第12話 夕飯はシチュー

 前世の記憶をもつ賢者にあい、届けた荷物で銃をつくった俺たち。

 他にも賢者が考案した投石機やボウガンを見せてもらった。


「ここに聖国が到着するまでどのくらいかかるんだ?」


 岩のような大きな石を投げる投石機は、運ぶのに時間がかかるだろう。


「聖女のお告げが2ヶ月くらい前だから、あと3週間くらいだろうねぇ」

「あんまり時間がないんじゃ……」


 俺の不安をよそに、賢者とヴォルフは余裕がありそうだった。


「ここへくる途中に、争っている獣人族を見ただろう?

 あいつらは、ナワバリに知らない奴らが入ることを許さない。

 聖国も少し足止めされるだろうし、少しは消耗してくれるだろう」


 ヴォルフが言った。


「なるほど」

「聖国ほどじゃないけど、戦争ばかりだからねぇ。

 戦火をまぬがれるくらいには、私たちも戦いなれてるんだよ」

「そっか、1000年以上戦火がたえない世界だったな」


 俺は納得した。

 戦火がたえない中、それでもこのあたりがおだやかなのは、おそらくこの賢者がいるからなんだろう。


「そういうことだよ」


 賢者はやっぱりおだやかだった。



 そうやって話に花を咲かせているとすっかり夕方になっている。

 賢者は賢者でやることがあるらしく、ここで別れた。

 俺とラミはヴォルフの家にやっかいになるので、家事を手伝うことにした。

 夕飯のしたくのために、まずは薪置場から薪を運ぶことになった。


「ラミにたくさん運ばせて悪いな」


 俺の倍の量の薪を運ぶラミは、屈託なく笑った。


「これくらい村でやってたから大丈夫大丈夫!」

「村か……。ボルケニアは大丈夫なんだろうか?」

「おや、ニックったら心配性だね〜。

 今までもあの二人がまとめてきてるから心配ないよ。

 逆にニックが心配されてるんじゃない?」


 ニシシとラミが笑う。

 簡単に想像できて、俺は苦笑いした。


「そうかもしれない。ウビとルフは過保護なんだよなぁ」

「あの二人は村で一番の長生きだし、過去に色々あったらしいから。

 しょうがないよ」

「色々?」

「酒盛りしたときに聞いたんだけど、ウビ様は相当な悪女でブイブイいわせてたんだって。

 ルフ様もハイエルフの姫として、ブイブイ言わせてたらしい」

「ブイブイ……」


 めっちゃ酔っ払いの発言では?


「だから村にきたのは必然だったらしいよ」

生贄いけにえとして?」

「そう。ブイブイいわせた罰なんだって」

「本当に?」

「本当本当」


 ラミがコクンとうなずいた。

 あきらかにうそっぽいがあの二人だから分からない。

 そんなことを話していると、ヴォルフの家に到着した。


「おかえり。あとは火にかけるだけだ」


 大鍋に、ゴロゴロとした野菜がたっぷりはいっている。


「さて、久しぶりに火のないカマドをみるなぁ」


 ラミは火の気のないカマドに薪と木の枝を並べていく。


生贄いけにえが住むところは常に火があるのか?」


 ヴォルフが驚いたようにいう。


「そりゃあ、火の鳥ニックの村だもん。

 火が消えるなんてありえないよ。さ、ニック、火」


 端的な言葉でカマドへの火おこしを頼まれた。

 フッと息を吐くと、たちまち枝が燃え上がる。

 ラミが火加減を調整して、鍋を火にかけた。


「村に1体フェニックスがいたら楽だな」


 ヴォルフがうらやましそうだ。


「残念〜ニックは私たちのニックでーす!」


 ガバッと俺に抱きついて、ヴォルフを牽制するラミ。


生贄いけにえがこんなに自由に暮らしているなんて、みんなが知ったらひっくり返るぞ」


 ヴォルフは苦笑いだ。


生贄いけにえは外の世界では、どういうイメージなんだ?」


 そういえば俺は知らない。

 ハミのときはお金と引き換えに、生贄いけにえになったようだけど。


「死刑みたいなもんだな。男は首を落とされるのが死刑。

 女は生贄いけにえとして、“死の荒野”に連れて行かれるのが死刑の代わりになる」

「死の荒野?」


 また知らない単語だ。


生贄いけにえをおいておく場所が、火山のふもとの荒野にある。

 死刑執行人が魔法でそこまで生贄いけにえを送るんだ。

 ……本当になにも知らないんだな」


 ヴォルフにため息をつかれた。

 ムカついたが、ラミが優しくなでてくれるから気持ちが落ち着いた。


「でも死の荒野に連れていかれてからって、すぐにボルレスト……、村に行けるわけじゃないよ。

 選ばれないと村へつづく門があかないの」

「へぇ!」


 ヴォルフがラミの話に食いついた。


「選ばれなかったら?」

「うーん……?そこで死ぬんだろうね。

 白い骨が砂利みたいにひろがっててブキミだった」


 思い出したのか、ラミがブルっと身震いをした。


「あーもう!ご飯食べる前に話す話題じゃないよ!」

「そうだな」


 グツグツ煮えた鍋に、ヴォルフがミルクやいろんな粉を混ぜていく。

 鍋底に沈んでいた肉が、かき混ぜられたことで顔をだす。


「あーこれ絶対美味しいやつ」


 いい香りがしてきた。

 ラミが鼻をヒクつかせる。


「シチューみたいな香りだ」

「当たり。食べたことあるのか?」

「獣人族がつくってくれる。

 ヴォルフがつくったシチューはスパイスの香りが強いかな」

「コショウ強めが好きなんだ」


 ヴォルフもクンクンと香りをかいで満足そうにうなずいた。


 食卓では、いつものようにラミが食事の世話をしている。


「最初は人間だったんだから、人間になって食べればいいだろう?」

「そう思うだろう!ヴォルフもっと言ってくれ!」


 俺はクチバシでシチューを食べながら同意した。

 人の家だから汚さないようにいつも以上に気をつけている。


「えー楽しくないじゃん!」

「楽しいってなんだ?」


 ヴォルフは真顔で応戦する。


「だって、この世で一番偉大な存在が、不器用にがんばってきれいにご飯食べようとするのキュンってなる!

 そしてそのお世話は楽しい!」


 ラミが力説する。

 ちょっと何をいっているのか分からない。

 ヴォルフも食べながら首をかしげていた。


「まあ変身薬もそんなに持ってきてないし、ケチっとかないとイザってときに使えないでしょ!」


「水鏡を経由して持ってくればいいだろう」

「私は魔法使えないよ。

 それに、モノのやりとりは魔力が高くないと無理ってきいたけど」

「フェニックスは魔法が使えるだろう」

「え?俺?」


 食べるのに夢中で聞いてなかった……。


「炎がだせるのは、魔法が使えるってことじゃないのか?」


 ヴォルフは俺たちがなぜ分からないのか分からない、といった顔をしている。


「そっか」

「確かに!」


 ラミと二人して納得した俺たちを、ヴォルフは生暖かい目でみていた。


 ◆◆◆

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