第4話 はじめての死亡と生き返り

 火山の熱のおかげで、露出の高い薄着になっている村人たちにからかわれまくった俺。

 流れで手紙の配達と鍋を買ってくることを頼まれてしまった。


 手紙の依頼主は、栗色の髪に青い目の女の子だった。

 10歳くらいだろうか、薄手のワンピースのすそをぎゅっと握りしめている。

 おそるおそる俺に近づいてきた。


《ハミ。人間》


「こ、こんにちは……」


 おとなしそうな子だ。


 露出の高いルフとウビを見て顔を真っ赤にしている。

 気持ちは分かる。

 やっぱり俺のほうが正しい感性を持っていたのだ。

 少数派なのは別として。


「君のお母さんに手紙を届ければいいの?」

「はい……お母さんの治療費のためにここに来たんです……ぐすっ、でも、お母さんが不安で……」


 母親を思い出したんだろう、涙声で話してくる。


「優しいんだね。俺も頑張って届けるよ」


 できるだけ不安にさせないように、優しく答える。


「お願いします……」


 ハミはぎこちなく笑って、手紙を書くために部屋に戻っていった。


「おとなしい子だな」


 小さな背中を微笑ましく見送って、俺はつぶやいた。


「同じ年の子とは仲よくしておるからな。

 まだまだこれからよ」

「ここはあけすけな者しかおらんから、新鮮じゃな!」


 ……あけすけの代表が何をいってんだ。



 ――数日後。


 ハミの手紙も書き終わり、いよいよ出発だ。


「ハミの国はここから東にあるソラル聖国じゃ」


 地図を見せてもらい、場所を確認して……。


「いってきます!」


 みんなに見送られて空を飛んだ。

 目指すは東。

 ボルマン火山は、実はとても高い山だった。

 聖なる樹 ボルレストしか見ていなかったが、ここは雲よりも上らしい。


「下が雲しかみえないな」


 スイスイとすべるように進むが、ボルマン火山に連なる尾根おねしか見えない。


「この尾根おねが東と西にまたがってるのか。

 分かりやすくて助かる」


 左と右の大きな尾根おねが南北を分けているそうだ。

 しかし近年の技術革新により、たやすく行き来できるようになっているらしい。


「やっぱり空を飛ぶのは最高だ!」


 爽快に羽ばたく空は俺しかいない。


「魔法は便利だなぁ。絶対になくさないなんて」


 荷物はお腹側にリュックをつけている。

 ルフとウビが用意してくれたものだ。

 出発前夜のやりとりを思い出す。


「このリュックはフェニックス殿が望めばなんでも収納できるのじゃ」

「フェニックス様はおっちょこちょいじゃからな!

 お金を落とすかもしれん!ちゃんと考えたわし、エラい!」


 今思い出しても一言多いキツネの魔女。


「……失礼なウビだ」


 頭の中でウビを思い浮かべた。

 ……エロい。

 歩くたびにゆさゆさ揺れる巨乳と、フリフリ揺れる黒くてふさふさなシッポとお尻。

 たまに意味深に笑う唇の形もたまらん。


「いやいや、唇ならルフのが好みかもしれない」


 ルフは唇がぷっくりとしていて、とても色っぽいのだ。

 おっぱいのハリもルフの方がある気がする。

 ぷりんっ!としているのだ、ぷりんっ!と。


「あー……なんで俺は、鳥なんだ……。

 俺は一応、あの村の村長なんだろう?

 もっとウハウハでもいいのに……」


 誰もいない大空は独り言が言い放題だ。


「まず、なんで鳥?マジでなんで?

 いや、鳥じゃないのは確かなんだ。

 人間の男だった。

 うーん……その他が思い出せない……」


 考えごとをすると一瞬だけ、現代の記憶がよみがえることもある。

 だが、改めて思い出そうとするとまったく思い出せない。


「お、尾根おねの終わりだ。

 地図によると、ここから北東に少し行って湖の近くだったな」


 頭の中で地図を思いだす。

 雲をつきぬけて、頭を出していた尾根おねが、どんどん低くなっている。


 ワクワクした気持ちを胸に、俺は雲の中につっこんだ。



 雲をつきぬけた先の地上は、血なまぐさい世界だった。


 おびただしいガイコツが積まれた丘。

 あちらこちらで煙がもくもくと出ている。

 飛び続けると、ガイコツではない腐った何かが積まれていた。


「これは……地獄だ」


 何千年も戦が終わらないと聞いていた。

 こういうことなのか。


 ――この大陸の、どの場所よりも天国よ。


 そう、ルフが言っていた。


「本当にそうだな」


 旋回せんかいしながらあたりを見ていると、地上から無数の矢が飛んできた。


「え?ええ?え?」


“よける”という選択が頭から抜けた俺は、ビビってかたまってしまった。

 上空で止まっている俺。


「わっ!」


 矢が首や腹、脚に突き刺さる。


 やられる!そう思ったとき、眼の前が燃えた。

 比喩ひゆではなく真っ赤な炎が俺を包んだのだ。


「なんだあいつ!」

「燃えているぞ!」

「火矢を使ったのか!?」


 落下しているらしい。

 複数の男の声が聞こえる。


「なんだ?この灰の山は?」

「そんなにすぐに燃えつきるのか?」

「モンスターかもしれん、気をつけろ」


「あぁ~~びっくりした〜」


 サラサラな灰の山から俺は頭を出した。

 眼の前にはびっくり顔の兵士たち。


「こいつ!死んだはずじゃ!」

「ひぃ!ゾンビ!」

「バケモノだ!!」


「あぶね!」


 兵士たちが槍を振り回してきた。

 走って逃げる俺。


「追いかけないでー!」


 武器を持つ、ゴリラみたいな奴らに追いかけられる。

 駅前で、酔っ払いがケンカしててもビビるのになんだよ!


 目の前で木が燃えている。

 そのまま突っ込んだ。


「あいつ、自分から死にに行ったぞ」

「ばかめ!」

「無駄な時間だった。持ち場に戻るぞ」


 追いかけて来た兵士たちは、しばらく様子を

 見たあとどこかへ消えていった。


 そこから更にしばらくして炎から出る。


「やべぇ死ぬとこだった」


 俺はごうごうと燃える木を振り返った。


「ここに隠れられて良かった。

 本当に火には強いんだなぁ」


「は!荷物!」


 胸をのぞくと出発前となにも変わらないリュックがある。

 荷物は無事だ。


「さすがウビ様!いや?ルフ様か!

 無くしたらトンデモナイところだった」



 ――フェニックスが荷物の安否にホッとしている頃のボルケニア。


「「ぶぇっくしょーい!!」」

「お二人とも、お風邪ですか?」

「フェニックス殿が私たちのウワサをしているんじゃろう」

「フェニックス様まで悩殺するとは……罪なわしじゃ!」



 ――話は戻ってフェニックス。


「どうしよう……」


 兵士から逃げてホッとしたが、新たな問題に翼で顔をおおうしかない。


「追いかけられたせいで、迷った……」


 俺は方向が全く分からなくなっていた。

 ここは地図で見た平地だと思うんだが、その平地はとても広いのだ。


「飛びたいが……。また落とされたら嫌だなぁ」


 大きな翼を、手のようにバッサバッサと振りながら絶望する俺。


「夜まで待つか……」


 もうすぐ日が暮れるだろう。


 それから俺は兵士に見つからないように飛び回った。

 目的の湖を探すのに、結局丸一日かかってしまったのだ。


 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。

 隔日一話更新予定です。

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