第9話 あだ名ができました

 謎の男に託された荷物を運びに出て数時間。


「はやーい!さーいこーう!」


 ラミはまったく疲れずに空の旅を楽しんでいる。


尾根おねが見えなくなってきた。

 ここから地上近くを飛ぶぞ!覚悟はいいか!」

「もちろん!腕が鳴るね!」


 雲を抜け地上へ。

 相変わらず血なまぐさい。

 間髪入れずに矢が、飛んできた。


「フェニックス様!左!」

「うおっ!?」


 ラミが俺の指示をする。

 言われたとおりに飛んでかわす。

 これは便利だ!


「フェ……長い!ニック右!ニック下!」


 いきなりあだ名を作られた。

 それにツッコむ余裕もなく矢をよけ続ける。


「クソっキリがない!」


 ラミが言うとおり、延々と矢が飛んできて息をつく暇もない。

 よけそびれた矢が届いてしまった!


「やばっ」

「げっ」


 ガキンッ!


 あと少しというところで矢が弾かれた。

 ラミの加護 防御だ。

 すっかり頭から抜けていた。


「助かった……」

「あ、加護……」

「……」

「……」


 少しの沈黙。


「へへっ」


 頭をかくラミ。


「忘れてた」


 ちょっとかわいい。


「俺も忘れてた。この防御なら矢を突っ切れる」


 ラミの加護で防御できるとはいえ、キリがない。


「やっぱり進みにくい!ニック!

 高度をあげよう」

「分かった」


 ギュンと上にあがると地面で怒号が聞こえる。


「へへっ、ざまーみろ!」


 ラミが、地上の兵士たちへよろしくないサインを送った。


「バカ!あおるな!」

「平気だってー!」


 ドォン!


 投擲機とうてききで岩が投げられる。


 狙いはズレていたので、結構遠くに岩が上がった。

 当たっていたら防御で防げたかどうか……。


「ほらみろ!」


 怒る俺に少しは悪いと思ったらしい。


「ご、ごめんね」


 しおらしい口調はラミらしくなくて、ちょっとだけかわいかった。

 雲を突っ切って、上空へ戻るとようやく一息つけた。


「あー疲れた……」

「どこでも兵士がいる……」

「さっきのあれは獣人族だろうね」

「獣人……」

「警戒心も強いし、縄張り意識も強いからすぐにお届けは厳しいだろうね」

「そうか……」


 村にいるケモミミたちを思い浮かべた。


「ボルケニアの獣人たちはおだやかだけどな」

「そりゃ私たちは身内だから!他人ならボッコボコよ!」

「怖っ」

「さらに言うと、獣人たちに身体能力で戦うと負けるよ」


 確かに、村の獣人たちは体を使った仕事が得意だ。


「陸の獣人は大丈夫だけど、空飛ぶ獣人がいたら大変だ」


 びびる俺。


「その時はその時さ!」


 元気よく言い切るラミ。


「なんにも考えてないんだなぁ」


 そうして飛び続けること丸一日。

 兵士を気にしつつ、荒れ果てた森の中へ着地した。


「木々が枯れている」

「昔、ここでも争いがあったんだろうね」


 枯れたり、痩せて元気がない木々の間を、兵士たちに見つからないように歩いていく。


「場所は違うけど、私が出ていったときと、まったく変わらないな」


 ラミが木々を見渡して残念そうにつぶやいた。


「ラミはいつ生贄いけにえに?」

「80年くらい前かな?」

「おばあちゃんじゃん……」

「まさか、100歳超えたら一人前なんだよ」

「そりゃ長い話だ」


 長寿の種族が多いのか。


「ドワーフは手先が器用で、何でも作り出すことができる種族なんだ。

 でも私は作ったものを使うほうが好きでね。あんまり馴染めなかった……。

 それなら新天地に行って楽しむ方がイイだろ?」

「死ぬのと同じだぞ?」

「スリルのためなら死んでもいいさ。

 それが私なんだ」


 ラミもなかなかぶっ飛んでるやつだった。


「さて、ニック。休憩しよう」


 岩に隠れるようにして休みを取る。

 俺は平気だが、ラミは疲れたりお腹が減るので、それに合わせる。


「ニックも飲みなよ」


 水を渡され、疑わずに飲む俺。


 一瞬煙が巻いたと思ったら、見覚えのある小さな手がでてきた。


「ま、また女の子……」


 赤髪のかわいい自分にガッカリする。

 俺じゃなかったら、かわいいのはいいんだ。

 俺じゃなかったら……。


「鳥のすがたは、目立つんだよ。光ってるし赤くて大きいし」

「それを言われるとどうしようもない……」


 リュックからいつの間にか用意されていた服を取り出して、鼻歌まじりに俺に着せるラミ。


 ストンとしたシンプルなワンピース。

 足の周りに布がまとわりつくが、しばらく服を着ていなかったのでこんなものかも知れない。


「かわいい!」


 ラミが褒めてくれる。

 髪もまとめてもらうと本当に女の子になった気分だ。


「いざとなったら私が抱えて逃げるからね!」


 ラミは、キラキラとした目でガッツポーズをした。


「勘弁してください……」

「今日はここで野営だね。お姉ちゃんが守るから安心して寝なさい」


 急にお姉ちゃんぶるラミ。

 この間も姿が変わった途端に、あつかいが変わって戸惑ったんだった。


「俺は寝なくても平気なんだけど」

「じゃ、お姉ちゃんが寝るから!

 見張りよろしく!」


 ラミはあっという間に寝てしまった。



 ラミは本当に朝まで起きなかった。

 特に何もなかったし、それは良いとして……。


「うわっ!すべった!」

「ニックは人間だと動くの下手だねぇ」


 スイスイと進むラミに助けられながら、ぎこちなく岩場を歩く。


「俺も歩くのが大変だなんて思わなかった。

 飛んだほうが楽だ」


 飛べば大した距離じゃないので、もどかしい気持ちになる。

 そんなこんなでゴロゴロとした岩場を歩くこと半日。


 明かりが灯る場所が見えてきた。


「ここがお届け先の集落だね。名前はヴォルフさん、か」


 スタスタと歩いていくラミ。

 まったく警戒していない。


「ラ、ラミ!誰かに見られたら……!」


 散々追いかけ回されたのがトラウマの俺は、ラミの腕も引っ張る。

 俺の不安そうな顔ににっこり笑ったラミ。

 よくわからんが手をつながれた。


「だーいじょうぶ!ラミお姉ちゃんにまかせな!」


 そのままブンブンとつないだ手を振りながらラミは近くの家に進んでいった。


 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。

 続きが気になる!これからどうなるんだろう?と思われましたら、

 ★評価とフォローをお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る