第三章 これが性欲……?

三姉妹のクモの巣

 五日間の退屈な平日も終わり、ようやく土曜日になった。


 俺の土曜日は普段なら特に予定など入っていないことが多いが、今日はちゃんと用事がある。

 昨日の夜に奏美お姉ちゃんから「明日姉弟だけで出掛けるから水着だけ用意しておいて」と言われたのだ。

 どこに行くのかは聞き忘れていたが、もうすぐで十月になる季節なので海に行くことはないだろう。そうなると、室内プールだろうか。


 泳ぐのなんて久しぶりだから、上手く泳げるかな……なんて、昨日までは考えていた。


「あ、衣緒お姉ちゃん。コンドームあるよ」


「ほんとだ。奏美、開けてみて」


「お姉ちゃんお姉ちゃん! こっちの自販機みたいなのに精力剤売ってる!」


 水着姿の姉たちが大きなベッドに座ってワイワイと盛り上がっているのを、俺はフカフカのソファーに座りながら眺める。ちなみに俺も姉たちと同じように、水着姿の海パン一丁である。

 それに勘のいい人なら気が付いたかもしれないが、俺は三人の姉たちとラブホテルに来ている。

 四人でも寝れるくらいの大きなベッド。貴族が座るようなフカフカのソファー。豪勢なシャンデリア……などなど。ちょっと高級めのホテルのようだが、コンドームなども置いてある至って普通のラブホだ。


「あれー、瑞稀くんもこっち来て遊ぼうよ。面白いものいっぱいあるよ」


 初めてのラブホテルに圧倒されていると、青色のワンショルダービキニを着用している奏美お姉ちゃんがやって来た。

 奏美お姉ちゃんはモデルというだけあり、ウエストはくびれていて、手足も白くスラッとしている。そして一番目立つおっぱいは、小ぶりのスイカくらいの大きさはありそうだ。


「どんな顔しながらお姉ちゃんたちとコンドームで遊べばいいんだ?」


「男の子の顔で居ればいいんじゃない? 瑞稀くんの場合、性に関心があることはいいことだよ」


「俺には難易度が高すぎるよ。それになんでラブホテルなの? プールに行くんじゃないの?」


「プールに行くなんて言ったっけ?」


 不思議そうな顔をしながら、奏美お姉ちゃんは首を傾げた。


「いや言ってないけど……水着用意してって言われたら普通プールに行くのかと思うじゃん」


「いいや? 水着って言ったら水着パーティーでしょ」


「み、水着パーティー……」


 奏美お姉ちゃんの言う通り、四人全員が水着姿になっていて、かつテーブルにお菓子やジュースが置いてあるところだけを見ると水着パーティーだ。

 いや待て。そもそも水着パーティーってなんだ。聞いたこともないぞ。


「まあまあ、細かいことはいいじゃん。瑞稀くんがこっち来てくれないなら、アタシが瑞稀くんのことをベッドに引きずり込むまで」


 奏美お姉ちゃんは変に笑顔を作ると、俺の腕を掴んだ。その勢いのまま、立たせられてしまう。


「立っちゃったね。こうなったらこっちのもんだから」


「ふふふ」と笑った奏美お姉ちゃんは、意外にも強い力で俺のことを引っ張る。


「ま、待ってくれ。奏美お姉ちゃん」


「いーやーだ。今日ラブホに来たのは瑞稀くんの性欲を復活させるためなんだから、こっち来なさい」


「だから性欲はもともと無かったから復活もなにも──」


「だああ、細かいことはいいから。ほら、ベッドにダーイブ♪」


 奏美お姉ちゃんは笑顔のまま、俺の背中を突き飛ばした。バランスを崩してベッドに倒れ込むと、誰かの足が俺の首周りに絡みついた。スベスベで華奢な太ももやふくらはぎに、軽く締めつけられる。


「瑞稀くん。捕まえた」


 この声は衣緒お姉ちゃんだ。どうやら俺は今、衣緒お姉ちゃんに脚で捕まえられているらしい。

 しかも水着のまま脚で締めつけられているので、生足が俺の顔を覆う。


「衣緒お姉ちゃん。ギブ」


 首に絡みつく脚をタップすると、衣緒お姉ちゃんは何も言わず俺を解放してくれた。

 そこでようやく体を起こすことが出来たので、俺を生足で締めつけていた犯人に目をやる。

 そこには黒と白の水玉模様をしたビキニを着用している衣緒お姉ちゃんが、寝転がりながらこちらを見ていた。


「瑞稀くん。ベッドに来たら逃げられないよ」


「え、どういうことですか」


「ここは私たち三姉妹のクモの巣だから」


「……余計にどういうことですか」


 衣緒お姉ちゃんの言ってる意味を理解出来ずにいると、突然後ろから誰かが抱き着いてきた。柔らかなものが背中に押しつけられる。まあなんとなく、誰だか予想できるが……。


「瑞稀くーん! 一緒に遊ぼー!」


 やっぱり鈴乃お姉ちゃんだった。

 背中越しに感じる鈴乃お姉ちゃんの胸は、少しだけ小さめだろうか。


「遊ぶってなにで遊ぶんだ?」


「なんでも! 四人で遊びたい! ラブホならではの遊び!」


「ラブホならではの遊びかあ……」


 男と女がラブホでする遊びなんて、一つしかないのではなかろうか。でもそれを姉たちの前で口にするのは、なんとなくはばかられる。


「うーん、 どうせなら瑞稀くんに性欲がつくような遊びがしたいよね」


 奏美お姉ちゃんはベッドに腰掛けると、俺の膝に手を置いた。


「そうだね。瑞稀くんの性欲がつくような遊びしよ」


「性欲がつく遊びかー。じゃあエッチなことだね!」


 衣緒お姉ちゃんと鈴乃お姉ちゃんも、『性欲がつく遊び』で同意したようだ。

 今まで気が付かなかったが、この三姉妹は頭のネジが緩んでいるのかもしれない。


 鈴乃お姉ちゃんは俺の体から離れると、枕を抱きかかえながら座った。

 鈴乃お姉ちゃんは、ピンク色がベースのワンピース水着を着ている。


 姉たち三人は揃って頭を悩ませると、衣緒お姉ちゃんが何か思い付いたのか手を挙げた。


「私たちのおっぱいのカップを瑞稀くんが当てるゲームはどう?」


 おっぱいのカップとは、その大きさによってAカップとかBカップとか言われているものだ。

 それを俺が当てるだと? よくそんなゲームを思い付いたものだ。


「いいんじゃないかな。瑞稀くん、アタシたちのカップ知らないよね?」


「もちろん知らないわ」


「じゃあアタシは賛成だけど、鈴乃はどう?」


 奏美お姉ちゃんは俺から離れると、鈴乃お姉ちゃんに視線を向けた。

 鈴乃お姉ちゃんは少しだけ考えたあと、首を縦に振った。


「わたしもそれでいいよ。もしかしたらわたしたちのおっぱいで瑞稀くんの性欲が目覚めるかもしれないから」


 なんなんだこの三姉妹は。

 自分たちのカップを弟に当てさせることに、恥じらいというものはないのだろうか。


「じゃあ決まり。瑞稀くんは今から、私たちのおっぱいのカップを当てて」


 衣緒お姉ちゃんは自分のおっぱいを下から持ち上げながら、真顔で淡々と話した。


「ど、どうやってカップを当てるんだ?」


「見たり揉んだりして」


「揉んでもいいのか……」


「もちろん。揉まないと分からないかもしれない」


 姉たちのおっぱいを揉むとなると、相当な勇気がいる。やっぱりこの遊びは、やめた方がいい気がしてきた……。


「ただ当てるだけじゃつまらないから、三人のカップを当てたらご褒美あげるよ」


 今度は奏美お姉ちゃんがウィンクをした。


「ご褒美って?」


 ラブホでのご褒美と言ったら、『そういう行為』だろうか。でもそういう行為には興味がないから、違う遊びを提案しようとすると──。


「何カップか当てたら一人につき千円あげる。三人当てたら三千円だね」


「やります。やらせてください」


 即答だった。

 俺はバイトもしていない高校生なので、常にお金には困っている。三千円なんて貰えたら、学校でジュースが何本買えるだろう。

 そう考えてみると、おっぱいのカップを当てる遊びに参加するしか道はなかった。


「でもご褒美があるってことは罰もあるからね!」


「ば、罰……?」


「うん! 三人全員のカップを当てられなかったら、くすぐりの形が待ってるから!」


 鈴乃お姉ちゃんの言葉に、衣緒お姉ちゃんが「三人からくすぐられるから」と付け足した。

 全員のカップを当てられなかったらくすぐられるのか……お姉ちゃんたちはくすぐりが上手いらしいから罰は嫌だなと思いつつも、目先のお金に目が眩んだ。


「それでもやります。お金欲しいんで」


 俺が真顔で言うと、奏美お姉ちゃんは「あはは!」と膝を叩いて笑いだした。


「そっかそっか。瑞稀くんを釣るにはお金が一番いいんだね。覚えておくよ」


 奏美お姉ちゃんは涙を浮かべて笑いながら、俺の目の前にあぐらをかいて座った。その瞬間に、大きな胸がぷるんと揺れる。


「じゃ、まずはアタシのを当てて貰おうかな」


「目は開けたままでいいの?」


「もちろん。目で見て揉んで確かめな。これは瑞稀くんに性欲をつけることも目的なんだから」


 そういうことならば、揉ませて頂くことにしよう。

 堂々とおっぱいを揉む経験はしたことがない上に賞金がかかっているので、若干の緊張がある。


 でも大丈夫。三人のおっぱいを見た限りだと、『鈴乃<衣緒<奏美』の順でおっぱいが大きい。

 あとはその順でカップ数をつければ、三千円が見えてくる。


「分かった。じゃあ遠慮なく揉ませて貰うからな」


 勝ちを確信しながらも、俺は奏美お姉ちゃんのおっぱいに手を伸ばした。


 こうして、姉たちのおっぱいが何カップか当てる謎のゲームが始まってしまったのだった。

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