第11話 賢者

 聖国を止めることに決めた俺は、ヴォルフの家に滞在することにした。

 もちろんラミは反対だ。


「ちょっと!荷物届けて終わりじゃないの?」


 ラミは怒るというより、心配そうな顔で俺をうかがう。


「俺はヴォルフといるよ。何も知らなすぎるんだ。

 聖国のことも、ヴォルフたちの事も詳しく知りたい」

「そんな……」

「心配するな。先にラミだけは村に帰すから」

「そういうことじゃなくて……。

 急に世界を救うとか言いだすから、大丈夫なのか心配になったんだよ。

 ニックは本当に何も知らないから」


 外の世界から村にきた彼女たちは、外の世界を知らない俺に異常なほど過保護だ。


「知らないなら、教えてやるのも優しさだと思うが」


 ヴォルフが助け舟を出してくれた。


「ラミ、俺はハミの母親を連れてきてから、ずっと考えていたんだ。

 村は平和でなんの苦しみもないが、外の世界はみんな苦しみ、餓えている。

 それを知らないフリをして、暮らすことは俺にはできない」

「いきなり言うのはズルい……」


 ラミは力無くつぶやいた。

 だがすぐに、ラミは自分のほほを両手でパシリとたたく。


「よし!それなら私はニックと一緒にいるよ。

 世界を救うのが使命なら、常識レベルで知るべきだろ?」

「ほう、ずいぶん思い切りがいいな」


 ヴォルフが面白そうにラミをみる。


「当たり前でしょ!

 スリルがあるのにノコノコ帰るなんて、つまらないじゃないか」


「なら、働かざるもの食うべからず、だ。

 二人とも武器作りを手伝え」



 それから、ヴォルフの家の隣にある、作業場へ移動した。


「材料はここで乾かしている」


 同じ大きさに揃えられた木材がいくつも並んでいる。


「もう少し乾かしたほうがいいんだが……」


 木を手にとり、具合を確かめるようにヴォルフがつぶやく。


「ニック、部屋を暖めて乾かせない?」

「多分できるけど、木って急に乾燥させたら割れたりしないか?」

「ゆっくりならいいだろう」


 俺は体熱を上げて、翼であおいでみた。


「どうだろう?」

「これはいい。もう少し温度をあげても大丈夫だ」

「これくらい?」

「あっつ……私は外にいるよ」


 それから一時間くらいで木材の乾燥は終わった。

 雑な感じだったがあんなのでいいらしい。


「さて、ニック。火を吹いてこれを曲げてくれ」


 小さな火を作って金属を熱した。

 それをヴォルフが木材にあわせて曲げて装着する。


 フェニックスが火をあやつるって、みんな知ってるんだな。

 なんか今、自然に頼まれた。


「次は強めで」

「少し暖めるくらいで頼む」


 ヴォルフの指示で、俺は色んなバリエーションの火をあやつる。

 そうしてできた武器は、火縄銃に近いものだった。

 なんというか、もっと単純な作りのボロい銃が出来たのだ。


「銃?」

「これは知ってるのか!?」


 驚くヴォルフにあわててごまかす。


「いや、昔テレビでみて……

 いや、テレビっていうか、本?違うな、えっと……」

「前世の記憶か?たまにいるな、覚えてるやつ」


 ヴォルフは当たり前のように答えた。


「え?俺以外にも、前世の記憶を持つやつがいるのか?」

「人獣族は多いぞ。

 とくに色々知ってるやつは、賢者っていわれて重宝されている」

「へぇ。会ってみたい」

「そりゃ良かった。銃の試し打ちをしてもらうから、今から会えるぞ」



 それからヴォルフに、木々がしげる森へと案内された。

 出会えた賢者は、オランウータンみたいなサルの人獣族だった。

 ただ、顔つきがキリッとしてる。

 イケメンのオランウータンみたいだ。


「フェニックスがあらわれるなんて……何かが起こりそうだねぇ」


 賢者はおだやかに俺たちに話しかけた。


「前世を知るものがいると聞いたんだ?

 それは本当か?」

「たまにいるよ。私もそうだよ」

「銃の知識は前世の記憶なのか?」

「そう。この世界はまだ銃は発明されていない。

 遠距離攻撃は魔法があるからねぇ」


 なんか学校のおじいさん先生と、話している気持ちになってきた。


「俺はなんとなく、人間の男だったこと以外、前世の記憶がない。

 あなたはどこまで記憶は持ってるんだ?」

「死んだときから今まで、だよ」

「死んだときは嫌だけど、覚えているは羨ましいな」


 心の底から俺は言った。

 自分が何者だったか思い出せないのは、ときどきとても辛くなる。


「心配しなくてもいいよ。

 必要なものは、何度でも君の眼の前に現れるからねぇ」


 優しい顔で賢者は続けた。


「覚えていないほうがいいこともあるよ」


 静かな声は不思議な実感をともなっていた。


「そういえば、ドワーフとの協力もあなたが?」


 俺は話を戻した。


「そう。私が提案したよ。

 ここはおだやかで暮らしやすい。

 焼き払われるのは困る」

「どうやってドワーフと話し合うのさ?」


 ラミが口を挟んだ。

 人獣族とドワーフの国は火山と高い尾根おねに阻まれている。

 確かにそこは気になった。


「魔法使いだけが使える水鏡があるんだよ」


 にこりと笑って賢者がいった。


「さて。おしゃべりは楽しいけど、日が暮れてしまうね。

 先に銃を試そう」


 結果を言うと銃はあまり使い物にならなかった。

 銃弾代わりに入れた金属の玉が詰まったり、

 撃った反動で銃身が壊れたりしたものが、多かったのだ。


「やっぱり難しいな……」


 ヴォルフが腕を組んでうなった。


「こんなもんだよ。むしろよく頑張ったほうさ」


 賢者はうんうんと頷いている。


「ニック、こんなんで聖国に勝てると思う?」


 ラミは半信半疑だった。


「俺も疑問だな」


 俺も、こんな不安定なもので戦うのは、無理があると思った。


「これは実験だからねぇ。これからだよ。 それに、他にも武器を作っているんだ」

「それなら安心だな」


 俺はほっと息をついた。

 まあ、賢者と呼ばれるくらいだから、きちんと考えているんだろう。


 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。

 台風が近くて、頭痛で書けませんでした。

 すみません。

 続きが気になる!これからどうなるんだろう?と思われましたら、

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