しい気温の中なので、とても動きやすそうだ。絶好の遊園地日和である。


「うわー、遊園地なんて久しぶりなんだけど」


 全員分の入場チケットを買ってきてくれた奏美お姉ちゃんが、俺たちの元へとやって来た。

 奏美お姉ちゃんは白がベースの柄シャツを着ていて、ジーンズで自慢の長い脚が強調されている。


「私も久しぶり。楽しみ」


 入場ゲートから見える遊園地を見て、衣緒お姉ちゃんは目を輝かせている。

 衣緒お姉ちゃんはマーメイドスカートに白色のトップスの裾をインしている。


「ねーねーポップコーンとかある? あとチュロスも食べたい!」


 俺の袖を引っ張りながら、鈴乃お姉ちゃんが遊園地の方を指さした。

 鈴乃お姉ちゃんはベージュ色のジャンパースカートを着用していて、いつもよりも大人な雰囲気がある。


 お姉ちゃんたちは全員オシャレだ。


「たしかポップコーンもチュロスもあったかな。子供の頃の記憶だから今もあるか分からないけど」


 俺は黒色のシャツとパンツを着用していて、女物の腕時計までしてしまっている。これらは全て姉たちが選んでくれたもので、俺は完全にマネキン状態になっている。


 そんな俺たち四人は、入場ゲートの前にある柱のところで固まっている。

 どうして遊園地に入らないのか。それにはちゃんとした理由があって──


「お、お待たせしました……! 早く着いたつもりだったんですけど、もう着いていたなんて……!」


 慌てた様子でこちらへも駆けて来たのは、トレンチコートを着た莉愛だった。


 どうして俺たち姉弟四人と莉愛が一緒に居るのか。それは三日前に遡る。


 □□□


 姉弟四人で寝る前に、特に理由もなく衣緒お姉ちゃんの部屋に集まっていた。こうして適当に集まることは、週に何度かあることだ。

 衣緒お姉ちゃんはベッドの上で丸くなり、奏美お姉ちゃんは俺の隣りでスマホをいじり、鈴乃お姉ちゃんはあくびをしながら宿題をしている。


「瑞稀くん。この遊園地行ったことある?」


 俺と肩をくっつけて座っている奏美お姉ちゃんが、こちらにスマホの画面を見せた。

 そこにはここから車で三十分ほどのところにある、そこそこ大きな遊園地の記事が載っていた。


「あー、ここか。小さい頃に一回だけ行ったことあるな」


「やっぱあるんだー。いいなー。ここ楽しそう」


「小さい頃は楽しかったけど今はどうだろう」


「遊園地はたまに行くと楽しいんだよー。最近遊園地とか行った?」


「小学生の時に行ったきりで最近は行ってないかもなー」


 俺と奏美お姉ちゃんで同じスマホを覗いていると、後ろからガサゴソと聞こえてきた。


「私も最近遊園地行ってない。久しぶりに行きたいな」


 俺と奏美お姉ちゃんの頭の間から、衣緒お姉ちゃんの頭が出てきた。ベッドの上からスマホを覗きにやって来たのだ。


「いいねいいね〜。わたしも久しぶりに遊園地行きたーい」


 ローテーブルに並ぶノートから顔を上げて、鈴乃お姉ちゃんもこちらに視線を向けた。

 どうやらお姉ちゃんたちは、遊園地に行きたいらしい。


「じゃあ今週行く? ここの遊園地」


 奏美お姉ちゃんがそう言うと、衣緒お姉ちゃんと鈴乃お姉ちゃんは途端に目を輝かせた。


「行く。絶対行く」


「行きたい行きたい!」


 衣緒お姉ちゃんはベッドの上に座りながらぴょんぴょんと跳ねて、鈴乃お姉ちゃんは勢いよく手を挙げた。


「瑞稀くんはどう? 遊園地」


 奏美お姉ちゃんが俺の顔を覗き込む。


「ああ、俺も行こうかな」


 俺の土日はいつも空いているので、もちろんオーケーだ。俺がそう口にすると、後ろから衣緒お姉ちゃんに抱き着かれた。


「じゃあ今週の土日どっちか遊園地行こうか。みんな空いてるの?」


 奏美お姉ちゃんが尋ねると、衣緒お姉ちゃんと鈴乃お姉ちゃんが「日曜日なら」と声を揃えた。

 奏美お姉ちゃんも日曜日なら空いているらしいので、俺も合わせることになった。


「これで決まり。日曜日は遊園地。楽しみ」


 衣緒お姉ちゃんは俺に抱き着いたまま、本当に嬉しそうな声を漏らした。


「あ、そうだ。あの子も誘おうよ。ほら、瑞稀くんが仲良い子」


 鈴乃お姉ちゃんが「ほら、なんとかちゃん」と言うと、衣緒お姉ちゃんと奏美お姉ちゃんも「いいねー」とニヤニヤしながら賛同した。

 俺が仲のいい子というと、一人しかいない。


「あー、莉愛か。俺は別にいいんだけど、お姉ちゃんたちはいいの?」


 話題には上がったことがあるが、莉愛とはほとんど面識がないのにいいのだろうかと思って聞くと、お姉ちゃんたちはニヤケ顔で同時に頷いた。


 こうして俺は、莉愛を遊園地に誘う使命を担った。


 □□□


 姉たち三人の視線が、肩で息をする莉愛へと集まる。


 俺が莉愛を遊園地に誘うと、「え、ほんと!? 行きたい!」と二つ返事を貰ったのだ。

 その時に「お姉ちゃんが車で莉愛のこと迎えに行くって言ってるけど」と言ったのだが、「いや、緊張して死ぬかもだから、あたしはバスで行くよ」と言われてしまった。だからこうして、俺たちと莉愛は別々で遊園地にやって来た。


 現在の時刻は十三時半を少し過ぎたところ。待ち合わせをしていた時刻は十四時なので、だいぶ早く合流したことになる。


「へぇ、君が莉愛ちゃんか」


 奏美お姉ちゃんが目の前に立つと、莉愛はその場でピシッと直立した。


「は、はい! 今日はお誘い頂きありがとうございます! 白塚莉愛と言います! よろしくお願いします!」


 勢いよく頭を下げる莉愛は、いつもの余裕がある感じではない。俺の姉たちを前にして緊張しているようだ。


「ねえねえ! わたしのこと覚えてる?」


 莉愛が緊張をしていることなど気にもせずに、鈴乃お姉ちゃんは積極的に絡みに行く。


「は、はい! もちろん覚えてます! 前に瑞稀にお弁当を届けに来た一つ上のお姉さんですよね?」


「おー! よく覚えてるね! あたしも莉愛ちゃんのこと覚えてるよ。すごく可愛い子が居るなーって思ってたから」


「そんなそんな。お姉さんたちの方が圧倒的に顔面偏差値高いですよ。自信なくなっちゃいます」


「あはは」と笑った莉愛の唇は、オレンジ色に光っている。頑張って化粧をして来たのだろう。


「自己紹介は歩きながらすることにしよ。莉愛ちゃんの分もチケット買って来たから、遊園地入っちゃおうよ」


 奏美お姉ちゃんは五枚のチケットを、莉愛へと見せた。


「え! あたしの分も買っててくれたんですか。いくらでした?」


「あー、いいよお金は。アタシたちが誘ったんだから奢ってあげるー」


「そんなそんな! 悪いですよ! お金払います!」


「ダーメ。高校生なんだから素直に奢られた方が可愛いよ。ってことで、さっそくしゅっぱーつ」


 奏美お姉ちゃんは笑顔で踵を返すと、入場ゲートへと歩き出した。その後ろを、衣緒お姉ちゃんと鈴乃お姉ちゃんも追う。


 残された俺と莉愛は横に並び、互いに顔を向け合う。


「莉愛、大丈夫か?」


「う、うん。すごく緊張するけど大丈夫」


「……あんまり無理するなよ」


「はい。頑張ります」


 初めての姉たちに圧倒されている莉愛を連れて、俺もお姉ちゃんたちの後を追うことにした。

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