第2話 少しぐらいは残します。
期待していた。大冒険があって、強い敵と戦ったりしたり、可愛い子とイチャイチャ出来ると期待していた。しかし現実は違った。
「これが最後の仕事だ」
旅というものがなかった。フレイヤさんはワープ系の魔術に長けていて、祭壇に火を灯す仕事が終わったら、瞬時に別のところに移動していた。これを繰り返していた。合計で数分も経っちゃいないだろう。今更だが、何故火の能力が使えるかは……突っ込まないでおこうと思う。どうせ知る機会なんてない。
「どうした。穂村。何故落胆している」
「だって異世界全然楽しめてない」
「よく分からんが帰るぞ」
冷たい。フレイヤさん、だいぶ冷たい。クールにも程がある。
「ちょっとぐらい観光したい」
ため息を吐かれた。酷い。少しは褒めてもいいだろう。言っても無駄になりそうなので言わないが。
「観光という概念は分からぬが……少なくとも若いお前が楽しめるものはない。そう断言しよう」
断言してしまった。泣きそうだ。折角の異世界だというのに楽しめないまま、帰ってしまうなんて嫌だ。どうにか跡ぐらいは残しておきたい。そうだ。神殿の奥にある両手持ちの剣。そこまで行こう。
「おい。どこに行くつもりだ。というか何するつもりだ」
やっとフレイヤさんが慌てる様子を見せてくれた。人間らしさがあってホッとする。
「ちょっとな。こうしてこうで」
付与魔法とかそういう類を施す。全部を燃やすは流石にマズイ。浄化の炎がいいだろう。これなら普段は迷惑をかけないただの剣として飾られるはずだ。
「これでどう」
とはいえ勝手な行動だ。上司に聞いてもしダメなら解除しよう。そういう気持ちで尋ねた。この様子だと問題はなさそうだ。
「まあこれぐらいなら問題ないだろう。どうやら帰っても問題ないみたいだな。帰るぞ」
本当に問題なかった。そんなわけで頼まれごとを完了した俺は世界と世界の間に戻った。そして三途の川を渡って、普通に裁判を受けた。
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