第10話 依頼人

 岩をくり抜いたような家に近づき、ゴンゴンと扉を叩く。


 ガチャリ。


「はいはい。どなた様?」


 ドアを開けた人物は、毛むくじゃらの狼男だった。


「っ!」


 思わず声がでそうになるのを慌てて我慢する。

 ボルケニアにいるケモミミたちと同じだと思っていたら、全然違った。


 そして狼男も、俺たちを見て慌てだした。


「な、何だその格好は!毛がないじゃないか!」


 狼男が片手で目を隠しながら、大声で意味不明なことを言いだす。


「は?」

「人獣族は毛がないと、みっともないって文化なんだ」


 あっけに取られるとラミが教えてくれる。


「それよりもこの布をかぶれ!」

「ぶっ」

「ふへっ」


 狼男はカーテンみたいな布を俺らにかぶせた。


「……まったく、とんだ痴女だ!」

「郷に入らば郷に従え郷に入らば郷に従え郷に入らば郷に従え……」


 目を血走らせたラミがブツブツと呪文を唱えている。

 やばい。このままでは乱闘が起きてしまう。


「人を探してるんだ。

 この村のヴォルフさんてに、荷物を持ってきたんだけど」


「ヴォルフは俺だ。

 ……そうか、お前たちが……!

 とりあえず中に入ってくれ」


 眼の前の人が受取人のヴォルフらしい。


「ニックは人獣族ははじめて?」


 ラミが思いだしたように俺に話しかける。


「人獣族?ケモミミの獣人とはまた違う種族なのか?」


「そう。種族的には近いけどね」

「へえ、世間知らずなお嬢さんだ」


 ヴォルフが俺たちのために、お茶を用意してくれた。


「人獣族は獣人族の親戚みたいなもんさ。

 すぐ分かるのは見た目の違い。

 だけど、人にみえる獣人族のほうが、けものとしての本能が強い」


 ヴォルフが淹れてくれたお茶を飲みつつ、教えてもらう。


けものとしての本能?」

「欲望に正直といったら分かりやすいか?

 人獣はけものの身体に人の心をもつ。

 そして、獣人は人の身体にけものの心をもつんだ」


 ヴォルフの言葉に、村の獣人たちを思い浮かべた。

 確かにウビをはじめとする、ケモミミの獣人たちはかなり気まぐれだ。



「なるほど……。だけど、どっちがどっちか分からなくなるな」

「覚えなきゃいけないことでもないし、そこまで気にしなくていいでしょ」


 ラミはいつものように適当だった。


「とはいえ、俺たちと人間は違う。

 完全に人間と一緒だと思うんじゃないぞ」

「分かりました。色々教えてくれてありがとう」

「世間知らずだが、礼は心得ているんだな」

「当たり前でしょ!私たちのニックなんだから!」

「なかなか強い従者だな」


 ヴォルフの中では、ラミは俺の従者で決定のようだ。

 正確には違うが……。


「それよりも荷物をもらいたいんだが」


 ヴォルフが本題に話を戻す。


「渡してもいいが、いきなり押しつけられた荷物だ。

 あの荷物について俺に、ヴォルフの知っていることを教えてくれないか?」

「……フェニックス以外に教えるのは抵抗があるな」

「ニックがフェニックス様なんだからいいでしょ」

「このお嬢さんが?」


 ヴォルフは訳が分からないという顔で俺をみた。

 そっか、俺は人間になっていたんだった。


「ラミ、戻る為の水をくれ」

「はーい」


 服を脱いで一口飲めば、また白い煙とともに俺の姿がもどる。


「おお!フェニックスだ!」


 ヴォルフが感嘆の声をあげる。


「分かってくれたなら、教えてくれないか?」

「わかった」


 ヴォルフは目をつぶったり、手を組んだり外したりして、どう話そうかしばらく考えていた。

 そうして、決心して口を開いたのだ。


「結論からいうと、聖国にここが滅ぼされることが決まっている。

 だから俺はここを守ろうと、ドワーフに助けを借りたんだ」

「滅ぼされる!?」

「なんで?」


「フェニックスは聖国の聖女を知っているか?」

「知らない」

「ニックはこの間産まれたヒナなんだよ」


 ラミが俺のフォローをしてくれた。


「ずいぶんでかいヒナだな」


 ヴォルフがしげしげと見てくる。


「で、聖女ってなんだ?」

「ん、あぁ。聖女の話だったな。

 聖女は神のお告げを受ける存在だ。

 そいつが次の戦地を決める」

「じゃあ聖女が告げた次の戦地がここなのか」

「そうだ。このあたり一帯はそれぞれの人獣族が住む。

 村を作ってはいないが、それでも仲間として互いに協力して暮らしている」


 ヴォルフは続ける。


「そして、聖国は確実に滅ぼせるときしか攻めてこない。

 確実にここは焼け野原になるだろう」

「そうか、だからドワーフになにかの部品を頼んだのか……」

「ん?中身をみたのか?」

「え?ニックは中身知ってるの?」

「ああ……ウビが勝手に開けた」


 申し訳無さに声が小さくなる。


「あぁ〜村長代理はぶっ飛んでるからね……」


 ラミは納得していた。

 というかやっぱりあの二人はぶっ飛んでるんだな。


「中身をみて、何だと思った?」


 ヴォルフは怒るわけでもなく、静かに問うた。


「なにかの部品だと思ったが、よく分からなかったな」


 俺は正直に答えた。


「そうか。ならいい」

「だが、今の話をきくと武器の一部だろう?

 詳しく教えてくれ」

「いいがどうしてだ?」


 ヴォルフは探るように俺を見た。

 するどい狼の瞳が、俺の心をあばこうとする。


「俺には世界を平和にしなければならない。

 絶対に、やり遂げなければいけないんだ」


 俺は甘やかされるだけのヒナじゃダメなんだ。


「そのために、俺は聖国の侵攻を止めたい」


 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。

 続きが気になる!これからどうなるんだろう?と思われましたら、

 ★評価とフォローをお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る