第3話 美女だらけの村 ボルレスト

 ど忘れ防止の脚輪と、名前・種族を知ることができる脚輪をもらった俺。

 村をまとめる二人の妖艶な魔女に、色々と説明を受けた。


「さて、村を案内しようぞ!」


 元気よくウビが言った。

 ケモミミとシッポを動かして上機嫌だ。


「この聖なる大樹、ボルレストは生贄いけにえが住むための樹じゃ。

 食べものも枝に実るし、飲み水も根が吸い上げる地下水を使える」


 説明役はルフのようだ。


 俺は彼女たちの後ろをついて歩く。

 ふたりとも背中がまる見えだ。


「ウビ様、ルフ様。いってらっしゃ〜い」

「戻ってきてね!」

「フェニックス様、またお話しましょう!」

「お気をつけて」


『エノ。光の精霊』

『ロコ。獣人・ウサギ』

『サク。ダークエルフ』

『厶ル。人間』


 ここで、みんなと別れだ。

 にぎやかさが消えて少しさびしい気もする。

 そして改めてみると、みんなへそ出しだったり、太ももを大きく出している。

 ……うん、肌の面積が多い。


 ルフとウビの背中を追い、階段をおりる。

 外のらせん階段かと思ったが、木の内部を通る階段だ。

 外のように明るくて、豪華なホテルを歩いている気持ちになる。

 階段のはばも広く、余裕で3人並んでおりられた。


「みんな、名前が二文字なのか」

生贄いけにえになると名前がとられるのじゃ。

 元の名前を持ったままだと、このボルレストに近づくことすらできぬ」

「さびしいな……」

「なに、生贄いけにえになる時点で、母国から捨てられたも同然。

 そして、見知らぬ世界に入ることは、死んだも同然。

 みな覚悟の上よ」

「厳しい世界だな」

「いちおう生贄いけにえじゃからな」


 ルフが複雑そうに笑う。

 階段をおりたら駅前にある、広い歩道橋のような大きな空間があった。

 あたりには、さまざまな建物や洞穴が立ち並んでいる。


「樹の中に屋根つきの建物……」

「初めてきたものはみな驚く。魔法で造られておるのじゃ」

「なるほど」

「種族によって好みの場所に住んでおる。快適じゃぞ。

 フェニックス殿もすぐに気にいるだろう」

「飲み水はあそこからくむのじゃ!」


 樹のくぼみを小さい滝が流れている。

 水くみをしている女性たちがいた。

 おばあさんもいて、俺は少し安心した。

 もちろん格好は海外のバカンスみたいな服装だが。


「あら!フェニックス様!」


『ミア。人間』


 栗色の髪をまとめた女性が、俺を見て声を上げた。

 ミアの声に水くみの女性たちが、俺をとりかこんで口々にはなしだす。


「500年ぶりにおさのおかえりじゃ!これからにぎやかになるぞ」

「初めてみたわ」

「絵画とおんなじね」

「本物のほうがキレイだわ。羽をくれないかしら?」

「そりゃ、旨い酒が呑めそうだ!」


『ラミ。ドワーフ』


 ミアはスラリとした美脚だが、ラミは筋肉質で、プリッと上がったおしりがなかなかの女性だ。

 ラミがかかえたカゴからモモをくれた。


「フェニックス様、これ美味しいぞ」


 おいしそうに熟れた桃だ。

 水くみ場において、座ってついばむ。

 意識してなかったが、初めて座った。

 こんなふうに座るのか……。

 分からなかったとはいえ、ずっと見下ろしてしまってあの子達に悪かったな。


「とろける果肉がジューシーで甘い!」

「お気に召したようじゃな」

「毎日でも食べられるぞ!」


 ドワーフも露出が高い。

 みんな水着みたいな格好にみえる。

 いや、下着か?

 俺のばあちゃんも、俺が幼稚園くらいのときにシミーズ1枚で回覧板を届けてたな……。


「しかしここは暑いのか?全員、下着みたいな服だ」


 思わず口に出してしまった。


「そりゃ火山の熱がねっこを伝わって、ボルレストを暖めているからな!

 氷使いが重宝されておるくらいじゃ。

 あっはっは!フェニックス様は火の鳥だから気づかんのか!」


 豪快に笑うウビ。

 ちょっとバカにされた気分になった。


「男のおらん村じゃ。正直、ハダカで暮らしても良いくらいじゃな」


 ルフもニヤニヤしながら言ってくる。


 周りの女性がわざとらしくキャーと叫んだ。

 おばあさんも自分の胸をわざとらしく隠しだすし……。

 もれなく全員にからかわれている俺。

 フェニックスとしての威厳はゼロである。


「なんじゃ、ルフ。わしがハダカで歩き回ったら怒ったくせに」

「本当にハダカで暮らすとは思わなんだ!

 見苦しいかっこうでウロウロしおって……」

「あの爽快さが分からぬとは……まだまだじゃのう」


 ウビとルフはもはや違う話になっていた。


「あの、ルフ様……」


 盛り上がりが落ち着いたころ、ミアが困ったようにルフへ話しかけた。


「なんじゃ?ミア」

「また、お鍋に穴開いてしまいました」


 せっかく、くんだ水がポタポタと鍋底からもれている。


「この間直したのにのう」

「鍋の寿命じゃな。200年も使えば壊れるじゃろう」

「200年も持った鍋のほうが凄すぎるぞ」

「え?」

「そうか?」


 俺の言葉にルフもウビもキョトンとした。

 すこしあどけない顔が可愛らしい。

 しかし、俺のほうがおかしいのか?


「うーん、困ったのう」

「最近は生贄いけにえみつぎ物をつけなくなったから、少し不便じゃ」


 なんとなく分かっていたが、念のために聞いてみる。


「この村からは出られないのか?」

「うむ。死んでも母国の土は踏めぬ」

「だいぶ厳しいオキテの村だ」


 俺は言った。


「外の方が地獄じゃ。……しかし鍋は地獄でしかつくれぬな」

「魔法で料理できないのか?」

「できるが、味の好みがみな違うから作るのが大変じゃ。

 それに魔法が使えないものは、毎回頼むことになる」

「それにミアの趣味が料理じゃからな!楽しみをうばうのはよくない」


 魔法もある程度、制限があるようだ。

 そもそも、趣味ならしょうがないか。


「そっか……鍋はつくれないのか?」

「原料が無いのじゃ」

「鍋は魔法で直せないのか?」

「新しい鍋を買うほうが良いではないか。

 世界は日々進化しておるのじゃぞ?」


 ……魔法を使う気はなさそうだ。

 俺は迷って口を開いた。


「と、いうと?」


 ルフとウビがズイッと近づく。

 思わずのけぞるが、やんわりと頭の位置をもどされた。


「ニブいのぉ。フェニックス様」

「分かっておるのじゃろ?とぼけるなんて趣味が悪いぞ!」


 俺の耳元で二人がささやく。体をなでまわすサービスつきだ。

 首が、左右からのおっぱいにむにゅ♡っと挟まれている。

 凶暴なパイ圧でつぶれそうだ。


「お、つ、か、い♡」

「た、の、ん、だ♡」


 くそっ、いい女に触られてるのに!

 鳥だから何にもできない!

 俺は二人からただよう、いい香りを思いっきり吸い込むしかできなかった……。


「そうだ、ついでに手紙を届けてくれ。

 新しく来た娘が病弱な母を心配しておったのだ。返事も頼む」


 ルフがスッと離れて言ってきた。


「それはアリなのか?」

「うむ。むしろそれがフェニックス殿の仕事でもある。

 生贄いけにえを通じて諸国に興味をもち、あわよくば争いを鎮めるのじゃ」

「先代のフェニックス様にもよく飛びまわってもらったものじゃ。

 なんであたしばっかり!ってキレられたのう」

「先代は女性だったのか」

「おそらくな、“あたし”って言っておったのは覚えておる」


 たぶん、おつかいが嫌になって、フェニックスを辞めたのでは?

 そんなバカみたいなことを考えながら、まだ見ぬ世界にワクワクしていた。


 こうして俺の初めての配達が始まったのだ。


 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。

 隔日一話更新予定です。

 続きが気になる!と思われましたら、

 ★評価とフォローをお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る